第1章 出会い
新しい生活がスタートした。
前の世界とは違う世界。
まだ赤ん坊という事で両親の会話を聞く限りだが、この世界は前世の世界と違い魔物がいないそうだ。
ここは青州という地で、両親の名は父が樹と言い、母は辰と言うそうだ。
しかもこの名は真名と呼ばれるもので、その名を呼ぶのを許される事は特別な事だという事。
こうして新しい世界の文化に触れる事は悪くはない。いや、それどころか今後必要になる事だからむしろありがたい。
ありがたいのだが……ヒマだ。
知っての通り、赤ん坊というのは何も自分で出来ない。だからちゃんとした自我を持っていると気が狂いそうになる程ヒマなのだ。
そんな退屈な幼児時代も過ぎ10年が経った。
未だ子供という事には違いないがそれでも自分で出来る事が格段に増えた。
そして自分で色々出来るようになって新しく気付いた事もある。それはここがどのような世界かというものだ。
文明的には前世の方が高く、この世界は大分遅れている。それこそ俺のサバイバル時代と大差がないと言ってもいいがぐらいだ。
そしてこの世界は今なかなか怪しい情勢だという事。詳しい話まではわからないが、どうも中央での政の雲行きが怪しいようだ。
せめて俺の体がもう少し整うまではもって欲しい。
ここはもう俺の家族がいて友人もいる。
あの時のような悲劇は2度と御免だ。その為にはまずこの世界でも力が必要だった。
3年程前から体作りを始めた。といっても、大した事はしていない。村の畑仕事を積極的に手伝いしながら上半身と下半身を鍛え、得物を振る感覚を思い出していく。
また体作りの一環として毎朝村の外周を走り、ついでにその日の食料になるような野生の動物を狩ったり木の実などを拾っていく。
幸い村の近くには林もあるので、その辺の食料事情にはあまり困らなかった。
両親は心配してくれたが、俺にとってはそんな事よりも自分と周りを守る力を一刻も早く手に入れる事が優先だったので、気にしないで欲しいとだけ言っていた。
そういえば先日あの天使とか名乗る女が現れた。
久し振り過ぎて最初は誰だかわからなかったのはしょうがないと思う。
『そういえば10才になったら来るとか言ってたっけ?何の用?』
『大した事じゃないよ。10年前に言ってた特典が今この時から施行される事を伝えに来たの』
『あぁ~、あの“どんな怪我病気でも1日最初の1回まで無効”ってやつだっけ?』
『そうそう。で、後は今日までの貴方の生活で天界は中々楽しめたから、そのお礼もあるのよ』
『お礼ねぇ……何?』
『貴方が昔使っていた武器を来るべき時にプレゼント』
『そいつは凄いな。そんなに太っ腹なのか、天界の連中は』
武器自体は高価なものではないが、この世界からすればおそらく存在しないだろう素材が使われている。それをプレゼントとは……
『いやぁ、それがどうもありふれた“転生して俺強ぇ”でも実際外から眺めてみると中々ワクワクしてくるらしいんですよ~』
『そんな理由かよ……
で、その来るべき時ってのは……いや、それは言われたら面白くないか』
『あら?聞かなくてもいいの?』
『折角だけど、俺はこの命を楽しんでんだ。先がわかってたら面白くないだろ?』
2度目とはいえようやくまともにやってこれているんだ。俺はこの生を楽しみたい。
『ふ~ん。まぁ、できる限り面白くなるように頑張ってね?
あっ、そういえば今更だけど自己紹介してなかったわね。私は天界からの使いであり、天界のアイドル、天使ちゃん。貴方の名前ってデータにも残っていないみたいだけど、なんていうの?』
『俺の名前か?俺の名前は……』
そこで意識が戻る。
「……いけねぇ、林の中で余計な事考えるなって」
遮蔽物の多い場所で意識を別の事に移していると、どこから何が来るかもわからない。
「きゃぁぁぁあああ~!!」
そう意識を切り替えると林の奥から悲鳴が響く。
タイミングが良いのか悪いのか……
とりあえず、その声の聞こえた方にダッシュする。
~SIDE ????~
ちょっとした冒険のつもりだった。
わたしは前にいた集落が野盗に襲われ、人が住めるような状態ではなくなってしまったので、家族と共に今日この村に引っ越してきた。
それから引越しの手伝いをしていると、その村の人が父と母にこの村での約束事を教えに来てくれた。
そしてその人曰く、わたしと同年代の男の子がいて、その彼は今近くの林にいるそうだ。
わたしは集落にいた時の友人は今回の件で住む場所がバラバラになってしまった事もあり、同年代の子が居る事に喜びを感じていた。
そこに両親から『こっちはもういいからその男の子の所にでも行ってきなさい』と言われ、わたしは笑顔で林に向かった。
林を進むにつれて周りは薄暗くなり、先程までの明るい気分はなくなっていた。
そしてガサガサという音に後ろを振り返ると……
蛇がいた。
まぁ、それはいい。いや、わたしは蛇が苦手だからよくはないがそんな事よりも問題はその蛇の大きさである。
その蛇の胴回りは子供の自分とほぼ同じ。全長は自分の3~4倍程もある。
これは明らかにマズイ。逃げなければいけないのは頭ではわかっているが、あまりの出来事に体が言う事を聞いてくれない。
もちろん蛇はこちらの都合などお構いなしに迫ってくる。
そしてチロチロと舌を出し、自分の近くまで肉薄したところでようやく体が反応をしてくれた。
「きゃぁぁぁあああ~!!」
叫ぶと同時に立ち上がり走り出そうとするが、足がもつれすぐに転んでしまう。
それでも体は這い蹲りながら少しでも離れようと動く。しかし、それも長くは続かない。
もう駄目だと目を閉じたその時、その蛇の頭部に何かが高速で衝突する。
驚きと共に何かが飛んでき方を見ると、自分と同年代ぐらいの男の子が立っていた。
なんかコレジャナカッタ感があるけど、リニューアルしましたから…………………………………………(。・ ω<)ゞ