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名無しが無双  作者: そばつゆ
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第2章 名前




悲鳴のあった現場に着くなりその非常識な光景に呆気に取られるも、すぐに気を取り直して近くに落ちていた拳大の石を大蛇に投げつける。


石は大蛇の頭部に直撃し、そのまま大蛇の意識を刈り取る。


……今日の飯は蒲焼かな。


などと考え、すぐ悲鳴の主を発見する。


「おい、大丈夫か?」


俺は近くまで行き手を差し伸べる。


声でなんとなく想像はついたが、やっぱり先程の悲鳴の主は同年代ぐらいの少女だった。


少女は差し出された手を少し眺め、その手を掴む。そのまま引っ張り上げ立たせようとするが、腰が抜けているようでまともに立つ事ができない。


「……はぁ」


小さく溜息をつき背中を向けてしゃがむ。


「立てないんだろ?俺の村まで送るから乗れよ」


見ない顔の少女だった。だからとりあえず村まで帰って大人にこの子の事は聞こうと判断した。


……蛇は後で回収しに来よう。


背負うと母親以外初めての異性との密着に少しドキドキしない事もなくはなかったが、まぁ、よくわからないので気のせいという事にしておく事にした。


「……あ、ありがとう…ございます」


しばらく歩くと少女から注意していないと聞き取れない声でお礼の言葉が聞こえる。


「おう、気にすんな」


素っ気ない返事だ。自分でもそう思うんだから、言われた本人もそう感じている事だろう。


そして少女を背負いしばらく林を歩き、村に到着する。


当然ながら大人達に囲まれる。


どうも話を聞く限り彼女は今日新しくこの村に引っ越してきたそうだ。んで、同年代の俺の話を聞いて探しに来たら大蛇とエンカウントした、と。


「つーか、危ないんだから一人で林の中入るなよ」


「それはお前もだ!」


俺が溜息混じりに言うと、親父にそう言われ殴られ……って、あぶねっ!


親父のゲンコツを咄嗟に避ける。あの特典がどの程度まで有効かもわからないから、もう気軽に殴られるワケにはいかない。


そんなちょっとしたコントみたいな事をしていると、少女が口を開く。


「あ、あの……さっきはありがとうございます。

それでね……?わ、わたしとお友達になってくれませんか……?」


律儀にも皆の前でもお礼の言葉を口にする少女。


さっきあんな事があったばかりというのを考えると、意外と芯は強い子なのかもしれない。


でも一つ気に入らない事がある。


「嫌だね」


俺がそう答えると少女は泣きそうになり、周りの大人達はびっくりした表情で俺を見る。


俺はそんな空気を吹き飛ばすかのように続きの言葉を紡ぐ。


「友達ってのはお願いしてなるモンじゃないだろ。友達ってのは対等だろ?単純に“面白そうだから友達になろう!”ぐらいでいいんだよ」


俺がそう言うと大人達は安堵した表情をする。


……だが、ボソッと親父の言った『……お前は本当に10才なのか?』という一言は聞き漏らしてないからな?


話の展開についていけてないのか、少女は目をパチクリ。


だけど段々理解してきたのかその顔が笑顔になり、そして本当に比喩表現なしに花が咲くような笑顔をみせた。


「は、はい!わたしは楽進。性が楽、名が進。字が文謙。真名は凪です!よろしくお願いします!」


この微妙に腰が低いというか堅いのは元からなのか……


「俺は孔融。性が孔、名が融。字は文挙。真名はナナシだ。よろしくな!」


こうして俺は少女……凪と出会った。




それから早7年が経った。


あれから俺と凪はいつも一緒に行動していた。


何をするにも何処に行くにも俺らがペアである事が当たり前になっていた。


「だから凪はもうちょい大振りなクセを直せって。大振りで一撃必殺よりも小技から連打を狙え!」


「はいっ!」


今俺は凪と戦闘の訓練をしている。


いつの間にか凪は“氣”というものを使えるようになっていて、そしてそれを活かした近接戦を武器としていくようだ。


はっきり言って思っていたよりもかなり厄介だ。部分的に氣を集めれば岩をも砕く強度になり、放出すれば氣弾として遠距離の攻撃もできる。


前世でもいなかったタイプの戦闘法だ。


基本的に素手でも俺の方が強く稽古をつけているような感じだが、その氣のせいで時折冷や汗をかく事もしばしばある。


「狙うなら頭じゃないぞ!相手の胴を狙え!頭は的が小さく避けられ易いが、胴なら体のどこかには当たる」


「わかりましたっ!はぁああ……せいっ!」


凪は物覚えが良いというか吸収が早い。俺が言った事を直ぐに実践してくる。


そういえば二つ気付いた事がある。


あの1日1回までダメージ無効のやつ。あれの効果が発動された時にはその箇所に一瞬魔法陣のようなものが出現する。前に深夜に刃物で自分の腕を少し切った時にわかった。2回目以降に死ぬ原理はわからないが、まぁ、そういう事だった。


そしてもう一つがかなり嬉しい発見だったのだが、想定していたダメージについては発動しないという事。つまり、凪の拳を掌で受けてもそれは発動条件のトリガーにはならない。


ただし、明らかに刃物や鈍器で血が出たり骨が折れるような時には発動した。


まだ微妙に条件があやふやだが、それでも大分身の振りが変わる発見だった。


「放った拳はすぐ引け!」


凪の右ストレートを最小限の動きで回避し、そのまま右腕を取る。


「ちゃんと受身とれよっ、と」


足を払い、バランスを崩し勢いをつけた背負投げ。もちろん腕を引き衝撃はないように加減もする。


「凪。攻めるのはいいけど、攻撃後の硬直の事も考えないと手痛い反撃くらうぞ」


「……はい」


どうやら沈んでしまったようだ。


「ほら、そんな落ち込むなって。いつもの事だろ?」


「それはそれで悲しい気持ちになりますからやめてください。はぁ……」


「どうでもいいが、その丁寧な言葉遣いなんとかならないのか?」


もう出会ってから何回目かもわからない問いかけ。


「どうにもなりません!なんせナナシはわたしの命の恩人ですから!」


そして同じく何回目になるだろう答え。それでも最初は名前に様付けだった事を考えればマシになった方か。


まぁ、これもその内自然になっていく事だろう。


ふと空を見上げる。


空はどこまでも澄んでいて、雲一つない晴天である。


太陽はほぼ真上の位置にあり、それは昼飯の時間を教えてくれる。


「……ナナシ?」


凪が不思議に思ったのか俺を呼ぶ。


「いや、なんでもない。飯食ったら仕事頑張るかって思ってさ」


「はいっ!」


俺の言葉に凪は元気に返事をする。そしてそのままお互いの家に向かって行く。


俺は立ち止まりもう一度空を見上げる。


空は変わらない。昨日も今日も変わらない。どこまでも平和な空だった。


「この平和な日常がいつまで続く事やら……」


呟くと今度こそ家に向かって歩き出す。




そんなナナシの背中のはるか西の空に小さく、だが確かに積乱雲が発達しているのをまだ誰も知らない。


その積乱雲が降らすのはただの雨だけではなく、血の雨が降り注ぐ乱世の始まりだという事を……




………………………………


………………………


………………




『ふ~ん。まぁ、できる限り面白くなるように頑張ってね?

あっ、そういえば今更だけど自己紹介してなかったわね。私は天界からの使いであり、天界のアイドル、天使(えんじぇる)ちゃん。貴方の名前ってデータにも残っていないみたいだけど、なんていうの?』


『俺の名前か?俺の名前は……ナナシ』


『あれ?でもデータだと……』


『あの事件の時、俺はショックで自分の名前すら忘れちまった。

残ったのは体と生き残りたいという気持ちだけだ』


『じゃあ、データの“名無し”って……』


『ホントに名無しだよ。でも俺はそれから自分を“ナナシ”と名乗る事にした』


『そんな理由があったんだ……』


『まぁ、それを考慮してかどうか知らないが、俺の真名をナナシにしてくれたのは感謝してるんだぜ?だからあんま気にすんな。』



遠いあの日の続きはおおよそこんな感じだった。


俺と天使(えんじぇる)はこうして出会いから10年後に名前を交わした。



凪カワイイですよね~

一途なトコとか素敵じゃないですかっ!


以上、あとがきという名の落書きでした。

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