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かわいそうに
金木犀の香りが辺り一帯にまきちらされている昼下がり、孤独感が真っ青な空に吸い込まれていく。となりにいないきみは、どこか遠くで笑っているに違いない。
時間をとかして生きていくぼくらはいつだって夢を見ているのだと、そう言っていたのは誰だったっけ。あたまが満たされてもからだが満たされなければ生きていけないって分かってるのに、どうして夢にすがってしまうのだろう。
びりびりとちぎった原稿用紙が風に吹き飛ばされて雪みたいにあたりを舞うのを、親に打たれたような顔で見つめる。手の届くようで届かないところにある夢をあきらめるための最終手段を行使して、すべてに別れを告げにいく。かなしみもよろこびもない交ぜのまま心を押しつぶしていくね。どうしようもない。自然の摂理に逆らえないぼくらが、一体なにになれるというのかな。
世界の隅っこでひとりごちた。夢に溺れて時間をほどいて、そうしないと生きることすらままならないなんて。
かわいそうに。