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恋の路  作者: 本谷文途
10/23

返事

やっと、今岡が──

 あれから帰り道を歩きながら、鳥塚(とりつか)(はじめ)今岡(いまおか)(いく)は質問をした。

 そして今、今岡は鳥塚が答えてくれたのを思い出していた。


『好きな食べ物は?』

『親の作る肉じゃが』


 と笑顔で答える鳥塚。


『嫌いな食べ物は?』

『今のところは特にない』


 と少し考えて頷く鳥塚。


『好きな教科は?』

『体育!』


 グッと拳を作って、ガッツポーズをする鳥塚。


『嫌いな教科は?』

『音楽。俺、歌も楽器も苦手だから』


 と苦笑いする鳥塚。


『好きなキャラは?』

『……キャラ? うーん、あんまり知らないからな……、あ、シズク! 前読ませてもらったやつの』


 そしてニヒッと鳥塚は笑って、嬉しそうに続けた。


『今岡と一緒のキャラ──』



「ふ……」


 一瞬笑みがこぼれて、今岡は黒のメタルフレーム眼鏡を押し上げる。

 そして何で笑ってしまったのか、今岡は首を傾げた。

 今はテスト中で、そんなことを考えている場合ではないのだが、見直しまで終わっているため、ちょっとだけ昨日の事を考えていたのだった。

 そして一つ気づいたことがある。鳥塚は表情がよく変わる。喜怒哀楽がわかりやすいのだ。


(昨日もよく表情が変わってたな)


 またふっと笑いそうになって、今岡は眼鏡を押し上げる。


(何浮かれてんだ……? ……ん? ……浮かれてる? 何で──? 昨日色々知れたから……?)


 ふと昨日の鳥塚の笑顔が頭に浮かび、今岡はきゅっと口を引き締めた。


(俺だけに、話してくれたから……?)


 そう思ってから、今岡はかあっと顔が熱くなる。


(……え? ……なに? 鳥塚のこと独り占めしたかったの? ……て、てか、やっぱり──)


 今岡はすっと顔を右手で隠して、それから眼鏡を押し上げた。

 そして小さく溜め息を吐いて、今岡は自分の本当の気持ちを受け入れた。

 ドキドキと脈打つ心臓と共に、鳥塚が好きだということを──。


             *


 考査も終わり、最後の考査を明日に控えた放課後。

 今岡はいつ伝えようかと機会を見計らっていた。

 休み時間は鳥塚は誰かしらと居るし、話し掛けられる状況ではない。


「これじゃ、伝えるもなにも……」

「どうした? 今岡」

「わ、上浦(かみうら)──」


 今岡は、いつの間にか隣に来ていた上浦 俊一(しゅんいち)に驚いた。


「何だよ、そんな驚いて……。鳥塚のことでも考えてたのか?」

「ぅえっ?!」

「マジか、ウケる──」


 と変な声を出した今岡を見て、上浦は笑う。


「か、からかうなよ!」

「なに、やっと鳥塚に返事する気になったの?」


 今岡が少し赤くなって黙ったので、上浦はよかった、と微笑んだ。


「……やっとか、おめでとう!」

「いや、まだ伝えてないから……」


 と今岡は苦笑いして言った。


「なんだ、早く伝えればいいのに」

「いや、だって、今楽しそうに話してるし……邪魔するのも悪いし……」


 前のドア近くで、鳥塚は楽しそうに男女数人と話している。


「……そっか。ま、頑張れ」

「お、おぅ……」

「じゃ、今日は俺本屋行く予定あるから、また」


 と上浦はひらりと手を振って、教室を出ていった。

 上浦を見送ってから、今岡はちらりと鳥塚の方を見る。

 するとちょうど鳥塚と目が合ってしまって、今岡は焦って目を逸らした。


「きょ、今日はもう帰ろう、うん──」


 今岡はいそいそと帰る支度をして、リュックを手にする。


「今岡、帰んの?」


 と鳥塚が話を終えたのか近づいてきた。


「ま、まあ……」

「なら、俺も一緒に帰ろっと」


 にこにこと鳥塚は自分のリュックを手にして、今岡の前に来て止まる。


「と、鳥塚……!」

「ん?」

「べ、勉強しないか──?!」


 名前を呼んだものの、何を言えばいいのかわからなくなり、今岡は思わず言っていた。

 鳥塚は一瞬きょとんとしてから、笑って言った。


「いいよ──じゃあ、今度は俺の部屋で」

「え──」

「ほら、前今岡の部屋行ったから、今度は俺の部屋の方がいいかな、と思って」

「あ、あぁ……、じゃあ、大丈夫なら、お邪魔します……」

「やった。じゃ、行こう!」


 と鳥塚は笑って歩き始める。

 そんな鳥塚とは反対に、失敗した……と今岡は思いながら鳥塚の後をついて行った。


             *


 鳥塚の部屋に着いてから、二人は勉強道具を簡易テーブルに広げて、向かい合うように座っていた。


「…………」

「…………」


 どちらからも特に話題を出すこともなく、静かに時間が過ぎていく。

 たまに教科書やノートを(めく)る音や、文字を書く音だけが耳に届いてくる。

 そして先に声を発したのは、鳥塚だった。


「……あー、もー、無理──」


 シャーペンをノートの上に放り出し、鳥塚は頭を抱える。

 今岡は少し驚いて、鳥塚を見た。


「ど、どうした……?」

「……もう終わりにしよう、俺がもたない」


 と鳥塚は苦笑いして片付けを始める。


「今岡ごめん。誘ってくれて嬉しかったけど、もうやめよう。明日テスト最後だし、俺一人で勉強したいから──」


 教室を出る時は嬉しそうに笑っていたのに、今の鳥塚は笑っていなかった。


「鳥塚……?」

「……──」


 鳥塚は今岡の声が聞こえていないかのように、片付けを続ける。


「鳥塚」

「今岡も、片付けて」

「鳥塚──」

「ほら、はや」

「聞けよ!」


 動きを止めて、鳥塚はそっと顔を今岡に向けた。

 今岡は怒っているような、悲しいような、よくわからない顔をして鳥塚を見ていた。


「い、まおか……?」

「勉強しようって言った俺が悪かった……。ほんとは、勉強しようとか思ってなかった──」


 「そんなのは口実で……」と今岡は恥ずかしそうに顔を背けて、眼鏡を押し上げる。


「……ほんとは、返事しようと思って鳥塚呼んだんだけど、まだ人居たし、あそこで言うのは気が引けたから……。だから、どっか別の場所でって思ったんだけど──上手く言えなかった……」


 カッコ悪い、というように今岡は赤くなって俯く。

 それから少しして、今岡は意を決するとさっと顔を上げて口を開いた。


「──俺……鳥塚のこと、好きだから……」


 そう言ってからいっそう赤くなって、今岡はわたわたと勉強道具を片し始める。


「っ……じゃ、じゃあ今日はこれで……!」

「今岡──」


 ぎゅっと鳥塚が、片していた今岡の手を握った。

 今岡はテーブルに顔を伏せたまま固まっている。


「な、に……」

「こっち向いて」


 テーブルからゆっくり顔を上げると、鳥塚が少し頬を赤く染めて今岡を見つめていた。


「今岡──」


 鳥塚は小さく深呼吸してから、真剣な顔で告げる。


「好きです。俺と付き合ってください」


 今岡は赤い顔のまま、はぁ……と溜め息を吐いた。


「……はい」


 鳥塚は握っていた手を離すと、今岡の横に移動し、ストンと腰を下ろして笑った。


「ありがとう、超嬉しい、幸せ──」


 緩んだ顔で、鳥塚は今岡を見る。

 今岡はそっと顔を逸らして、眼鏡を押し上げた。


「なぁ、こっち向いてよ」

「いや、無理……」

「今岡」

「なに……」


 と顔を背けたまま、今岡は返事をする。

 鳥塚は今までにないくらい満面の笑みで言った。


「これからよろしく!」

「ん……まぁ……」


 顔を背けたまま「よろしく……」と呟いた今岡に、鳥塚は諦めないで良かったと微笑むのだった──





その後。

鳥塚「今岡、キ」

今岡「しないから!(即答)」

鳥塚「デスヨネー(苦笑い)」

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