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恋の路  作者: 本谷文途
12/24

覚悟しててね

お久しぶりです。


糸井さん、今岡に──

 今岡(いまおか)(いく)鳥塚(とりつか)(はじめ)が付き合い始めて、数日が経過した。

 その間、行われた考査の答案用紙も返され始めていて、その点数に歓喜の声をあげる者もいれば、悲鳴をあげる者もいる。

 もちろん、声にも出せないような点数を取った生徒もいるようで、机に突っ伏している生徒もいた。


「点数どうだった?」

「んー、まあまあかな」


 上浦(かみうら)俊一(しゅんいち)が今岡に訊くと、今岡は返されたテストの点数を思い出しながら答えた。


「そっか。ま、俺もまあまあだったけど──」


 と上浦も答える。


「鳥塚くーん、テストも終わったし、遊びに行かない?」


 一人の女子の通る声に、今岡と上浦は前のドアに顔を向けた。

 そこには、鳥塚と鳥塚を囲むように数人の女子たちが集まっていた。

 よく見ると、鳥塚に告白をしていた糸井(いとい)の姿もある。


「さすが、モテる男は違うね」

「……そうだな──」


 上浦の言葉に、今岡は同意して鳥塚を見る。

 鳥塚は笑顔で受け答えをしていた。


「今岡は、あそこに入りたいと思わないの?」

「んー、別に。疲れそうだし……」


 と今岡は答える。

 そしてふと、見られていることに気づいた。


「……ぁ」

「どうした?」

「いや、なんか……見られてる、糸井さんに──」


 鳥塚の後ろにいる糸井が、今岡を見ていた。

 糸井はすっと鳥塚たちの群れから外れると、後ろのドアから回って入ってくる。

 そして今岡の横まで来ると、今岡に言った。


「……ちょっと、いいかな」

「まぁ……」

「じゃあ、ちょっと借りるね」

「お、おぉ──」


 糸井は上浦に言って、先導するように歩き始める。

 今岡は、嫌な予感を感じながら糸井についていった。


            *


 そして普段使わない空き教室に、今岡は案内された。

 向き合ってから、糸井は口を開く。


「私、こないだ見たんだ。鳥塚くんと今岡くんが、手繋いで帰るところ。鳥塚くん、すっごく嬉しそうだった」


 今岡は見られていたとは知らず、思わず息を呑む。


「……それで、鳥塚くんが好きなのって、今岡くんだよね? 最近気づいたんだ、鳥塚くんがちらちら見てるのって、今岡くんだって」

「…………」

「告白されたんでしょ? 今岡くん、鳥塚くんに──それで付き合い始めて、手繋いで帰った、でしょ?」


 一つ一つ確認するように、糸井は今岡に訊く。

 今岡は黙って聞いた後、小さく頷いた。


「……うん」

「そっか──」


 糸井は小さく呟くと、ぱちんと思い出したように手を叩いた。


「私ね、鳥塚くんにも言ったんだけど、諦めないから。好きな人には幸せになってほしいけど、私は好きな人と幸せになりたいの──だから、覚悟しててね」


 そう糸井は言って、ふふと小さく笑う。

 今岡はそんな糸井を見て、思わず感心してしまった。

 こんなにも相手を想って行動することが、自分に出来るだろうか……。


「あ。でも、卑怯な手は使わないから、安心して」

「卑怯な手?」

「そう。例えば……今岡くんは男好きで、クラスの男子をいつもそういう目で見てました、とか──それで、鳥塚くんを引きずり込んだ、みたいな」


 と糸井は言って、我ながらいい考えと笑う。

 今岡は冗談じゃないと声を荒げた。


「っ別に俺は、男が好きなわけじゃ……!」

「冗談だよ、冗談──私そういうことはしないから」


 今岡は何となく遊ばれている気がして、少しムッとする。

 すると、前のドアが開かれて鳥塚が姿を見せた。


「上浦から聞いて来たんだけど……何してんの?」

「ううん、なんにも。世間話──ね、今岡くん」

「え、あぁ、うん……」

「ふーん……。ま、いいけど──」


 鳥塚は若干眉間に皺を寄せたが、すぐにいつもの笑顔に戻る。


「今岡、そろそろ授業始まる。糸井さんも早く戻った方がいいよ」

「うん、ありがとう、じゃ」


 と糸井は笑って出ていく。

 今岡はさっき言われたことを反芻して、溜め息を吐いた。


「今岡……?」

「……ん?」

「何かあった?」

「いや……、何も──」


 と今岡は答えて、黒のメタルフレーム眼鏡を押し上げる。

 鳥塚に言っても解決しないし、第一これは自分に言われたことだ。鳥塚に言うことじゃないと今岡は思う。


「あ、今岡」

「ん……?」

「今度さ、デートしよ、デート」


 と鳥塚は嬉しそうに笑って言う。

 今岡はバカかと鳥塚に注意した。


「お前、誰かに聞かれたらどうすんだよ、やめろよ」

「じゃあ、ラインとかならいいのか?」

「う……まぁ、それなら……」

「わかった! じゃ、後で詳しくラインする──」


 と鳥塚は「やったぜ」と笑って、教室に戻っていく。

 今岡は鳥塚とのデートより、糸井が何をしてくるかが気になった。


「……とりあえず、鳥塚との関係はバレないようにしないとな」


 そう今岡は一人呟いて、空き教室を後にするのだった──





その日、鳥塚からのライン

『デート、どこがいい?

 1、遊園地

 2、水族館

 3、動物園

 4、ゲーセン

 5、家(今岡でも俺んちでも)』

今岡「……4だな──」

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