第4章 友達
村の出口に行くとすでに大荷物を持った凪がスタンバッていた。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫です!さぁ、行きましょう!」
昨日までの凪ではない。やっぱり凪は賢くて、優しくて、でもそれ以上に強い。俺が心配するまでもなく、ちゃんと自分で乗り越えた。
俺は凪と共に皆に別れの挨拶をして村を出る。馬はない。徒歩だ。
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………………
なんだかんだで夕方ぐらいまで歩き通した。
「流石にちょっと疲れたな……」
「ナナシが『とりあえず休憩無しで行けるトコまで行こうか♪』とか言うからですよ……
というか、これだけ歩いてちょっとって何ですか……化物ですかナナシは……」
「いや~、でも意外と行けるもんだな」
「そもそも今何処に向かっているのですか?」
「ん~、とりあえず西の陳留かな~?」
今はとりあえずこの大陸を知る事からだ。
「はぁ……理由を聞いてもいいですか?」
「理由はない。とりあえず大陸を周りたいから、近いトコから見て行こうかってだけ」
「そうですか。ちなみに何か当てはあるのですか?」
「ない。そんなモンあったら苦労しない」
「えぇっ!?それじゃどうするのですか!?」
凪の弱点は色々細かいトコまで考え過ぎるトコだな。
もう少し適当でもなんとかなるモンだ。
「いくらでも方法はあるだろうよ。
例えば士官したいとか城下で問題起こしている連中をふん縛ったりとか」
すると凪は深い溜息をはいた。
「はぁ~……ナナシ、それはあまりに無計画過ぎます。いいですか、そもそも……」
とまぁ、こんな感じで俺と凪はなんだかんだで楽しく旅路をスタートさせましたとさ。
~SIDE ???? ~
「……あかん、路銀が全然足りひん……」
「真桜ちゃん、また変な絡繰でも買ったんじゃないの~?」
「いや~、それがこの『ばね』っちゅう絡繰をつこうた仕掛けが中々良くてな?」
「真桜ちゃん……」
沙和は困った顔しとるけど、こればっかりはウチのサガやから堪忍してや。
「まぁ、なんとかなるんちゃう?なんだかんだで今までもなんとかなってたし」
最悪また竹カゴでも売ればええか。
こないだはほとんど売れなかったけど……
「どっちしろ早う次の町に着きたいなぁ」
「本当なの~……」
沙和とそんな愚痴ともなんともつかない会話の応酬をしながらトボトボと歩く。
「おっ、人いるじゃん!すみませーん!」
何の前触れもなく後ろから声をかけられる。
「すみません、知ってたらで構わないんですけど、陳留って何処だかわかります?」
振り向くといきなりそんな事を聞かれる。
声をかけてきたのは男女の二人組。ウチらと話しているのは男の方。
特徴としては、ボサボサというか少しツンツンしてるような短髪で中肉中背……でも背丈は高い。多分ウチらと同じくらいの年齢。
要するに特に特徴という特徴がない普通の男。
「ナナシ!」
その男から少し遅れてやってきたのが全身に傷跡のある少女で、白い髪を後ろで束ねている。背は男よりも頭一つ半ぐらい低いぐらい。やっぱり歳はウチらと同じぐらい。
「おっ、遅かったな。今ちょっと親切なお嬢さん方に陳留までの道を聞いているトコだ」
「そういう事ではなくて、前そうやって声かけたら野盗だったという事を忘れたのですか!?」
「そんな事もあったっけ?まぁ、大丈夫だろ。そん時もどうにかなったんだし」
男がそう言うと、少女はガックリと項垂れる。
「あぁ~、そろそろええか?」
あんまり長くなるのもあれなんで、区切りのついたとこで話に入る。
「あぁ、悪い。で、陳留まで案内してくれるんだっけ?」
「そんな事言っとらんって!まぁ、陳留行くんやったらウチらも行くとこやから一緒にどうやろ?」
「マジで?いや~、助かったよ」
考える事もなく賛同する。この男は人を疑うという事をしないのだろうか?
「ナナシ!少しは考えて行動してください!今言ったばかりでしょう!」
案の定、連れの少女からも言われている。
「いいか凪。敏感になるのもわからなくはないが、経験よりも自分の目で見たもので判断しろ。これからいくらでも状況は変わっていく。昨日まで味方だったヤツが急に矛を向けてきたり、逆に敵だった奴が味方になってるとかもありえる」
「……」
少女は男の話を黙って聞いている。
「つまり何が言いたいのかっつーと、とりあえず会話できる相手なら話してからでも敵味方を判断するのは遅くないって事」
「確かにそう言われればナナシが正しいようにも思えます。だからといって、今後はもう少し控えてください!」
少女はそう言うと今度はウチらに向かい合う。
「失礼しました。わたしは楽進。こっちの男性が孔融です」
「あ、あぁ、ウチは李典や。で、こっちが……」
「沙和は于禁なの!」
「ではすまないが、陳留までの道案内頼む」
あ~、やっぱりそうなってんか……まぁ、目的地は一緒やし、別にええか。
「まぁ、目的地は一緒やし、こっちこそよろしく頼むわ」
楽進と名乗った少女と挨拶を交わす。
「そういや、さっきなんか困ってたみたいだけど、俺らに協力出来る事だったら手ぇ貸すぞ?」
自己紹介が一通り終わり、4人で歩き出してから孔融が言った。
「そうなのー!真桜ちゃんが無駄に絡繰なんて買うから、路銀が足りなくなっちゃったの!」
「ちょっ、無駄ってなんやねん!この絡繰は……云々」
「……っ!………!!」
「……!…!!」
「……」
「」
~SIDE ナナシ ~
李典と于禁と名乗った少女と出会った。
彼女達も旅をしているらしく、今は竹カゴを売って日々の路銀を稼いでいたそうだ。
陳留までの話の中で聞いた事だ。
で、李典がなんか路銀を使い過ぎてしまったから少し貸して欲しいという。
俺はOKしたが、凪がいきなり知り合った人間にそんな事するなとさっき以上に猛反発。
まぁ、それもいつもみたく舌先三寸で丸め込んだけど。
凪は少し真面目過ぎる。この機会に少しリラックスというか力の抜き方を覚えて欲しい。
「あれっ?そういや于禁のその武器って俺のと同じじゃね?」
それからしばらく歩くと、俺はそんな事に気付く。
「あれー、そうなの?お兄さんのも見せて欲しいの!」
俺の言葉に敏感に反応する于禁。まぁ、そりゃ、自分と同じ武器使ってたらそりゃ興味持つか。しかも双剣なんて滅多に使われないしな。
「ほれ」
俺は背中でクロスさせて背負っている干将と莫耶を抜く。
あんまり人前で気軽に見せるようなモンじゃねぇけど、まぁ、このぐらいは例外っつー事で。
「へー、凄い色してるのー」
于禁が刀身を見てそんな感想を漏らす。
「確かに。どんな鉄使うたら、こんな色になるんや?それとも工程で……」
李典はその色が出る理由を考えている。
干将が黒い刀身で赤い線が入っており、莫耶は白い刀身だ。
確かにこの色合いは前世でも中々なかった。
かと言って俺がその理由を知っているかというと、答えはノーだ。まぁ、特段気にしなかったっつーのもあるんだが。
とかまぁ、そんなこんなで今日は陳留どころか街にもたどり着けず、でも運良く林がある所にはたどり着いたので、そこで野宿となりましたとさ。
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………………
「じゃあ、凪達はちょっと火の準備でもしといてくれ。俺はちょっと食べられそうなモン探してくるから」
「はい!任せてください!」
俺は凪達にそう言って林に入っていく。
「あーん!待ってなのー!!」
だがすぐに于禁が俺の後についてくる。
「なんだ、こっちは俺一人で大丈夫だぞ?」
「火の準備で3人もいらないの。それに枯れ枝とかも集めた方がいいと思うの」
確かに于禁の言う通りだ。
「じゃ、ちゃちゃっと集めて、魚でも捕まえに行こうか」
「うんなの!」
まだ真名の交換はしていないが、それでもかなり打ち解けてきている。
話した感じ、悪い奴らじゃなさそうだし、なかなか面白い連中だった。
凪にとっては初めての同性で話ができる連中だ。この道中で凪ともう少し絡ませてやりたい。
そんな父というか兄的な考えを廻らすのだった。
真桜達の竹カゴ売りがついでみたいになってしまった……