初戦決着のようです、魔王様
「ラウンド2……ですか」
ベルナノは俺の周りを距離をとりながら歩く。
「逆転、だとでも思ってんですか?甘く見られちゃ困りますよ」
というと、後ろに右手を回す。
その余裕はまだ強力な技でも残しているのか、はたまた俺の王羅『ライト・イオン』に屈し、空元気で答えているのか、俺にはわからない。
だが、その笑みには敗北の色が見えなかったのはたしかだ。
さきほどベルナノが言ったように王羅が使いこなさせているのは断然あちらだ。
いくら強力な人型王羅を持っていたとしても使い方がわからなければ宝の持ち腐れ。意味がない。
「……どうしようか」
俺は手に汗を握り、すぐ後ろでぶすっとした顔で立っているライト・イオンを見る。やる気があるのかわからないが、強力なのは間違いない。
俺が出した先ほどの電流。水分を持っているベルナノの植物を一瞬で焦がすほどの強さから威力はかなりのものだと思われる。
だとしたら、まず俺が負ける要素はない。
ベルナノの植物を片っ端から電流で焦がしていけばいい話なのだ。
おそらくドラクエみたいに魔力にも限りがあるだろうから、そう長く戦えはしない。
てか、おれ自身自分の魔力限度は知らないため、もうすでに空っぽかもしれない。そうならばしゃれにならない。ベルナノの植物にパックンゲームオーバーコンテニューしますか?だ。
俺とベルナノの距離はどんどん詰まっていく。決めるならいまだ。
「やっちゃいなさい!一江ぇ!」
奥からスピネルの応援が聞こえる。正直うざい。
観客からも応援の声がかかるが、俺とベルナノは体を崩さない。
気をそらしたほうが負けだ。たぶん。バトルってそんな感じでしょ?
「さて、行きますよ」
ベルナノが背に隠していた右手を出す。右手には種が握られていたが先ほどのデルちゃんが実る三日月形の種とは違う。丸い球形、BB弾程度の大きさだ。
それを撒く。床の上にバラバラに散らばるとベルナノはお決まりの指鳴らしをする。
ピンッ……という乾いた音が会場に響くと、種が動き出し中から小さな生物が卵から生まれるように出てきた。
ノミほどの大きさだったその生物は次第にその大きさを変えていき、どんどん大きくなっていく。
大きくなるにつれてその体つきもわかってきた。
緑色の体表に角、俺より一回り小さいがその不気味な化け物は気持ちの悪い風貌をしており、あきらかに臭そうな息を吐き出しながらこっちを見てくる。
「使い魔、ガーちゃん!出動!」
ベルナノが俺に向かって指をさす。
化け物は「ぎゃぁ!」と短くうなると、俺の方へ走ってきた。
4足歩行でペタペタという音を立てながら5匹近づいてきた。
「ふぅー」
俺は深呼吸をする。剣道部でも試合前はこういう風に深呼吸するため、すっかり癖として身についてしまった。
「しゃぁ!」
俺が体に力を入れると、先ほどのように電流が走る。魔力残量は大丈夫なようだ。
5匹のガーちゃんは5つに展開すると前、右、左、右斜め、左斜めとそれぞれの方向から俺に攻撃を始めた。
右と左!俺は瞬時に攻め込んでくる奴を見定めると、両手こぶしを握る。
右はパンチ、左はチョップの型に定めると両側のガーちゃんが攻め込むと同時にクロスさせ、電流を帯びた両手をヒットさせる。
ヒットすると同時にパンチを叩き込んだ左側の奴は顔がつぶれ、右の奴はチョップで首を裁断された。
2匹の血が噴出し、俺のパジャマが汚れる。床に2匹の死体が倒れ、床を血で染めた。
観客席が俺の早業にざわつく。自分でもまさかあそこまで素早くパンチができるとは思わなかった。
これも王羅のおかげか?スピネルに聞こうとしたが彼女は「おぉ!」と目を輝かせていた。
どうやらそれどころじゃないらしい。ったく、グロ好きの奴とはな。
普通キャーとか言って逃げるのが女じゃないか?
しかし、やはりグロいな……と呑気にそんなことを思う俺に次の攻撃が始まる。俺もそんな事思っている
暇はないようだ。
次はそれぞれ斜めの方向から2匹、少し遅れて前から1匹か。こいつら、時間差攻撃とは知能高いな。
代わりに俺は先ほどの両手攻撃からさっきから手がしびれる感覚に襲われていた。うまく両手を動かすことができない。
どうやらまだ王羅が完璧になじんではいないようだ。せいぜいさっきの両手攻撃はあと2,3発か。
ひとまず、斜めの2匹の攻撃をジャンプでよける。思いっきり飛んだら天井まで届いた。
「おわ!?」
ここまでいくのか!?あまりに驚いて前の奴の攻撃対応が遅れた。
「ぎあっ!」
いつのまにか俺の目の前に現れた1匹が汚らしい声を上げ、鋭い爪を俺の腹部へと当てた。
爪の先が食い込み抜けない。鋭い痛みと血の気が引いていくのがわかる。
「くそが……」
俺は空中で爪をつかむとそのまま力をこめて引き抜いた。すると爪は鈍い音を立てながら抜けた。そこまで深くは入っていなかったものの大量の血が出てくる。
「んな所で、死んでたまるかっての!」
俺は体勢を立て直すと前の奴にけりを入れる。もちろん電流を帯びた強烈なものだ。
バコン!という気持ちのよい音が響き、前の奴の首が折れた。泡を吹いて先に落ちていく。
あと2匹!俺は体勢を崩したまま落ちていく。下で残りの奴が待っているように爪をぎらつかしている。
「やらせるか!化け物共め!」
俺は片手を振り回し電流の波を輪状にしていく。
電流はちょうどいいくらいに丸くなっていき、フリスビー程度の大きさになるまでまわした。
俺はフリスビー状の電流を片手から放出する。ちょうどフリスビーを投げるように。
フリスビー電流は回転して2匹の内1匹に向かっていく。
その一匹は向かってくるフリスビー電流を迎え撃とうと拳を叩き込むがあっけなく体を真っ二つに割られ、そのまま霧の様に消え去った。
よし!必殺技一つ完成!名前は……気円斬……いや、これじゃパクリだ。
ま、いいか技名はあとで。てか、最後の一匹を早く片付けるか!
俺は地面に降り立つ。たいした衝撃がなかったのも王羅のおかげだと思っていいだろう。
すぐ目の前におどおどしている最後の一匹がいる。
俺はため息をつくと、腕を払い奴を逃がそうとした。
奴は俺の顔を見ながらしばらく考えていたが、一うなり上げるとそのままどこかへ逃げていった。
「ふーい」
俺は息を整える。これで全匹撃破だ。
「よーし、最後はお前だ。ベルナノ」
俺はベルナノを見つめる。
しかし当のベルナノは呑気に小説を読んでいた。
「へ、あ、やっと終わった?」
ベルナノは小説をしまう。
……コイツ……殺したろか!?俺が苦労している間にお前はなにブレイクタイムしてんだちくしょー!
「決着……つけようか?」
怒りを押し殺し、俺はベルナノをにらむ。
「オッケー」
すぐに返答をするベルナノ。
やるなら今しかねぇ!俺は走り出す。
奴がもし種から植物を生み出すならば奴が種を出す前に攻め込むのが先決だ。先手必勝!
しかし俺の願いむなしくベルナノはにやりと笑うと、両手を俺のほうへと向ける。
「ばかですねぇー」
と彼女が言うと、手の先から巨大な木が生えてきた。
その木は瞬時に巨大化し、俺の体を捕らえた。
「ぎゃふ!」
俺は小さく叫び、そのまま木に体を締め付けられそのまま持ち上げられる。
「だめですよぉー油断しちゃ。体内で発芽させてこんな風に攻撃することも私には朝飯前なんですよぉ」
ベルナノが木を手からはやしたままニヤニヤと笑う。こんな超重量の大木を軽く持っているところを見るとかなりの怪力の様子だ。
「ふん、こりゃやばいな」
俺は平静を保っているつもりだが、手がガタガタ震えている。
まじかよぉ!
完璧俺の優勢だったじゃん!
なんで隠しだま持ってんだよ!
空気嫁!あ、ちがう。空気読め!
「電流流しても無駄ですよぉ。その木は私がさきほど救世主様がガーちゃんと戦っているときに遺伝子操作して中にゴムを仕込んでいるんですぅ。これが私の最強技『遺伝子操作』!あらゆる植物の遺伝子をいじってその形状、性質を変えたりできるんですよぉ!」
そういうベルナノは興奮して小躍りまでしている。
なるほど、さっきのブレイクタイムもちゃんと技の準備をしていたのね。
って……やばいーーー!殺されてまう!ここで死んでたまるか!
「なめるなよ!」
俺は電流をためる。王羅本体のライト・イオンは無事抜け出していたのでなんとか電流は流せた。どうやら電流をライト・イオンが俺に流して俺がさらにその電流を形状変化して使うようだ。
俺は魔力を使って電流を流そうとする力、電圧を操れるようだ。
ライト・イオンが消えない限りこの雷魔法は使え続けれるらしい。さすがは人型。
「電気をためて何を……外側にゴムがあるから無駄だって」
ベルナノがあきれ顔を向ける。
「外側にだけゴムを張られていれば大丈夫とでも思ったか?」
俺は笑みを返す。
「はぁ?なにがいいたいん―――」
「植物は全てが水分を持っている。ならば電気を通したら通るはずなんだ」俺は片手に全電流を流し込む。片手が白光りしだし、おれ自身もしびれてきた。
「だから、電気はゴムで通らないって言ってるじゃないですか」
彼女はくだらないと、木が俺をつぶそうとする圧力を強める。
「げふっ!……外側はな。中ならまだ普通の植物状態のままだろ」
俺はそういうと、木に電流を帯びた片手を突き刺す。
電流がこもって熱を持っているらしく木は焼けきれるように穴が開いた。たしかに外側にゴムのようなぶにょぶにょした皮が挟まっているようにしてあったが、俺はそれよも焼ききる。いくら電気に強くても熱にはかなわないだろう。
すると、木の中まで手がすっぽり入る穴ができた。すこしだが、水分を帯びている。これなら……
「電気が通るよなぁ!」
「えぇ!ちょっと!ストップ!」
ベルナノが気づき、あわてて木を切り離そうとする。
「おせぇぇぇぇぇ!」
俺は片手の電流を流す。電流は木の中の水分を伝ってベルナノに流れた。
「きゃぁぁぁあああああああ!!!」
彼女は体中を振るわせる位の痙攣を起こした。
スピネルも、観客も、全員が無言でその一部始終を見守る。
そして、数秒後。俺が手を離すと、ベルナノは気を失ったのかそのまま倒れた。木はすでに焦げ付いており、そのまま溶けるように消えた。
会場が静まる。スピネルは無言で立ち上がると拍手をした。
それにあわせて観客から少しずつに拍手が起こる。
5秒もすれば全員が拍手を俺に送ってくれた。
「一江対ベルナノは一江の勝利!」
スピネルがマイクで叫ぶと、
オォォォォォォ!とまた観客が声を上げた。
終わった、か。
俺は床に倒れた。
疲れた。今はもう、それしか今の状況を説明できない。
初戦はなんとか勝ったが、毎回こんな戦いをやらされると思うと自然とため息をがこぼれる。
やっちまったな……。俺は今頃ながら後悔した。
王羅『ライト・イオン』 所有者 壱語一江 タイプ 人型守護系
電流で出来ている王羅、所有者に電流を流すことでその所有者の細胞を刺激し、活性化させ、あらゆるステータスを急激に上げる。細胞刺激で回復スピードを速めることも出来る。
所有者はその電流を使い相手に電撃ダメージを与えることを主に攻撃をする。
しかし、細胞を活性化させたその所有者の物理的ダメージ(パンチとかキックとか)も強力なものな為、直接攻撃もかなり使える。
磁場を作り出し、相手を引っ張ったり放したりも出来、その用途はとても応用がきく。
だが、細胞を無理やり活性化させるので使った後は激しい筋肉痛に襲われる。
やっと初戦終わった……なげぇな。