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名無しが無双  作者: そばつゆ
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第5章 三姉妹


この世界は前に比べて平和である。


野宿といっても夜行性の魔物が出てくわけでもなく、適当に動物とかに注意すればいいのだから。


まぁ、この旅でも何度か凪と野宿の経験があるから、そんなにこの世界での野宿は難しくない。さっきも言った通り、魔物とかに警戒しなければいけない前世の方が危険は多かった。


「いつまで見ているんですかっ(見ているんや!!)(見ているのー!!)!!」


3人の罵声と凪の氣弾が飛んでくるが、さらりと避けてまた火の番に戻る。


3人が水浴びするという事で、火の番を任されしばらく経ち、ちょっとトイレという事で林に入ったら3人が水浴び中でした、と。


せいぜいこの世界での野宿はこの程度の危険だっていう事。


まぁ、だから何ってワケでもない。そんな他愛ないお話。


その後、水浴びから上がった凪達に鬼の形相で追いかけられたが……結果はまぁ、俺が生きてるって事で察してくれ。


そんなこんなで就寝になったワケだが……


「ナナシはここの線よりこちらに入ってこないでください」


凪が未だ怒り冷めずという具合に言う。


……そりゃそうなるか。


「あいよ。つーか、お前らいつから真名で呼び合うようになったん?」


そう。気付けば凪達はいつの間にか真名で呼び合うようになっていた。


「さっき水浴びしている時なのー」


于禁が横から出てきて教えてくれる。


「どっかの覗き魔さんを成敗した直後にしたんや」


どうやら俺がきっかけになったみたいだけど……あれ?真名ってそんな程度の理由で交換するモンだっけ?


「真桜も沙和もそのぐらいにして今日は早めに寝て明日に備えるぞ。明日中には陳留に着けるように少し速度上げるからな。

……それと、ナナシ。絶対にこの線は超えないように。でなければわたしはナナシという存在を消さなければいけないかもしれないですから」


そ、そんなに重い事なのか……?


まぁ、別に寝相は良い方だし、最悪今日明日ぐらい寝ないで番をするぐらい問題ない。前世の時には強制5日間不眠不休で魔物から逃げた事もあるぐらいだ。


……今思えばとんでもない人生だったんだなぁ……


とまぁ、そんな事がありまして、4人での野宿が始まりました。




………………………………


………………………


………………




朝です。


え?あれから?何もなかったけど?


結局俺は火の番を明け方までして、最初に起きた凪に代わって少し寝たぐらい。


まぁ、ホントに少しで時間にすると30分ぐらいか?


んで、それから直ぐに陳留に向かって歩き出したワケだが……


「ちょっと凪ちゃ~ん!もう少しゆっくり歩いてなの~!」


「流石に今日一日この速度は辛いもんがあるで……」


于禁も李典も凪の歩くペースの速さに文句を言った。


「このぐらいで文句を言うな。ほら、ナナシなんか全員の荷物持っていてもついてきているぞ」


「あの人は人間じゃないから別なのー」


荷物持ちは覗きの罰だと。別にそれはいいんだが……于禁よ、俺はお前に人間と思われていないのか……


「何を言っているんだ。ナナシだってケガをすればちゃんと赤い血が……出るはず。見た事ないからわからないけど……」


をぉおい!凪さーん!フォローするなら最後までしてくれよぉ!


「それよりもいつになったら陳留に着くんや……ウチもう疲れてきたで……」


道知っているのはお前らだろう……


「真桜に聞いた場所だと……このままの速度でいけば夕方ぐらいには着くと思う」


先頭を歩く凪の言葉に二人は絶望した。


「ウソやろ……」


「遠過ぎなのー」


お前ら……何しに陳留まで行くつもりだったんだよ……




………………………………


………………………


………………




そんなこんなで空はもう暗くなり始めた頃、ようやく陳留に到着した俺たち。


于禁と李典はもう足が動かないと言って、陳留に着くなり取った宿で寝てしまった。


ホントに何の為にココに来たんだよ……


まぁ、つー事で、俺と凪はメシ兼ここでの情報を集めていた。


「……にしても久し振りにちゃんとした料理だよな~」


「あれはあれで良かったのですが、やっぱり辛味が足りないですから」


「お前は辛党過ぎんだよ。店の唐辛子食い尽くすなよ?」


凪は村にいた頃から超絶辛党で、専用の畑で唐辛子を栽培していたほどだ。


「流石にそこまではしません!ナナシはわたしの事をなんだと思っているんですか!」


そんな他愛ない会話を楽しみつつ、近くの席の常連らしきオッチャンや店主にこの街はどんな所かを聞いていく。


で、どうやら話を聞く限りだとここ陳留は曹操という人物が治めていて、かなり住み心地が良いそうだ。


曹操は政が上手いようだ。


しかも話によれば天の御使いなる人物も曹操と一緒にいるらしい。


「どっちも会っておきたいねぇ……」


「曹操殿と例の天の御使いにですか?」


凪の疑問に頷く事で肯定を示す。


「まぁ、簡単に会えるとも限らないけどな」


そう呟くと皿を煽って残りのチャーハンをかきこむ。


「うっし。じゃあ、明日から本格的に情報収集するか。店主、勘定!」


「あっ、ナナシ!待ってください!」


凪と共に勘定を済ませると、既に夜もいい時間で開いている店も程々といった

宿までの道を並んで歩く。


「明日は早いから早目に寝ろよ」


「ナナシこそ寝坊しないで下さいよ?」


どうでもいいような話をしていると宿に到着する。


「じゃ、おやすみ~」


凪を部屋まで送ると、俺は再び夜の街に出る。


大した用があるワケじゃない。単純に宿の周りの見回りみたいなものだ。


ここは自分の知らない土地で、言わばアウェイだ。


何かあった時に逃げるルートぐらいは探しておいても損はないだろう。


「や、やめてください!」


……ちょっと裏道入ったらすぐコレだ。


間が悪いというか運がないというか……


声のした方に向かうとヒゲ・チビ・デブの3人組の男達がこれまたピンクロングヘア・青髪サイドテール・メガネショートカットの3人組の少女達に詰め寄っている様子。


「いいじゃんかよ、な?」


「そうそう。宿もないんだろ?」


どうやら男達は強引に彼女達をどこかに連れて行こうとしているらしい。


彼女達は必死に抵抗しているが、男と女の力の違いからか連れ去られるのも時間の問題だろう。


「そんぐらいにしとこうぜ?」


ピンクロングヘアの腕を掴んでいたヒゲの男の肩を握る。摘むではなく握る。


「い、いでっ!?痛いっ!!!」


ヒゲは必死に振り払おうとするが、ピクリとも動かない。


「今日はもう帰って歯磨いて寝ろ。な?」


もう一度、笑顔で3人に言う。


「わ、わかったから離してくれっ!」


手を離すとヒゲは他2人を連れて走って逃げていく。


発展している街はこういった輩も呼んでしまう。まだしょうがない部分なのか?


そんな事を考察しつつ、もう部屋に戻るかと踵を返す。


「あ、あの!」


「ん~?」


「あ、ありがとうございました!」


3人が一斉に頭を下げる。


「おう。これに懲りたらあんま遅い時間に出歩くなよ」


そう言い残して背中を向けて手を振る。


「もしよろしければお名前を聞かせてくれませんか?私の名前は張梁」


メガネショートカット……改め張梁が名乗る。


名乗られたらこっちも名乗らないと礼儀に反するだろう。


肩越しに見ていたのを振り返り、3人と正対して名乗る。


「孔融」


「助けてくれてありがと~。わたしは張角だよ~」


「ちーは張宝だよ」


俺に続いて名乗ると他2人も順番に名乗っていく。


ピンクロングヘアが張角。青髪サイドテールが張宝というそうだ。


まぁ、振袖会うのも他生の縁というくらいだ。ここで出会ったのも何か意味があったんだろうと思う事にした。


「あっ、それからわたしのことは天和って呼んでね♪」


「「姉さん!?」」


張角の言葉に張宝、張梁が驚きハモる。


おそらく今のは真名というやつで、なんでいきなりって事なんだろうな。


「……いや、でも確かに命の恩人であるから真名を預けても……」


「お姉ちゃん、真名預けるの!?」


張梁はなんかブツブツ独り言呟いているし、張宝は張角に噛み付いているし……


「つーか、真名もらっても困るんだが……」


別に俺の方に真名を交換する理由はない。


言い方は悪いかもしれんが、あっちが勝手に真名を教えてきただけだ。


「わたしは助けてくれたからお礼の意味も込めて真名を預けただけだから、気にしないでいいよ~?」


まぁ、そういう理由なら無碍にする方が悪いだろう。


「わかった。じゃあ、天和だっけ?真名預かるわ」


「天和姉さんが預けるなら私もあなたに預けます。私は人和。よろしくお願いしますね」


「ちーも預ける!ちーは地和。よろしくね♪」


なんか流れ3人とも真名預けてきたけど、そんな流れでいいんだっけ?


俺には害も何もないからいいんだけど。


「りょーかい。じゃあ、地和と人和だな。また会う機会があればそん時はよろしく。

俺はもう自分の宿帰るけど、お前らもまた変な連中に捕まらない内に帰って歯磨いて寝ろよ」


俺はそう言って今度こそ宿に戻るのだった。


「「「ありがとうございました!!」」」


途中、3人分のお礼の言葉が背中越しに聞こえた。


俺はさっきと同じように片手を上げて応える。



……3人ハモると良い声じゃん。


そんなどうでもいい感想を抱いて俺は何日か振りの布団の感触に包まれて眠った。




彼女らが“太平妖術の書”を受け取るのはそのすぐ後の事だが、それはまた別の機会で。




どこまでこのペースを維持できるのか……


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