寂しい……?
お久しぶりです(_ _)
最近、鳥塚と距離があるような…?
「あれ? 今日は鳥塚いないんだ?」
昼休み。
自分の机でお昼を食べようとしていた今岡育に、購買で買ってきたであろうパンとペットボトルのジュースを持ってきた上浦俊一が訊く。
いつもであれば、鳥塚 肇が今岡の隣に椅子を持ってきて食べているのだが、今日はいなかった。
「ん? ……あぁ、別に約束してるわけでもないしな。他の友だちと食べてるんじゃないか?」
「俺と違って、友だち多いだろ」と今岡は弁当箱を広げる。
上浦も「そっか」と返事をして、今岡の前の椅子を後ろに向けて座った。
「……てか、なんか距離ない? 最近鳥塚から今岡に声掛けてんのあんまり見ないし……。この前、やっぱなんかあった?」
「べ、つに……」
と言いつつも、今岡はこの前鳥塚を家に呼んだ日のことを思い出して、言葉に詰まる。
鳥塚にキスをされ、その先に進みそうになったなんてことを言えば、上浦から「詳しく」と言われることは目に見えている……。
「なに? 一線越えちゃった?」
「――ぶふっ!!」
思わず盛大に噴き出した今岡に、上浦は驚いたように目を見張る。
「えっ、ほんとに?!」
「なわけないだろっ!?」
わざとらしく口元を隠す上浦に、げほげほと今岡は咳込みながら否定する。
「……こ、越えてないし、キスされただけで、未遂だ……!」
「へぇ……、へえ〜〜??」
と上浦は怪しいというようにニヤつくので、今岡はムッとしながら口を開いた。
「お前な……、姉ちゃんみたいな反応するなよ! それが一番嫌なんだが?!」
「これはもう性よ、腐ってる人間からしたらもう、ね……!」
「ね……! じゃねーわ――!」
ぎゃいぎゃい言い合いながらも、上浦は「まあまあ」と続ける。
「そんな怒んないでさ――。真面目な話、ちょっと寂しいとか思わないの?」
「え? ……うーん……」
と今岡は少し考えてから「どうだろう……」と首を傾げた。
「一緒に居たぶん、なんか、慣れない……? いや、付き合う前の距離感だから、これが普通な気がするんだが……そうじゃない、というか……?」
上手く言葉に出来ないな……というような今岡は、眉間に皺を寄せて目を細める。
そんな今岡に、上浦はふっと微笑んで言った。
「なぁ、それが寂しいってことじゃないの?」
「ぇ……? ……そう、なのか……」
上浦に言われ、今岡は眼鏡を押し上げてから少し赤くなる。
そんな今岡に、上浦は確認するように訊いた。
「鳥塚、誘わなくていいの?」
「ん、……まぁ。何か理由があって来ないだけだと思うし、無理に聞くこともないだろ。時の流れに任せる――」
「そう……」
そう苦笑混じりに言って弁当を食べ始めた今岡は、上浦にはどことなく寂しそうに見えるのだった――。
*
「――今岡いるか? 確か今日、日直だったよな。ちょっとプリント運ぶの手伝ってくれ」
「わかりました――」
六時間目終わり、今岡が担任に呼ばれて出ていったのを確認してから、上浦は鳥塚のもとに向かった。
「――鳥塚、ちょっといい?」
「おう、なに?」
帰る支度を始めていた鳥塚に、上浦は単刀直入に訊く。
「ずばり訊くけど、今岡のこと避けてない?」
「えっ……」
「そんなことは……」と言いながら、鳥塚は目を泳がせる。
上浦はやっぱりと小さく溜め息を吐いて、鳥塚に言った。
「最近鳥塚から今岡に話し掛けてんの見ないから、何かあったのかって今岡に聞いたら、キスされたって言ってたけど」
「は……っ?! 他は何か言ってた!?」
「いや、特には。……何かやらかしたの?」
「えっ、いや……、やらかしてはない、けど……」
そう言いつつも鳥塚は少し赤くなって、言いづらそうにもごもごと続ける。
「その……、調子乗って、めっちゃキスした……」
「そんなに?」
「はい……」
「理性が仕事してなかった……!」と、思い出したのか鳥塚はおもむろに頭を抱えた。
「……それから、今岡に触りたい欲求が最近凄くて――でもそんなことしたら絶対今岡に引かれるし、ちょっと距離をとろうと思って……。そしたら少しは収まるだろうと……」
ぐぐぐ……と頭を抱えたまま呻くような声を出す鳥塚に、上浦は収まってないんだな……、と苦笑する。
それから安心したように笑って、鳥塚に言った。
「良くはないかもだけど――それなら良かった。今日の昼、今岡ちょっと寂しそうだったから」
「え……?」
「俺が見る限りね。ほんとかどうかはわからないけど――」
「とりあえず、伝えたから」と上浦は言い残し、自分の席に戻っていく。
残された鳥塚は、自分の欲求と今岡の悲しい顔を天秤にかける。
……天秤にかけるまでもなく、今岡の悲しい顔の方が重いのはわかっている。
「寂しいとか、思ったりしてくれてんの……?」
独り呟いて、鳥塚は「はぁ……」と机に伏せた。
もし仮に、今岡が寂しいと思っているのなら、欲求に負けている場合ではない――。
鳥塚は小さく深呼吸をしてから、頑張れ理性……!と気合いを入れるのだった。
*
ホームルームも終わり、それぞれ委員会や部活、帰宅するのに動き出し、鳥塚も今岡に「一緒に帰ろう」と言う決意をしていた。
「……あれ?」
が、気付いた時には今岡の姿はなかった。
机の横にはまだリュックが掛かっているので、帰宅してしまったわけではないようだ。
「待つか、……」
とりあえず、鳥塚は今岡が戻ってくるのを待つことにする。
ホームルーム終了後、担任にまた呼ばれ、職員室に居た今岡は、やっと解放されて教室に向かっていた――。
「はぁ……、ついてないな……」
疲れた……と今岡が教室に入ると、机に伏せている鳥塚が視界に入った。
「鳥塚……」
ふいに名前を呼んでいて、今岡は慌てて口をつぐむ。
もし寝ていたら起こすのも悪いと思ったのだ。
だが、なぜ寝ているのか、体調が悪いのか……?
そう考えて、今岡はおずおずと鳥塚に近付いた。
「ぉ、おい、鳥塚……?」
軽く肩を叩きながら、今岡は声をかける。
「……体調悪いのか?」
少し揺さぶると、鳥塚は「んん……」と小さく声を発して起きた。
軽く目を擦る鳥塚に、起こしたらまずかっただろうかと思い、今岡は弁明を始める。
「あの、ただ寝てただけなら、起こして悪かった。体調でも悪いのかと思って、その……」
「ん〜……、大丈夫。どこも悪くないし……。今岡を待ってたんだ」
ぐっと伸びてから、鳥塚はふっと笑って今岡を見つめた。
「え……?」
思わぬ返しに今岡がきょとんとすると、鳥塚は小さく笑って続けた。
「ふっ、何その顔……。最近、一緒に帰ってなかったから、一緒に帰ろうと思ってさ」
「そう、なのか……」
久々の会話に、今岡はどう話してたっけかと眼鏡を押し上げながら考える。
「……」
「今岡……?」
「ん? あぁ、悪い。いや、久々に話すから、どう話してたか、思い出してた――というか、その……」
と今岡は遠慮がちに口を開いた。
「最近、あんまり話したりしてなかっただろ? だから、その……、何か、用とかあったのか?」
「用というか、なんというか……」
鳥塚はどう説明したものかと苦笑する。
今岡に触りたくて仕方なく、それを抑えるために離れていたと伝えたら、ドン引かれることは明白だ。
なので、とりあえず誤魔化すことにした。
「いや〜、今岡が好きすぎて、我を失いそうになってたから、ちょっと失わないように……」
「……意味わからん」
「まあまあ、今岡はわからなくていいよ。……今岡は、俺と話せなくて寂しかったりした?」
疑問符を頭に浮かべる今岡は、鳥塚の言葉に少しドキリとして、たぶん……?と呟く。
「付き合う前に戻っただけだと思ってたんだが、近くに居ることに慣れると、いなくなったとき違和感があるんだな、それが、わかった……」
と少し頬を染める今岡に、鳥塚はキュンとして微笑んだ。
「今岡……!」
「なんだよ……。ほら、帰るんだろ、なら帰ろう――」
照れているのか、いそいそと自分の机に向かい準備を始める今岡を見て、鳥塚は触りたい欲求が湧いてくるのを感じながらも、ぐっと我慢する。
「鳥塚……?」
今岡が支度を終えリュックを背負い振り返ると、鳥塚は不自然に両手をわきわきと動かしていた。
「……どうした?」
「ハッ……、なんでもない、帰ろう帰ろう!」
今岡が声を掛けると、鳥塚は胸の前で両手を振り、何かを誤魔化すように先を歩き出す。
今岡はそんな鳥塚を不思議に思いながらも、後を追うのだった――
今岡「……なんか、鳥塚いつもと違うよな…?」