コラボカフェとお礼
大変、ご無沙汰しております(_ _)
今岡と鳥塚、コラボカフェに行きます。
今岡育が鳥塚肇とコラボカフェに行くことになり、ついに当日となった——。
「鳥塚にはマンガ全巻貸したし、知識も入れてもらったし、大丈夫だろう。それよりグッズのラインナップが問題だな……。ブラインドが多い。とりあえず買える個数は買う、推しが出なかったらどうするか……」
リビングのソファーに座りながら、出る時間まで今岡がグッズについて考えていると、姉のゆみがやってきて訊いた。
「あれ……? 今日コラボカフェ行くんじゃなかったっけ?」
「ん? あぁ、行くよ。グッズ見て今何買うか考えてる」
そうスマホの画面を見つめたまま答える今岡に、ゆみが「なるほどね」と後ろからラインナップを見て苦い顔をする。
「うわ……、ブラインド多いね……。コンプするの大変そう」
「そうなんだよ。今日は上浦と行くわけじゃないから、手分けしてとか出来ないからどうしたもんかと——」
いつもこういうイベントは友人の上浦 俊一と一緒に行って、お互いの推しが出た時は交換したりなどしているのだが、今回はその上浦がいないのだ。
今岡がうーんと唸ると、ゆみが聞き逃さなかったと言わんばかりに訊き返してくる。
「ふーん……? で、今日は誰と行くの?」
「鳥塚と行く——」
そう答えてからハッとして振り返ると、ゆみがニヤニヤしながら意味深に「へぇ~?」と今岡を見つめて続けた。
「そう、鳥塚くんとね~、へ~。ってことは……、そっかそっか、育の恋人になれたのね~」
よかったわね~、とゆみが胸の前でわざとらしく両手を組んでうっとりしていると、今岡が少し頬を染めて言う。
「い、一応、な……。あ、だからあれだぞ、鳥塚をネタにするなよ? 絶対」
「育……! それは鳥育ならいいってことよね?!」
「いや、そういう問題じゃねえよ——?!」
とゆみに吼えていると、そろそろ出る時間だった。
今岡はリュックを手に取ると、ゆみに注意して「それじゃあ、行ってくる」と出て行った。
「ふふ……、ついに育に彼氏が——。うふふふ、いいネタが浮かんできたわ……!」
今岡に注意されたばかりなのに、ゆみは浮かんできたネタに、一人頬を緩ませるのだった——。
*
「ったく……」
すぐそういう方向にもっていくんだよな——とゆみに呆れながら今岡が待ち合わせ場所に向かうと、すでに鳥塚が待っていた。
「悪い鳥塚、待たせたか?!」
少し駆け足で向かうと、鳥塚は今岡に気づいて「いや、今来たとこ」と答える。
「ほんとか?」
「……ほんとは三十分待った」
「は?」
「今岡と会えるの楽しみ過ぎて、早く出過ぎた」
そう鳥塚が照れたように笑うので、今岡もつられて少し顔を赤くした。
「そ、そうなのか……。じゃ、じゃあ行くか……!」
照れを隠すように、今岡は黒のメタルフレームをくいっと押し上げてから、先を歩き出す。
鳥塚も「おぉ」と頷いて、先を歩く今岡の後に続いた——。
*
コラボカフェ会場に入ると、今岡の好きなマンガである『異世界でハーレムを!』をモチーフに店内が飾られ、キャラクターの等身大パネルが設置されていた。
「うぉおお、シズク……!」
今岡が一つの等身大パネルを見つけて、吸い寄せられるように近づいていく。
そして目の前に着くなり、今岡は瞳をきらきらと輝かせた。
「か、顔がいい……!! はあ、美しい……っ、可愛い……。はっ――、悪い鳥塚、俺だけ盛り上がって……」
我に返って鳥塚に謝ると、鳥塚は微笑んで今岡を見ていた。
「いや……、全然大丈夫。むしろこんなに生き生きしてる今岡見るの新鮮で嬉しい」
「そ、そうか……? あ、じゃあメニュー何か頼むか、カフェでもあるからな——しかも、描き下ろしコースターが特典で貰える、いいだろ?」
と今岡がまたもきらきらとした瞳をするので、鳥塚はほんとに好きなんだなと思いながら、疑問に思ったことを訊く。
「へえ、コースターは選べるのか?」
「いや、残念ながら、ランダムなんだ」
「そっか。じゃあシズクが出たら今岡にあげる」
「いいのか?!」
そうきらきらとした瞳を向けてくる今岡に、鳥塚はわかりやすいなと思いながら頷く。
「もちろん。今岡の喜ぶ顔が見たいからさ」
「鳥塚……! お前良い奴だな!」
「そうか?」
「ああ! よし、さっそく頼もう!!」
嬉々として注文しに行く今岡を見ながら、鳥塚はこんなに楽しそうな今岡は初めてみるな……と、一人微笑むのだった——。
*
そして、コラボカフェを楽しんだ帰り道。
今岡は幸せの溜め息を零していた。
「……はぁ~~、今日は最高の収穫だった……」
「楽しめたなら良かったな」
隣で「満足……!」と胸に手を当てる今岡に、鳥塚は「そっか」と嬉しそうに笑う。
「だって、奇跡だぞ、ブラインド商品、全部推しのシズクが来てくれたし、コースターも等身大とミニキャラのシズク揃ったし、運を使い果たしたと言っても過言ではない」
「はは、言い過ぎじゃね?」
「いや、こんなに運がいいんだ、使い果たしたと言ってもいい」
うんうんと今岡は頷いてから、ふと申し訳なさそうな顔になって鳥塚を見た。
「……というか、鳥塚は退屈じゃなかったか……? 今日はほぼ俺が楽しんでた感じだし、ちゃんと楽しめたか……?」
「いや、楽しめって言う方が無理かもしれんが……」と今岡がしまったという顔をすると、鳥塚は「うーん」と考える仕草をしてから、ふっと笑った。
「退屈じゃなかったよ――。今岡の色んな表情見られたし、幸せだった」
「……そんなので幸せなのか? それは何か申し訳ないな……」
と今岡は「んん……」と考えてから、そうだと手を叩いた。
「今、俺が出来ることであれば、鳥塚に今日付き合ってくれたお礼を何かするぞ」
「どうだ?」と提案してくる今岡に、鳥塚は「じゃあ……」と笑顔で伝える。
「分かれ道まで手繋いで」
「え」
「いいじゃん、誰もいないしさ。お礼してくれるんだろ? あ、キスでもいいぞ、ほら——」
冗談交じりのつもりで、鳥塚が目を閉じる。
「するわけないだろ、バカか!!」と怒られるんだろうなと鳥塚が思っていると、ふにっと頬に何かが触れる感覚があって、鳥塚は目を開けた。
目を開けると、頬を染めて口元を隠す今岡が視界に入って、鳥塚も思わず赤くなる。
「ぇ……、今岡、今……」
「な、何もしてない——」
そう言いながらも赤いままの今岡は、絶対に頬にキスをしたはずだ。
鳥塚は何とも言えない気持ちになって、今岡の手を取って走り出す。
「と、鳥塚――っ?!」
「ははっ、めっちゃ幸せ!!」
「っ何言ってんだ?!!」とツッコむ今岡に、「本当だよ」と鳥塚は返して微笑む。
今岡はまっすぐに微笑みをくらって、ドキッとした。
走っているから苦しいのだと言い聞かせるには、今岡の心臓はうるさいくらい騒がしくて、自分が思っているより鳥塚が好きなのだと、実感させられるのだった——
その後。
鳥塚「今岡大丈夫…?」
今岡「ぜぇ…ぜぇ…はぁ、はぁ…大丈夫に見えるのか…?」
鳥塚「スミマセン…」