代わり。
彼には好きな女性がいる。
生きては、いないけど
。。。
「なぁ。髪、ショートカットにしないか?」
「こっちの服のほうが俺は好きだな…」
「懐かしい香水をもらったんだ。つけてみないか?」
彼の好きな人は私の幼馴染みだった。
彼女が不幸にも病で亡くなった時、
傷心の彼に寄り添い、代わりでもいい。と言った。
だから、これは、仕方のないこと。
「愛してるよ。***。」
「…えぇ、私も。」
違う名前を呼ばれながら繋がることも。
必ず後ろからだったことも。
一度もキスがなかったことも。
いまではどうでもいい思い出。
もう、おわり。
このマンションに来ることもないだろう。
割と疲れた。
荷物をまとめ、外に出る。
鍵はポストのなかに。
書き置きはリビングの机の上に。
よし。
歩け、わたし。
。。。
彼のマンションから出た私はアパートに一人暮らしだ。
元々そういう生活だったのだ、さほど苦労はない。
唯一不満というか憂鬱なのは彼のマンションと近い事くらいだ。
まぁ、近いといっても最寄りのスーパーが被るくらいだが。
。。。
買い物帰りに彼を見かけた。
憎からず思った自分に嫌気が差したが
彼の隣の女を見てどうでもよくなった。
。。。
「妊娠3ヶ月、といったところですね。」
その瞬間、私はよほどひどい顔をしたのだろう。
医者の表情が面倒そうに歪んだ。
適当に微笑む。医者は怪訝そうだった。
大丈夫、ちゃんと愛せる。
だって好きな人とのこどもだもの。
。。。
つわりは落ち着いたが心細かったので母に話した。
相手を言わない私に焦れていたが
「子連れは嫁の貰い手が少ないよ」と笑っていた。
。。。
産まれた子は健康だった。
それだけはとても良かった。
名前が決まらない。
一緒に考えたいと願うのは図々しいだろうか。
。。。
久々に彼に会った。一人だった。
なんだか安心してしまう自分がいた。
彼の第一声は
「出産おめでとう」だった。
私の第一声は
「認知しなくてもいいから名前を考えて」だった。
感動もへったくれもなかった。
蛇足かもしれないが産まれたのは女の子で
名前は幼馴染みと私の名前を半分ずつだった。
思いつきをノンストップで書いてみたら長くなりました。