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恋の路  作者: 本谷文途
18/24

糸井と今岡

お久しぶりです!


今岡と糸井さんが話します。

 鳥塚(とりつか)(はじめ)に誘われ、糸井(いとい)ともう一人の女子も一緒に、今岡(いまおか)(いく)は遊園地に来ている。

 そして今、四人はお化け屋敷の前で、鳥塚と女子が今まさに入ろうとしていた──。


「……じゃ、出口でな、今岡。糸井さんも」

「あぁ……」

「うん、またね──」


 「もう怖ーい」と鳥塚に密着する女子と「まだ入ってないじゃん」と苦笑いする鳥塚を見送って、今岡は糸井と二人きりになる。


「……鳥塚くん、ずっと今岡くんのこと気に掛けてた」

「え……?」

「別れた後──」


 不意に口を開いた糸井は、少し口をへの字にして続けた。


「結構な頻度でライン開くし、何となく上の空で……。逆に、そんなに好きなんだなって、思っちゃった。結構わかりやすく密着とかしてみたりしたんだけど、全然効果ないし」

「へえ……」


 じゃあ学校で見てたあの近さは、やっぱりわざとか……と今岡は苦笑いになる。


「でも……諦められないから──私、今日もう一回告白する」

「……は?」

「結果は何となくわかってるけど、やっぱり、今岡くんと付き合ってるの納得出来ないから。これは、私の問題」

「はぁ……」


 それ本人に言っちゃうのか……と今岡はまた苦笑いになる。

 糸井は「でも」と今岡をまっすぐ見つめて言った。


「これでまた振られたとしても、私は学校でも変わりなく接するからね。止めても無駄だから」


 ふんと鼻から息を吐く糸井に、今岡は思っていたことを伝える。


「……凄いな、糸井さんは」

「は?」

「だって、好きな人に真っ直ぐで、自分に正直だから──」


 今岡は今までの自分を振り返って、はぁ、と息を吐いた。


「俺は……、そんなに上手く気持ちを伝えられない……。それに比べて、糸井さんはちゃんと自分の気持ちを伝えて、努力してる。凄いよ」


 苦笑いして今岡が黒のメタルフレーム眼鏡を押し上げると、糸井は「普通よ」と口を尖らせる。


「凄いわけないでしょ。これが普通なの。好きな人に振り向いてもらうには、努力するしかないんだから──まあ、今岡くんみたいに好きな人から想われてる人にはわからないだろうけどね」

「……いや、はは……」


 嫌味っぽく言った糸井に、今岡は苦笑いしつつ、一つ思ったことを訊いた。


「そういえば、お化け屋敷、鳥塚と一緒じゃなくて良かったのか? お化け屋敷こそ、怖いっていう口実でくっついたり出来るわけだろ……?」

「あ……」


 しまったという顔をしてから、糸井は自分に言い聞かせるように言う。


「い、いいの、こうやって今岡くんに言いたいこと言えたし、これでわざとらしく鳥塚くんとも密着出来るんだから……!」

「……そうですか」


 密着は程々にしてくれ……と思いながら、案外抜けてるんだな、と今岡は小さく笑った。

 それから糸井の気持ちもわかり、何となく感じていた不安が少し減った気がして、今岡はほっと小さく息を吐くのだった。



 鳥塚たちと入れ替わりで、今岡と糸井もお化け屋敷に入り、その後も色々と乗ったりして、最初は乗り気じゃなかった今岡もなんやかんや楽しんだ。

 そして、そろそろ帰ろうかという話になった頃、糸井はこっそり鳥塚に耳打ちした。

 すると鳥塚は苦笑いして、今岡に言う。


「今岡、ちょっと糸井さんと話してくる」

「あぁ、わかった──」


 もう一度告白するのだろうなと、今岡はさっき言っていたことを思い出して糸井を見た。

 糸井は友だちからふと今岡に視線を向けると、ふっと小さく笑った。

 それから糸井と鳥塚は、二人で歩いていく。


「二人、くっついたりしちゃうかもね~」

「……どうだろうな」


 キャッキャとはしゃぐ女子に、今岡は苦笑いして返すのだった。


            *


 二人が戻ってくると、女子は糸井の方に駆け寄った。

 「どうだったどうだった?」と訊かれ、糸井は残念そうに笑って「ダメだった」と首を横に振る。

 戻ってきた鳥塚が苦笑いで今岡の前に立つと、小さな声で「バレてた、ごめん」と謝った。


「気にしないでいい……糸井さんには結構前からバレてたんだ」

「えっ、そうなの?」

「あぁ──でも、黙っててくれるみたいだ」

「そうなのか、じゃあ安心だ」


 と笑う鳥塚に、今岡は「あぁ……」と小さく呟く。

 そして四人は、そのまま別れた。

 始めは途中まで一緒に帰ろうと言っていたのだが、糸井が「私たちはこれから予定あるから」というので、別々に帰ることになったのだった。

 帰り道を歩きながら、鳥塚が思い出したように口を開いた。


「やべ……観覧車乗りはぐった」

「別にいいだろ」

「よくない! 観覧車といえば、キスでしょ!?」

「お前は……」


 そういうことしか考えてないのか、と今岡は眉間に皺を寄せる。

 鳥塚はいやいやと弁解するように両手を動かす。


「違う違う! 一般的に考えてだから! 一般的に!」

「どうだか」

「今岡ぁ……!」


 呆れた顔をしてから、今岡は「でも」と続けた。


「……次は乗りたいな」


 そう少し微笑んで言った今岡に、鳥塚はパッと顔を明るくする。


「おう! 次は乗ろう! 絶対!」


 嬉しそうに笑う鳥塚に、今岡も「あぁ」と頷いた。

 次は最初から楽しめるといいなと、今岡は思うのだった──






鳥塚「次はいつ行く?!」

今岡「気が早いな……」

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