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おつきさま
空気の澄み切った夜、うすい雲の向こう側で、真っ白いひかりを身にまとったお月さまが笑っている。
その瞬間をとじこめておきたくて写真をとってみたけれど、レンズ越しのお月さまはちっとも笑っていなかった。どうしたってそのほほえみを切り取ることはできなくて、なにかよく分からない白いかたまりがメモリを埋めていくばかりだ。
ぼくの目には、はっきりと笑っているのが見えるのに、どうして。
ふと、いつかの言葉が頭をよぎる。
「ほら、写真とるんだからちゃんと笑ってよ」
――きっと、そういうことだ。お月さまも、ぼくらと同じ。
写真をとるのはやめて、ぼんやりと夜空をながめる。
視界のすみで、たしかにお月さまは笑っていた。