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恋の路  作者: 本谷文途
13/23

嫉妬……?

お久しぶりです。

嫉妬……?

 糸井(いとい)の言っていた「覚悟しててね」という言葉を今岡(いまおか)(いく)が実感し始めたのは、鳥塚(とりつか)(はじめ)がいつものように、女子たちに囲まれていた時だった。

 いつものように囲まれているが、糸井だけはいつもより距離が近いように感じた。

 必ず鳥塚の隣に居るし、ぴったりとくっついているように見える。


「……何も思わないのか?」


 と今岡は呟く。

 今岡自身、あまり女子と話す機会がないというのもあるが、あんなにぴったりとくっつかれたら落ち着かないと思う。

 むしろ逃げ出したくなるだろう。

 だが鳥塚は、さもそれが当たり前のような感じで居るので、今岡は少しもやっとする。


「……心が狭いのか──」

「どうした?」


 と上浦(かみうら)俊一(しゅんいち)に訊かれ、今岡は苦い顔をした。


「いや、ちょっと、自分の心の狭さになんというか……うん……」


 と今岡は言葉に詰まる。

 上浦はそんな今岡に訊く。


「鳥塚か?」

「……ん──なんか、女子との距離近くないかなとか、今まではそんなこと気になんなかったんだけど、うん……」


 と今岡は苦笑いする。

 それから黒のメタルフレーム眼鏡を押し上げて、今岡は呟いた。


「心狭いなって……」

「それは普通でしょ。付き合ってる相手が他の人と一緒にいたら不安にもなるさ。だからそれは当たり前だし、鳥塚は今一番嬉しいんじゃない?」


 と上浦は笑う。

 今岡はそうなのだろうかと、鳥塚に視線を向けた。

 するとぱちっと目が合って、鳥塚はにっと笑う。

 今岡はそんな鳥塚から思わず目を逸らした。


「ダメだ……」


 と今岡は机に頭を付ける。

 上浦はふはっと笑って、今岡に言った。


「これからもっと意識すること増えるよ、楽しみだな」

「なんだよそれ……」

「ははは、見守ってる側としては最高だわ」


 ニヤニヤとわざとらしく笑う上浦に、今岡は「何が最高なんだ……」とぼやくのだった。


             *


 その日の帰り。

 鳥塚はホームルームが終わるとすぐに、今岡の席に向かった。


「今岡、帰ろ」

「うん──……」

「ん……?」


 今岡の表情が若干曇っていて、鳥塚は少し首を傾げる。


「何かあった?」

「いや、べつに……」

「絶対何かあった顔してるけど、ほんとに何もないの?」


 と鳥塚が今岡を見る。

 今岡はちらりと鳥塚を見てから、そっと目を逸らした。

 それからリュックを手にすると、今岡は歩き出す。

 鳥塚は後を追いながら、今岡に言った。


「……ねえ、さっきも目合った時逸らしたけど、それも関係してる?」

「……から……」

「え……? ごめん、もう一回言って、聞こえなかった」


 鳥塚が今岡の顔を覗くように見ると、今岡が少し顔を赤くして言った。


「心が狭いから……」

「え?」

「っだから、鳥塚が女子とぴったりくっついてんの見ると、何かもやっとするんだよ──。心が狭いの、ごめんな」


 と今岡は言って、きゅっと口を引き結ぶ。

 言うつもりはなかったのだが、思わず言ってしまった。

 鳥塚は少し照れたように笑うと、嬉しそうに今岡に言う。


「何それ、めっちゃ嬉しい──嫉妬してんの?」

「はあ?」

「あー、はは、ヤバイ」


 と鳥塚は口を手で押さえて、にやけを堪える。


「今岡でもそういうのあるんだな」

「今まではなかったよ……! お前とそういう関係になって、それからだ……」


 と今岡は口ごもる。

 鳥塚は余計嬉しくなって、今岡に言った。


「それって、俺が初めてってこと?」

「え、まぁ……」

「うわ、それ最高なんだけど……! とりあえず、今岡の初めては全部俺がもらえるってことでしょ? やば、テンション上がるわ」


 と鳥塚はにひひと笑う。

 今岡はそんな鳥塚を見て、今岡は思わず言っていた。


「……テンション上がることか?」

「当たり前でしょ、だってこれからすること全部が、今岡にとって初めてで、記念すべき第一回なんだよ? そこに俺が居られるって、めっちゃ嬉しいことだからね」


 と鳥塚は力説する。

 今岡はよくわからないが、小さく笑った。


「……そう」

「おう! よし、じゃあ今から放課後デートとしましょうか」


 と鳥塚はにっと笑って、先を歩き出す。

 今岡は後を追いながら、鳥塚に訊いた。


「どこ行くんだ?」

「前訊いたじゃん、ゲーセン」


 と鳥塚は振り向いて笑う。

 今岡は少し驚いてから、小さく笑った。


             *


「おー……! すげー!」


 ガタンと今岡がUFOキャッチャーで景品を落とす。

 それも一発で取れたため、鳥塚は拍手する。

 その景品は、今岡の好きなマンガである『異世界でハーレムを!』のモブキャラである、二頭身のタヌキのぬいぐるみだ。このぬいぐるみだけは、女子からの人気もあるためこうして商品になっている──。


「まぁ、これくらい普通かな」

「えー、絶対ムズいじゃん」

「はは、一回やってみれば」


 今岡に促され、鳥塚は二百円を機械に入れる。


「おっし──」


 と鳥塚は気合いを入れて、ボタンに手をかけた。


「よし、いけ!」


 アームの焦点を商品に合わせ、機械の横に移動して確認する。


「んー……。よし」


 ボタンを押して、アームの動きを見守る。


「お、いんじゃねいんじゃね?」

「どうかな──?」


 と言った今岡の言葉通り、アームは商品を掴んだと思ったら、上にあがった衝撃で、ぽとりと商品を落とした。


「あ~っ、マジかよ!」

「ははは、そんなもんだ」

「くそ~っ、これでむきになって金取られるんだな、く~」


 と鳥塚は悔しそうに顔を歪める。

 今岡はそんな鳥塚に、さっき取ったタヌキのぬいぐるみを渡した。


「要らなかったら、捨てていいから」

「え、くれんの? いいの?」

「うん……、楽しかったから」


 と今岡は笑う。


「あ、ほんと、鳥塚が要らなかったら捨てていいから」

「捨てないよ、大事にする──」


 と鳥塚はタヌキを優しく抱き締めた。


「今岡だと思って大事にするよ!」


 ぎゅっと抱き締めて、チュッチュッと軽くキスをする。


「うわ、やめろよ、気持ち悪い」

「ん? あ、本当にしてほしい? 仕方ないなー」


 と鳥塚は今岡に近づく。

 今岡は後ずさりながら、鳥塚に言った。


「やめろ! 近づくな!」

「わかったから、ガチで避けるのやめて!」


 と鳥塚は止まる。

 それからタヌキにキスをすると、そのタヌキを今岡の口に当てた。


「……何?」

「ふはは、間接キス!」

「な……っ、バカか」

「次は直接するから、覚悟しといて」


 「まぁ、無理矢理はしないけど」と鳥塚はにっと笑う。

 今岡はそんな鳥塚に少しドキッとして「ぐっ……」と言葉に詰まるのだった──






ぬいぐるみを持ち帰った鳥塚

鳥塚「あー、宝物だわ(ぎゅっと抱き締めて)」

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