表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋の路  作者: 本谷文途
22/24

寂しい……?

お久しぶりです(_ _)


最近、鳥塚と距離があるような…?

「あれ? 今日は鳥塚(とりつか)いないんだ?」


 昼休み。

 自分の机でお昼を食べようとしていた今岡(いまおか)(いく)に、購買で買ってきたであろうパンとペットボトルのジュースを持ってきた上浦(かみうら)俊一(しゅんいち)が訊く。

 いつもであれば、鳥塚 (はじめ)が今岡の隣に椅子を持ってきて食べているのだが、今日はいなかった。


「ん? ……あぁ、別に約束してるわけでもないしな。他の友だちと食べてるんじゃないか?」


 「俺と違って、友だち多いだろ」と今岡は弁当箱を広げる。

 上浦も「そっか」と返事をして、今岡の前の椅子を後ろに向けて座った。


「……てか、なんか距離ない? 最近鳥塚から今岡に声掛けてんのあんまり見ないし……。この前、やっぱなんかあった?」

「べ、つに……」


 と言いつつも、今岡はこの前鳥塚を家に呼んだ日のことを思い出して、言葉に詰まる。

 鳥塚にキスをされ、その先に進みそうになったなんてことを言えば、上浦から「詳しく」と言われることは目に見えている……。


「なに? 一線越えちゃった?」

「――ぶふっ!!」


 思わず盛大に噴き出した今岡に、上浦は驚いたように目を見張る。


「えっ、ほんとに?!」

「なわけないだろっ!?」


わざとらしく口元を隠す上浦に、げほげほと今岡は咳込みながら否定する。


「……こ、越えてないし、キスされただけで、未遂だ……!」

「へぇ……、へえ〜〜??」


と上浦は怪しいというようにニヤつくので、今岡はムッとしながら口を開いた。


「お前な……、姉ちゃんみたいな反応するなよ! それが一番嫌なんだが?!」

「これはもう(さが)よ、腐ってる人間からしたらもう、ね……!」

「ね……! じゃねーわ――!」


 ぎゃいぎゃい言い合いながらも、上浦は「まあまあ」と続ける。


「そんな怒んないでさ――。真面目な話、ちょっと寂しいとか思わないの?」

「え? ……うーん……」


 と今岡は少し考えてから「どうだろう……」と首を傾げた。


「一緒に居たぶん、なんか、慣れない……? いや、付き合う前の距離感だから、これが普通な気がするんだが……そうじゃない、というか……?」


 上手く言葉に出来ないな……というような今岡は、眉間に皺を寄せて目を細める。

 そんな今岡に、上浦はふっと微笑んで言った。


「なぁ、それが寂しいってことじゃないの?」

「ぇ……? ……そう、なのか……」


 上浦に言われ、今岡は眼鏡を押し上げてから少し赤くなる。

 そんな今岡に、上浦は確認するように訊いた。


「鳥塚、誘わなくていいの?」

「ん、……まぁ。何か理由があって来ないだけだと思うし、無理に聞くこともないだろ。時の流れに任せる――」

「そう……」


 そう苦笑混じりに言って弁当を食べ始めた今岡は、上浦にはどことなく寂しそうに見えるのだった――。


            *


「――今岡いるか? 確か今日、日直だったよな。ちょっとプリント運ぶの手伝ってくれ」

「わかりました――」


 六時間目終わり、今岡が担任に呼ばれて出ていったのを確認してから、上浦は鳥塚のもとに向かった。


「――鳥塚、ちょっといい?」

「おう、なに?」


 帰る支度を始めていた鳥塚に、上浦は単刀直入に訊く。


「ずばり訊くけど、今岡のこと避けてない?」

「えっ……」


 「そんなことは……」と言いながら、鳥塚は目を泳がせる。

 上浦はやっぱりと小さく溜め息を吐いて、鳥塚に言った。


「最近鳥塚から今岡に話し掛けてんの見ないから、何かあったのかって今岡に聞いたら、キスされたって言ってたけど」

「は……っ?! 他は何か言ってた!?」

「いや、特には。……何かやらかしたの?」

「えっ、いや……、やらかしてはない、けど……」


 そう言いつつも鳥塚は少し赤くなって、言いづらそうにもごもごと続ける。


「その……、調子乗って、めっちゃキスした……」

「そんなに?」

「はい……」


 「理性が仕事してなかった……!」と、思い出したのか鳥塚はおもむろに頭を抱えた。


「……それから、今岡に触りたい欲求が最近凄くて――でもそんなことしたら絶対今岡に引かれるし、ちょっと距離をとろうと思って……。そしたら少しは収まるだろうと……」


 ぐぐぐ……と頭を抱えたまま呻くような声を出す鳥塚に、上浦は収まってないんだな……、と苦笑する。

 それから安心したように笑って、鳥塚に言った。


「良くはないかもだけど――それなら良かった。今日の昼、今岡ちょっと寂しそうだったから」

「え……?」

「俺が見る限りね。ほんとかどうかはわからないけど――」


 「とりあえず、伝えたから」と上浦は言い残し、自分の席に戻っていく。

 残された鳥塚は、自分の欲求と今岡の悲しい顔を天秤にかける。

 ……天秤にかけるまでもなく、今岡の悲しい顔の方が重いのはわかっている。


「寂しいとか、思ったりしてくれてんの……?」


 独り呟いて、鳥塚は「はぁ……」と机に伏せた。

 もし仮に、今岡が寂しいと思っているのなら、欲求に負けている場合ではない――。

 鳥塚は小さく深呼吸をしてから、頑張れ理性……!と気合いを入れるのだった。


            *


 ホームルームも終わり、それぞれ委員会や部活、帰宅するのに動き出し、鳥塚も今岡に「一緒に帰ろう」と言う決意をしていた。


「……あれ?」


 が、気付いた時には今岡の姿はなかった。

 机の横にはまだリュックが掛かっているので、帰宅してしまったわけではないようだ。


「待つか、……」


 とりあえず、鳥塚は今岡が戻ってくるのを待つことにする。



 ホームルーム終了後、担任にまた呼ばれ、職員室に居た今岡は、やっと解放されて教室に向かっていた――。


「はぁ……、ついてないな……」


 疲れた……と今岡が教室に入ると、机に伏せている鳥塚が視界に入った。


「鳥塚……」


 ふいに名前を呼んでいて、今岡は慌てて口をつぐむ。

 もし寝ていたら起こすのも悪いと思ったのだ。

 だが、なぜ寝ているのか、体調が悪いのか……?

 そう考えて、今岡はおずおずと鳥塚に近付いた。


「ぉ、おい、鳥塚……?」


 軽く肩を叩きながら、今岡は声をかける。


「……体調悪いのか?」


 少し揺さぶると、鳥塚は「んん……」と小さく声を発して起きた。

 軽く目を擦る鳥塚に、起こしたらまずかっただろうかと思い、今岡は弁明を始める。


「あの、ただ寝てただけなら、起こして悪かった。体調でも悪いのかと思って、その……」

「ん〜……、大丈夫。どこも悪くないし……。今岡を待ってたんだ」


 ぐっと伸びてから、鳥塚はふっと笑って今岡を見つめた。


「え……?」


 思わぬ返しに今岡がきょとんとすると、鳥塚は小さく笑って続けた。


「ふっ、何その顔……。最近、一緒に帰ってなかったから、一緒に帰ろうと思ってさ」

「そう、なのか……」


 久々の会話に、今岡はどう話してたっけかと眼鏡を押し上げながら考える。


「……」

「今岡……?」

「ん? あぁ、悪い。いや、久々に話すから、どう話してたか、思い出してた――というか、その……」


 と今岡は遠慮がちに口を開いた。


「最近、あんまり話したりしてなかっただろ? だから、その……、何か、用とかあったのか?」

「用というか、なんというか……」


 鳥塚はどう説明したものかと苦笑する。

 今岡に触りたくて仕方なく、それを抑えるために離れていたと伝えたら、ドン引かれることは明白だ。

 なので、とりあえず誤魔化すことにした。


「いや〜、今岡が好きすぎて、我を失いそうになってたから、ちょっと失わないように……」

「……意味わからん」

「まあまあ、今岡はわからなくていいよ。……今岡は、俺と話せなくて寂しかったりした?」


 疑問符を頭に浮かべる今岡は、鳥塚の言葉に少しドキリとして、たぶん……?と呟く。


「付き合う前に戻っただけだと思ってたんだが、近くに居ることに慣れると、いなくなったとき違和感があるんだな、それが、わかった……」


 と少し頬を染める今岡に、鳥塚はキュンとして微笑んだ。


「今岡……!」

「なんだよ……。ほら、帰るんだろ、なら帰ろう――」


 照れているのか、いそいそと自分の机に向かい準備を始める今岡を見て、鳥塚は触りたい欲求が湧いてくるのを感じながらも、ぐっと我慢する。


「鳥塚……?」


 今岡が支度を終えリュックを背負い振り返ると、鳥塚は不自然に両手をわきわきと動かしていた。


「……どうした?」

「ハッ……、なんでもない、帰ろう帰ろう!」


 今岡が声を掛けると、鳥塚は胸の前で両手を振り、何かを誤魔化すように先を歩き出す。

 今岡はそんな鳥塚を不思議に思いながらも、後を追うのだった――




今岡「……なんか、鳥塚いつもと違うよな…?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ