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恋の路  作者: 本谷文途
11/24

手と目

お久しぶりです。


何かがありそうな予感……

 考査最終日──。

 無事考査も終わり、それぞれ部活や委員会に向かい始める。

 もちろん家に帰る生徒もいるわけで、今岡(いまおか)(いく)もその内の一人だ。

 今岡が帰りの支度を済ませ、リュックを背負ったところで、彼はやってきた。


「いーまおか、一緒に帰ろ」

「……さっき、誘われてなかったか? 女子たちに」


 帰りの誘いをしてきた鳥塚(とりつか)(はじめ)に、今岡は若干眉間に皺を寄せて訊く。

 鳥塚はニッと笑って答えた。


「断った。今日は今岡と帰りたかったから。それに──」


 そっと今岡の耳元で、鳥塚は囁く。


「付き合って初めての帰りだから」

「っお、まえ……!」

「今岡顔赤いぞ、可愛いけど」

「くっ……!」


 と今岡は、反論出来ずに顔を背けた。

 昨日やっと鳥塚に今岡が返事をして、付き合いが始まったのだ──。


「今岡、帰ろ」

「……図書室、寄ってからでいいなら」

「もちろん」

「ぁ、おぉ……」


 嬉しそうに笑う鳥塚に、今岡は少し戸惑いながらリュックを背負う。


「今岡は、よく図書室行くの?」

「ん、まあ。ほどほどに──新しいラノベとか入ってるかとか、普通に面白い本ないかとかそんな感じ」


 と二人は廊下に出て歩き出す。


「そういえば、こうやって二人で廊下歩きながら話すのって、初めてじゃね?」

「確かに。言われてみれば──」


 と今岡は思い出す。

 大概鳥塚はいつも誰かと話しているし、今岡は今岡で休み時間は教室に居ることが多いので、こうして二人でというのはない。

 移動教室も上浦(かみうら)俊一(しゅんいち)が居るので、本当に二人きりということがないのだ。


「……なんか、何話せばいいのかわかんなくなるわ」


 と鳥塚は苦笑いする。


「何で?」

「だって、緊張するじゃん。好きな人と二人きりとか──今岡はしないの?」


 そう鳥塚に問われ、今岡はきょとんとしてから赤くなる。


「さ、さらっとそういうこと言うなよ、気にしてなかったのに……!」


 変に緊張するじゃないか!と今岡は黒のメタルフレーム眼鏡を押し上げ、ドキドキし始める。

 鳥塚もそんな今岡を見て、少し頬を赤くした。


「……なんか、ごめん」

「いや……べつに……」


 少しぎくしゃくしたまま、二人は図書室に入った。

 図書室に入ると、生徒が誰一人いなかった。

 司書さんも、隣の蔵書置き場の整理に行っているのか、受付には『ただいま整理中 借りる場合は隣の部屋に一声お願いします』と書かれた紙が置かれていた。


「すげー、貸し切り状態じゃん」

「ほんとだな」


 と今岡は言って、本を見ていく。


「ん、今岡今岡、こういうの読むの?」


 鳥塚も本棚に目を通してから、一冊の本を手に取り、今岡に見せた。

 今岡はその本を鳥塚から受け取って、目を通す。


「あ、これ続編だ。ちょうど続き出てないか気になってたやつ。ありがとう」


 と今岡は鳥塚を見て少し笑う。


「どういたしまして……!」


 と鳥塚は確実に自分に向けられた笑顔にキュンとして、一人顔を覆った。


「何してんの……?」

「気にしないで……ちょっと感動してるだけだから」

「はぁ──鳥塚は、何か読んだりするのか?」


 すでに数冊手にした今岡は、鳥塚に訊く。

 鳥塚は少し考えてから答えた。


「んー、読書感想文とかでなら読む。あとは雑誌とか」

「そうか。じゃあ、あんまり楽しくないか──」


 「ごめんな……付き合わせて」と今岡は苦笑いする。

 それから本を抱え直して、今岡は言った。


「あともうちょっとだけだから、ちょっと待ってて」

「そんな急がなくていいよ、俺もちゃんと楽しいから」

「でも……」


 と今岡は申し訳ないというような顔をするので、鳥塚は両手を腰に当てて言った。


「いいんだって。今岡と会話楽しめてんだから──俺はそういうことを言いたいの」


 と鳥塚はニッ笑う。

 今岡は少し赤くなって「あ……そう……」と背を向けて奥に向かった。


「……それにさ、今岡」

「うん──っ?!」


 鳥塚の方に振り返ろうとした時、今岡は鳥塚に抱き締められた。


「こうやって、くっつけるじゃん?」

「おまっ……」

「ははは、背中を向けた今岡が悪い──」


 と鳥塚は今岡を後ろから抱き締めたまま、嬉しそうに言う。


「あー……ずっとこうしてたい」

「バカじゃないのか!?」

「バカでもいいけど──?」


 と鳥塚は今岡の耳元で囁いた。

 今岡はビクッと肩を上げてから、口を開いた。


「し……」

「し──?」

「司書さーんっ!! 本借りますーっ!!」


 と今岡がいきなり大きな声を出したので、鳥塚は驚いて声をあげた。


「はいっ?!!?」


 鳥塚が離れると、その隙に今岡は受付まで走る。

 すると隣に続くドアから司書さんが戻ってきて、少し機嫌悪そうに言った。


「あのね……借りてくれるのはいいんだけど、ちゃんと呼びに来てくれる? 叫ぶんじゃなくて──次やったら許さないわよ」

「はい、すいません……」


 今岡は肩を落として謝る。

 そして司書さんに軽く頭を下げてから、今岡と鳥塚は図書室を後にした。


「今岡怒られてやんの」


 少ししてから鳥塚が言うと、今岡は声を荒げて鳥塚を睨む。


「それはお前がっ……!」

「ははは──今岡」

「なんだよ」

「好き」

「っ──こういう時によく言えるな!」

「まあね」


 怒りながらも顔を赤くする今岡を見て、こういう時もちゃんと意識してる今岡を、鳥塚は可愛いと思う。


「照れんなって」

「照れてないわ──怒ってんだよ!」


 下駄箱で靴に履き替えた今岡は、眉間に皺を寄せて鳥塚を睨み付ける。


「何その顔、ウケるんだけど」


 と鳥塚は靴に履き替えて笑った。


「っ……帰る──」


 今岡はこれ以上怒っても無駄だと思い、歩き出す。


「今岡、ちょ、待って待って」

「なんだよ──はっ!?」


 隣に来て手を握ってきた鳥塚に、今岡は思いっきり不機嫌な声を出す。

 鳥塚は気にせずに、嬉しそうに笑って言った。


「付き合って初めての、手繋ぎ」

「なっ……、誰かに見られたらどうす」

「俺は平気だから、気にしなーい」

「あ、おいっ、離せって……!」


 繋いだまま歩いていく鳥塚に今岡は吼えるが、鳥塚は人差し指を口の前に持ってくると、いたずらっぽく笑った。


「騒ぐと、余計目立っちゃうぞ」

「このやろ……っ!」

「大丈夫だって──」


 ルンルンと歩く鳥塚に、今岡はひやひやしながらも、仕方なくついていった。


「ぇ……何? 今の──」


 そして二人は知らない。

 ちょうど帰ろうと下駄箱に来た糸井(いとい)に、見られていたことを……──




別れる所までずっと手を繋いでいた。

鳥塚「また手繋いで帰ろ(^^)」

今岡「……(睨む)」

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