序章 新たな世界へ
無からの覚醒。
……ここは何処だ……?
何も見えない。何も感じない。何も聞こえない。ただそこにいるだけ。
まさに無。
そんな空間に彼はいた。
『こんな奴が面白くしてくれるんですかねぇ?』
『面白くするもしないもこやつ自身じゃが……まぁ、退屈続きの暇潰しにはなるじゃろう』
『うわっ、ひどいですねぇ~。こんないい加減な理由で飛ばされて“外史”の連中も迷惑なんじゃないですか~?』
『なに、20年近くも猶予はある。その間に適応するじゃろ。別に同じ時代に項羽と呂布がいてはいけない決まりなんてないしの』
その空間に聞こえてくる誰かの話し声。
何を話しているのか。そんな事は問題ではない。何者かは分からないが、少なくともここが何処で何故俺はここにいるのか。その問を知っている者である事は間違いない。何故かは分からないがそう本能が断言している。
ここは何処だ?なんで俺はここにいるんだ?
だが、言葉は出ない。いや、出し方を忘れてしまったのか、あるいは忘れてしまったのか。どちらにしろ俺の声は彼らには届かない。
そして俺の意識はまた無の中に落ちていく。
………………………………
………………………
………………
視界が開けた。
先程までの無の世界ではない。
……で、ここは何処だ?
景色が変わろうとも持つ疑問は同じだ。
仰向けになって寝ている体を起こし……起きないだとっ!?
いや、それだけじゃない。手も足も動く。動くが、まるで自分の体ではないような感覚。
どうなっているんだっ!
自分ではそう叫んだつもりだった。だが、口から出る言葉は……
「だぁうだ!」
なんだと……!?
発声器官がやられているのか……?
そう軽く混乱していると、頭の中に直接呼びかけているような声が聞こえる。
『おーい、聞こえますかー?』
「だぅだ!?」
妙に間の抜けた声だ。言葉にすらなっていない俺の声はさらに滑稽か。
『あぁ~、別に声に出そうとしなくてもいいですよ~
頭の中に念じてくれれば言いたい事は伝わりますから~。一種のテレパシーですね~』
『こ、こうか?というか、ここは何処でお前は誰で一体どういう状態なんだ!?』
『そういっぺんに聞かれても困っちゃう~
まず、前提の話なんだけど、貴方死んだのよ?覚えてる?』
『あぁ、それは……はぁ!?俺が死んだ!?』
『ありゃりゃ……そこからなのか~
じゃあ、そこから説明しようか。貴方の半生と共に』
~~~回想~~~
彼は一人になった。
彼の住んでいた村はあまり大きくはないがそれなりに賑やかな村だった。
この世界には魔物が出る。スライムやコボルト等の低級なモノからラミアやドラゴン等の高等な種族まで多種多様にだ。
そういった魔物への対策として魔物の出没するポイントの近くにある街や村には専用の術者による結界が張られる。彼のいた村にも結界は張られていた。
彼が5才のある日。それは突然やってきた。
丁度結界の力が弱り始め、近々張り直しをするという時期だった。
村周辺にはそれこそコボルト程度の低級な魔物しかいない……はずだった。
村の上空にはブラックドラゴン。
竜族の中でもトップクラスの強さで、この世界のハンター達ですら相手にする事はないドラゴンだ。
彼は偶々峠を越えた湖まで釣りに行っていた為その惨劇に巻き込まれなかった。
だが、村に戻って見た光景は“村や人だったモノ”だ。
いくらお使いを任されようと彼は他の村や街まで行った事が無い。
その日から彼の一人での生活が始まった。魔物がどこにいるともわからないこの村の近くでのサバイバル生活が。
それから12年。
彼は立派なハンターになっていた。数年のサバイバル生活に耐え、近くの街まで逃げ延び、さらにそこからサバイバル生活で築いた知識と経験でハンターになり、小さな事から経験を積んでいった。
結果として彼は17才で高ランクのハンターとなり、チームができる程の仲間もできた。
「旦那!今回の依頼はオークの群れだそうですぜ」
「そうか。数は?」
俺は『ピース』という総勢20人程度のハンターチームの頭になっていた。
「へぇ、全部で15匹程度らしいですわ。実害はまだらしいですけど……」
「じゃあ、爆薬は閃光系の物で。あと、俺の斬馬刀持ってきて」
なぜまだ17才の俺がチームの頭やっているのか。それは皆俺と同じで何かしらの理由で家族を失った似た者同士で、腐っているぐらいなら一緒にハンターやらないかと誘ったからだ。最初は皆俺に対して不信感しかなかったが、俺の境遇、そして俺のハンターとしての実力を目にして付いてくる事を決めてくれた。
「おっ、今回は久々に頭の斬馬刀が見られるって事ですかい」
俺があのサバイバル生活の中で学んだ事の中に、使える武器は多い方が良いというのがある。
魔法があるハンターは複数属性の魔法を使う事も出来るかもしれないが、残念ながら俺には魔法の適正はなかった。
だから俺は色々な武器に手を出した。
徒手空拳、剣、槍、ムチ、ブーメラン、棒、刀、弓、鉤爪、ナイフ、斧、暗器……etc
その節操のなさは周りも若干引いていたが、自分の身を守る為だと考えれば苦労も周りの雑音も気にならなかった。
『どうっすか?段々思い出してきましたか~?』
『あぁ、ついさっきの事だしな。この後オークが出没した森まで行くんだろ?つーか、オークと戦闘しているトコまでは覚えてる』
『そのすぐ後なんですよ』
『何が?』
『貴方が死ぬの』
『……は?』
『このオーク討伐の後に他チームが仕掛けていった対アンデット用の強力な攻撃用魔法陣に餌食に……』
『……は?え、何ソレとばっちり?』
『そういう事になるね~
かなり強力なヤツだったからきっと死んだ事を認識できなかったんだねぇ~』
『そんなふざけた理由で……』
『まぁまぁ、ショックを受けるのはわかるけど、そんなに悲観する事でもないよ?それじゃあ、回想終了で現代に戻るね。そこでさっきの質問に答えるから』
~~~現代~~~
『で、さっきの質問の答えだけど、ここは貴方のいた世界とは違う世界。私は天使。最後に貴方は今転生して赤ん坊になっている、と』
ちょっと待て。今色んな事がいっぺんにあってよくわからないんだが……
『え?お前が天使?つーか転生ってどういう事?』
『転生の理由は今天界での娯楽が少ないから、ランダムで誰かを他世界に転生させてその反応を見るっていう企画を天界の偉い人達が提案して、それが可決されて、その最初の人に任命されたって事。どぅーゆーあんだすたん?』
『つまりその天界の娯楽の為に俺は転生させられた、と?』
『理解が早い人はお姉さん好きだよ~
あっ、ちなみに拒否権はないから』
拒否権?そんなものはいらない。また命をもらえるならそれはどんなにありがたい事だろうか。
彼は“生”に飢えていた。不老不死が欲しいとは言わない。だが、彼の人生はその大部分を“死”と隣合わせにしてきた。そして早すぎる死。そんな彼にこの機会は喉から手が出る程のものだ。
『拒否どころか願ったり叶ったりだ!娯楽になるかはわからんが、俺の好きなようにやって構わないのか?』
『えぇ、それで構わないわよ。それでも面白くなるような世界に貴方は連れてきたんだから』
『なるほど。それなら好きにやらせてもらう』
『しかも今回はなんと初めてのサンプルなので、いくつか特典が付きます』
サンプルって……まぁ、その通りなんだけど、もうちょい言い様はないのか。
『特典って?』
『とりあえず、前世の記憶がそのままなのはもう実感しているだろうから省略して、後は容姿や身体的能力なんかは前世の時を引き継げる……って貴方もっと化物が蔓延っている世界の方が良いスペックしてますね~』
『……そりゃどーも』
言外に人外と言われちょっと凹んだ。
『うわ~、それ以外にもデータ見ると結構人外じみてますね~』
……言葉でも言われてしまった。
『でも、こんなに人外じみてたらこの世界それなりに楽ショーですよ~。やったね♪』
全然嬉しくないのはどうしてだろうか。しかもそれなりって……
『……で、特典の続きは?』
『あっ、残りはですね……これは凄い!どんな怪我病気でも1日最初の1回まで無効ですって奥さん!』
誰が奥さんやねん……でもそれは結構いい特典……
『あっ、でもその日2回目以降は即死らしいね。頑張って♪』
全然よくねぇ特典だった。
『何その明らかにデメリットの方が大きい特典!?しかもこっちに選ぶタイミング無しとかおかしいだろ!』
『まぁ、適用は10才かららしいから、それまでにどうにかできるように修行すればいいんじゃないかな~』
『なんで10才からなんだ?』
『病気とかに対する抗体付ける為じゃないの?私だってそんなに詳しく知らないもの。あっ、特典は以上らしいね』
『ふーん、了解。じゃあ、俺はこれから好きにさせてもらうわ』
さっきのに関しては10才までは気にしなくてもいいみたいだし、それまでにあのサバイバル生活を思い出して色々できるようにしないと……
『じゃあ、私は10歳の誕生日までは姿現さないけど、ちゃんと楽しませてね♪』
そう言って彼女は消えてしまった。
まぁ、こうして俺の人生第2ラウンドはスタートしたわけだ。
という事で、2回目の投稿です。
活動報告でも書きました通り、恥ずかしながら内容を忘れてしまっていたりしているので、色々前の物とは違うかと思います。
なので、以前の作品を知っている方は別物として楽しめるかと思います(すみません(苦笑))