第6章 曹操
翌朝。
「今日、竹カゴ4人で売って一番売んかった奴が夕飯オゴリや」
凪達3人と朝食摂っている時に李典が唐突に提案した。
「あっ、それ賛成なのー!」
于禁だけが李典の提案に賛同する。
俺と凪はいきなりというのと『なんで俺 (わたし)も?』という疑問符を浮かべ李典を見る。
「なぁ、李典よ。何故俺らまでカゴ売りする事前提なんだ?」
「えっ?そら、その為に陳留来たんやろ?」
ちょっと意味わかんない事言い出したぞ……
「真桜!わたしたちは……」
「凪。別にいいって」
李典の言い方に凪が声を荒げるのを止める。
「しかし……」
「いいって別に。それに後2・3日はいる予定だし、そのついでにカゴ売りぐらい大丈夫だから。
その代わり、俺らは2人合わせた数で勝負するからな?」
後半は李典に向けて言う。
まぁ、なんだかんだ言ってここまで案内してくれたのは李典達だから、その礼も兼ねて多少の手伝いぐらいはいいだろう。
「まぁ、別にそれでもええよ」
李典の了承ももらったし、メシ食ったら早速やりますか。
「……まったく、ナナシは……」
凪はまだ不服なのかブツブツ言っている。
まぁ、せっかくだし色んな経験しようぜ、凪。
………………………………
……………………
…………
という事で、今現在俺と凪は裏通りで竹カゴを売っているのでした。
「た~けや~♪さおだけ~♪」
「なんですか、その間抜けな歌は?」
「印象強いだろ?まずはこっちを見てもらわないとお話にならないからな」
「そもそも何故人通りの多い大通りに行かないのですか?自分で言っておいてサボりですか?」
凪が不機嫌な様子で問うてくる。
「別にサボりってワケじゃないよ。
単純に大通りでこんな竹カゴの露店なんか開いたら邪魔だろ?裏通りの方が幾分人は少ないし。
それに裏通りの方が色んな情報が転がっているモンよ」
そう言って来たお客さんの相手をする。凪は色々考えているようだ。
凪は別に考えなしのバカというワケではないが、少し自分の考えが正しいと思っている節がある。もう少し頭を柔軟に使う事を覚えて欲しい。
「へいらっしゃい!お嬢ちゃん、お兄さん!竹カゴはいらんかね?」
竹カゴを眺めていた二人組に声をかける。
「お、お嬢ちゃん……?」
「まぁまぁ、華琳……」
どうやらお嬢ちゃんという呼び方は不満のようだ。メッチャ睨みつけられた。
……にしてもこのお嬢ちゃん、威圧感凄いな。
「そんな怖い顔しなさんって。可愛い顔が台無しよ?
ほら、そんな貴女に竹カゴはいかがかな?」
「話の流れに脈絡がなさ過ぎますよ、ナナシ」
横からの凪ツッコミは華麗にスルー。
「……ではこの竹カゴについて宣伝してみなさい」
随分上から注文されてしまった。
しかもプレゼンなんて俺にはできない。何故なら俺はただの販売員だから。
「……物が入ります」
悩んだ末に出てきた答えがコレとか……
「見ればわかるわ。そもそも物が入らない竹カゴなんて欠陥品ね」
案の定ボロクソ言われてしまった。
確かに正論だが、ここまで言われれば言い返したくなるもの。
「ではお嬢ちゃん。この単純な竹カゴに見た目以上の何かがあるように見えるかい?
精々しっかり編み込んでいるから、多少強度があるくらいだ。逆にお嬢ちゃんならどう宣伝する?」
横で凪はなにやら凄い顔をしていたが、こういったマセたお嬢ちゃんにはこのぐらいがいいコミュニケーションになるってモンだ。
「……何もないわね」
「そうだろ?これは変哲のないただの竹カゴだよ」
だからプレゼンはできませんよっと。
「そう……行くわよ、一刀」
「あっ、ちょっと華r……」
結局2人は竹カゴを買わずに立ち去ろうと……
「いただきっ!」
した時に昨日見逃したヒゲがお兄さんの懐から財布のようなものを奪い取る。ひったくりである。
「一刀っ!?」
ヒゲはそのままダッシュで逃走する。
お嬢ちゃんもそれを追いかけようとするが、それよりも俺が地面の石を投げる方が早かった。
石はヒゲの背中を強打し、ヒゲは倒れる。
その間にお嬢ちゃんとお兄さんが追い付き、どこから出したのか大きな鎌を振りかぶり……って、ちょっと!
「ちょ、ちょっと待ちや、お嬢ちゃん!」
なんつー物騒なモン持ち歩いているんや!
……思わず李典の口調が伝染ってしまった。
「こういうのは街の偉い人がやってくれるからお嬢ちゃんはそんな事しなくていいっつーか、そんな物騒な物はしまいなさい」
『めっ!』とするみたいなジェスチャーをする。
「あら、貴方はこのひったくりを庇うという事かしら?」
鎌を構えたままそう言うお嬢ちゃん。
「そうじゃない。でも、ここでお嬢ちゃんが手を出すのは違うだろ?
然るべき場所で然るべき人間に然るべき処分を受けるようにさせないと、お嬢ちゃんもコイツと同じクズになるぞ?」
「……そう。それなら私がその然るべき人間なら問題はないのかしら?」
一瞬、お嬢ちゃんの視線が鋭くなったが、すぐ元に戻る。
「まぁ、そう言われればそうだけど……あれ?お嬢ちゃん、もしかして偉い人?」
「ええ、そうね。私は曹孟徳、この陳留の州牧よ」
おぉ!このお嬢ちゃんが噂の曹操か……
「なっ!?貴女が曹操殿ですか」
凪はいきなりの曹操登場に驚きを隠せない様子。まぁ、確かにいきなり大本命が出てきたら驚くか。
曹操はそれなら問題無いとでも言うように俺に視線を向ける。
「まぁ、お嬢ちゃんが曹操っつーなら、俺にどうこう言う資格はないし、後はそっちで好きにしていいんじゃねぇの?」
ここで刑の執行にはいろんな意味で反対だけど……まぁ、それも曹操が決める事だ。
俺は曹操にヒゲを差し出す。
「……ひったくり程度で斬首ってのは容赦ねぇな」
ヒゲを引き渡す時、ポロっと言葉が漏れる。
「あら、もうこれは私が処分していいのではないのかしら?」
聞こえてしまったようだ。
「や、別にさっきも言った通り、曹操が決める事だから何も言わないけど、恐怖政治ってのは長くは続かないなぁって思っただけ」
州牧相手に浪人が政に意見するとか不敬罪と言われるかもしれない。
現に凪なんかは俺に向けて『何言っているんだ!?』みたいな顔しているし。
でも別に楯突いたワケでもなければ意見したワケでもない。単純に考えがポロっとこぼれてしまっただけだ。
この程度で曹操が俺をどうこうするっつーんなら全力で抵抗してやる。
……でも、なんかもっと厄介な予感がするんだよなぁ……
「……貴方もどこか治めていたりしたのかしら?」
「まさか。俺はただの田舎出身の浪人ですよっと」
「……ふ~ん?」
俺の言葉に目を細めて値踏みでもするかのような眼差しの曹操さん。
……いや、ホント面倒事は勘弁してくれよ?
「貴方、私の所に来なさい」
いきなり命令されました。つーか、意味わかんねぇよ。
「質問の意図が理解しかねますが?」
「あら、言葉通りの意味よ。この曹孟徳に仕えなさい」
多分普通に考えれば凄い事なんだろう。それは凪の驚き様を見ても簡単に想像が付く。
「一国の主から就職の斡旋とはねぇ……」
「もちろんそれなりの報酬は出すわ。それに連れの彼女も一緒に雇うわよ」
しかも詳しくはわからないが、かなりの高待遇を期待できそうという……
な、なんでそんなに買われているんだ……?
「こんな田舎の浪人相手に正気ですか、貴女は……」
「正気よ。もちろん冗談を言っているつもりもないわよ」
やべぇよ。マジだよ。顔は笑っているけど、目が全くといっていいほど笑ってねぇよ
「り、理由は……?」
「理由は貴方が只の浪人じゃないと思ったから……では駄目かしら?」
ダメかしらって……むしろ逆にそれが理由になるのかよ。
「この通り、どこからどう見てもただの竹カゴ売りですが、それでも貴女は俺がそうは見えないと言い張るつもりですか?」
「そうね、まずはあの石を投げた事。あの距離であんなに正確に当てられる精度。並の技術ではないわね。
それに今も私と正対しているのにそれに怯む様子がまるで無い事。相当肝が座っている証拠よ」
何この人!?どんだけ人間観察しているの!?こわっ!
「内心おっかなびっくりでビビリまくりですよ」
「それを表に出さないのも才ではなくて?」
だが、俺の抗議は一蹴にされた。
「……いやぁ、申し訳ないんですが今はまだ大陸をこの目で見て回りたいんで、士官はまだしたくないんですよ」
しょうがない。ここはホントの事を言ってなんとか引き下がってもらうしかない。
……まぁ、それで引き下がってくれればいいけど、はたして……
「そう?それなら今は無理強いはしないわ」
おっ、少し引っかかる言い方だけど、意外とすんなり引き下がってくれ……
「また機会はあるでしょうし」
全然諦めてなかった――っ!?
「華琳―!警備隊に引き渡したぞ―」
「ご苦労さま。それと、貴方。賊確保の協力感謝するわ。
後で謝礼を届けさせるから、どこの宿に泊まっているか教えてもらえるかしら?」
意外と律儀な性格らしい。別に気にしなくていい……あっ。
「別に謝礼とかいいから俺の言う事一つだけ聞いてくれ」
「なっ!?」
俺の言葉に曹操はもちろん、凪なんか表現不能な表情で俺の顔を凝視していた。
「それが謝礼というのではなくて?」
「細かい事を気にしていたら良い統治者になれないぞ?で、お願いなんだが……」
曹操、天の御使い、そして凪の計3対の目が注目する。
その中で俺は先程よりもいくらばかりか緊張しつつ、願いを言葉にする。
「竹カゴを買ってくれ」
時系列が若干おかしいのは……まぁ、細かい事は気にしたら負けという事で一つよろしくお願いします。