気持ちと思い出
お久しぶりです。
糸井の思惑、鳥塚の気持ち
「……はあぁぁ──」
と今岡育は深い溜め息を吐いて、机に伏せる。
この間、ついに鳥塚肇とキスをしたことを思い出して、今岡は小さく震える。
「それもあいつ……舌いれやがって……」
初めてのキスだった今岡からすれば、衝撃しかなかった。
気持ちがいいのかなど考える暇もなく、ただただ衝撃だったし、鳥塚が積極的だったのが余計に驚いた。
「……性欲強すぎなんじゃ──」
「誰の性欲が強いんだ?」
「うおおっ──上浦か……びっくりした……」
と今岡が驚いて顔を上げると、上浦 俊一が机の前に立っていた。
「何、今岡性欲強いの?」
「違っ、俺じゃなくて鳥塚が──っ、いや、何でもない……」
ここで言ってもなぁ……とまた今岡は机に伏せる。
「何? 鳥塚の性欲が強いの? てか性欲とかじゃなくて、何々がしたいとかの欲求が凄いんでしょ? 今岡とキスがしたいとか、もっとエロいことがしたいとか」
「……そういうもんなのか?」
「そういうもんでしょ。年頃なわけだし、俺たち──」
と上浦は仕方ないと席に座る。
今岡は仕方ないのか……と思いながら、起き上がった。
「でも、俺はそういう欲求があんまりないんだが……」
「大丈夫か?」
「いや、うん……、生活出来てるしな」
「いやいや、そういう問題じゃなくて、男としてさ」
「男として──?」
上浦の言葉にハテナマークを浮かべながら、今岡は首を傾げるのだった。
*
今岡と上浦が話していた頃、鳥塚は廊下で二人の女子と話していた。もちろんその一人は糸井だ──。
「……距離を縮めたい?」
「そう。友だちなんだけど、なんかまだ距離感があるっていうか、何というか……」
と鳥塚は糸井に話す。
内心、友だちじゃなくて恋人の話なんだけど、と付け足した。
「もうちょっと仲良くなりたいんだ──。でも俺と遊ぶっていってもゲーセンとかになっちゃうし、もっとこう、楽しいことしたいんだよね」
「ゲーセンが楽しくないわけじゃないんだけどさ」と鳥塚は苦笑いする。
それを聞いた糸井は、いいことを思いついたというように手を叩いた。
「じゃあ、鳥塚くんとその友だちと、私とこの子で遊びに行くっていうのはどう? 二人きりじゃないし、四人だから色々出来るでしょ?」
「確かに! 賛成! 遊園地とかいいんじゃない?」
ともう一人の女子が提案する。
鳥塚も少し考えてから頷いた。
「確かに……。いいかもしれない──後で言っとく」
「じゃあ、今週の日曜とかどう?」
と糸井はささっと日にちを決めていく。
「私はOKだよ」
「うん。俺も──」
二人が頷いたのを確認して、糸井は「じゃあ決まりね」と笑うのだった……。
*
そして放課後。
帰り道を歩きながら、鳥塚は今岡に話していた。
「……遊園地?」
「そう。遊園地。友だちと今週の日曜に行こうって話になったんだ」
「へえ。楽しんでこいよ」
と今岡は青春だなと思いながら鳥塚に言う。
全く興味を示さない今岡に、ほんとに興味ないんだな……と鳥塚は少し苦笑いしてから言った。
「えっと……今岡も一緒に行くって言っちゃった」
「……は?」
と今岡は眉間に皺を寄せる。
鳥塚はなだめるように両手を動かして続けた。
「いや、ほら! たまには皆で思い出作りもいいかなって! 今岡あんまり遊園地とか行かなそうだし!」
「まぁ、確かに行かないけど……」
「でしょ? いいじゃん、行こうよ。俺今岡と思い出作りたいし……な──?」
「ダメか?」と鳥塚は目で訴える。
今岡は鳥塚に悪気があって参加させようとしてるわけではないのはわかっているので、まぁ……と頷く。
「今回だけな……」
「やった、ほんとに?」
「あぁ──、行くって言っちゃったんだろ? それで俺が行かなくてお前が何か言われるのもあれだし……」
「仕方ないだろ」と今岡は眼鏡を押し上げて言った。
「よっしゃ、めっちゃ楽しみ! ありがと今岡──」
隣で喜ぶ鳥塚に「おぉ……」と今岡は小さく返す。
鳥塚が誘ってくれたことよりも、一緒に思い出を作りたいと言ってくれたことの方が嬉しくて、今岡は少し俯いて一人微笑むのだった──
今岡(友だちって、誰だろうな……)