嫌じゃない?
お久しぶりです、生きております(_ _)
距離を感じていた今岡。
帰り道、鳥塚に訊かれる。
「……触りたすぎる――!」
昼休み。
鳥塚肇と上浦俊一と一緒に昼食を終えた今岡育は、図書室に用があると言って教室を出ていき、鳥塚は机に突っ伏して内心を吐き出していた……。
「こんなに欲求が強いだなんて、思ってなかった……。上浦に言われて、その日今岡に一緒に帰ろうって声掛けたけど、その時だって抱き締めたくて堪らなかった……。でも抱き締めたりしたら絶対今岡怒るし……」
どうにもならん……と口から溜め息を吐く鳥塚に、上浦 俊一は「そりゃそうでしょ」と言ってから続ける。
「公の場だから怒るんでしょ、今岡は。たぶん公の場じゃなければ怒らないんじゃない?」
「そうなのか……?」
「たぶん――」
上浦の言葉に、鳥塚は希望を見出したのか、机から起き上がって「てことは……?」と考えながら口を開いた。
「公の場じゃなければ、イチャついても良いってことか?」
「まぁ、そのまんまだよね」
「そっか、そうだよな――。でも、次今岡を抱き締めたりしたら、ほんとに襲っちゃいそうなんだよなぁ……」
「ぐぅッ……」と頭を抱える鳥塚に、上浦は単純な質問を投げかける。
「今岡はどう思ってんの?」
「え……? どうって?」
「鳥塚とイチャつくことに対して。嫌ならそりゃもちろんダメだけど、公の場じゃなければ鳥塚とイチャついても良いとかさ――」
上浦の質問に対して、鳥塚はこの前部屋でキスをした時のことを思い出して少し考える。
今岡が意識してそうしたのかはわからないが、首に腕を回してきていたし、床に倒した時に身体に触れようとしたら、そんなにいいもんじゃないと言いつつも、拒絶はされなかった。
「……ちゃんと訊いたことはないけど、嫌なわけじゃないとは思う……」
「なら、ちゃんと理由話してイチャつきたいって伝えれば。今岡だってちゃんと考えて答えてくれるだろ」
「う〜ん……」
まだ決心出来ないのか、腕を組んで項垂れる鳥塚に、上浦はとどめを刺すように言った。
「このままずっとイチャつけなくてもいいのか? これから夏休みとかイベント盛り沢山なんだぞ。今の内に話しといた方が、絶対後悔しないと思うけど」
「うっ……だよなぁ〜……わかった。話す。今日の帰り、今岡と話す――!」
「いいね、その意気だ!」
ぐっと拳を握った鳥塚に、上浦はぐっと親指を立てて見せるのだった。
*
その日の帰り。
鳥塚は、今岡と一緒に帰路に着いていた。
「……何かあったのか?」
「え?」
どこか上の空の鳥塚に、今岡は気になって声をかけた。
「いや、なんか、会話してても心ここに在らずって感じだから、何かあったのかな、と」
「え、ぁ、ごめん。ちょっと考えてたっていうか、はは……」
どうイチャつくイチャつかないの話題に繋げようか考えていたせいか、返事が疎かになってしまっていたらしい。
今岡が心配そうな顔で鳥塚を見るので、鳥塚はもういいかと単刀直入に訊いた。
「今岡はさ、俺とイチャイチャしたいとか思う?」
「は……?」
「俺は、その、今岡とイチャイチャしたいんだけど……。ハグとかキスとか、ぶっちゃけその先もしたい。というか、今岡に触りたくて仕方なくて……でも、今岡が触られたくないとか、イチャイチャしたくないっていうなら、なるべく控えようと思って……」
「ぐっ……」と苦い顔をする鳥塚に、今岡は少し考えてから、黒の四角いメタルフレームの眼鏡をくいっと押し上げて答えた。
「イチャイチャしたくないわけじゃないが……、それなりならしてもいいと思う――」
「ほんとに?! 抱き締めていい!?」
バッと両手を広げた鳥塚に、今岡は「今じゃないからな!」とツッコんで続けた。
「誰かに見られる可能性のある場所は出来るだけやめろ、わかったな」
「……善処する」
「善処ってなんだ、善処って。やめろよ」
「善処する」
「お前な……」
呆れたような顔で今岡が溜め息を吐くと、鳥塚は「仕方ないだろ」と反論する。
「絶対にイチャつかないって約束出来ないし、ここで約束して、もし守れなかったら今岡怒るだろ」
「それは、そうだな……」
「出来ない約束はしない主義なんでね――」
と鳥塚が胸を張って言うので、今岡はそういう問題じゃないだろ、と思いながらも話題を変えた。
「……もしかして、最近妙に距離取ってたのって、俺に触らないようにか?」
「そ、うだけど……」
ゆっくりと鳥塚が目を逸らすので、今岡は「なんだ、そうだったのか」と小さく呟く。
「何かいつもと違うなと思ったのは、そういうことだったのか、なんだ、そうか……」
少しほっとして、今岡は小さく息を吐いた。
「鳥塚にとって、何か嫌な事を知らないうちにしてたのかと思ってたから――よかった」
そう苦笑いしてから、今岡は前を向く。
鳥塚はそんな今岡を見て、ふと足を止めた。
「……どうした?」
「今岡は、嫌な事してないから」
「ぉ、おう……?」
振り返った今岡に、鳥塚は真剣な眼差しで続ける。
「なんなら、俺の方が今岡に迷惑とか掛けてるし、俺の方が嫌な事してるかもしれない――。今岡は、俺に触られたりするの、嫌じゃない?」
あまりにも鳥塚が不安そうな顔で訊いてくるので、今岡も真剣な眼差しで答えた。
「……嫌な事は、されてない。触られたりするのも、その……嫌じゃない。だから、変に距離とか取らなくていいし、今まで通りでいいぞ。度が過ぎてたら怒るけどな――」
それからふっと今岡が表情を和らげる。
そんな今岡に、鳥塚は嬉しそうに笑って駆け寄ると、一方的に肩を組んで引き寄せた。
「っ?!」
「ありがとう、今岡。大好き」
「はっ!? ちょッ、離れろ! 近い!」
「肩組んでるだけだし、大丈夫大丈夫」
「お前なぁっ……」
全く離れる気のない鳥塚に、今岡は内心ドキドキしながら続ける。
「誰かに見られたらどうするんだ……!」
「仲良いくらいにしか見られないって。上浦みたいな一部の人だけが、勝手に想像して盛り上がってんだよ。だから大丈夫。考えすぎ考えすぎ――」
そう鳥塚は肩を組んだまま歩き始める。
そういうもんなのか?と思いながらも、今岡もつられて歩き始めた。
「……歩きにくいんだが?」
「でも嫌じゃないだろ?」
「それは……」
そうだが……と今岡が難しい顔をすると、鳥塚は笑って言った。
「ならいいじゃん、別れ道まで行こう」
「別れ道までな……」
隣で嬉しそうに笑う鳥塚を見て、まぁ、元に戻ったならいいかと、今岡は小さく笑うのだった――
別れ道まで来た。
鳥塚「じゃ、また明日!(笑顔)」
今岡「あぁ、またな(いつも通りだ、良かった)」