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ころして
「大丈夫、何にも怖くなんてないから」
そう言って彼はゆっくりと私の首に手をかける。そっと、壊れ物を扱うように。その手つきは今から行われる行為とは裏腹にひどく優しい。
「すぐに、楽にしてあげるよ」
にこりと柔らかく微笑む彼。その顔が私は大好きだった。
少しずつ、少しずつ力が加えられ、徐々に呼吸が苦しくなる。はくはくと魚のように口を開けながら、必死で酸素を求める。でも、彼の手の力はますます強くなる。
白くなっていく視界の中で、彼の笑顔が網膜にこびりついていく。きっと私はこの瞬間を一生忘れない。彼も、私も、幸せなこの瞬間を。
忘れるわけない。
きっといつか生まれ変わってもまた、私は彼に殺してもらうのでしょう、ね。