君の笑顔に恋してる
前に一回うpしてたけど何となく消しちゃってたやつ。
ちょこっとだけ手直しして再うpです。
※この作品にはBL要素が含まれます
屋上。二人の男子生徒が寝転がって空を眺めていた。
―ふと、右側の青年が呟く。
「なぁ、静哉。お前はさ、どうしていつも笑っていられるんだ?」
どこまでも青く澄んだ空に、その声は良く響いた。
「ふふっ、穂高は面白い事を聞くね」
左側の青年―静哉は、笑いながら言う。
空に向かって微笑む静哉に、穂高は「…笑うんじゃねえ。仕方ねーだろ、気になるんだから」と照れながら横を向いた。
「…僕の事が気になるなんて、君もホントに物好きだなぁ。良いよ、教えてあげる。僕がいつも笑っているのは―」
静哉はバッと起き上がり、穂高の顔を覗き込むようにして言った。
「笑っていると幸せになれる、ってある人が言ってたからさ」
穂高はそれを聞いて何かを思い出すように目を瞑った。記憶の糸を手繰り寄せるように、何かを思い出そうとする。
そして、暫く考え込んだ後、何かを閃いたように声を上げた。
「あ!」
「思い出した?」
ニヤリと笑う静哉に、穂高は顔を赤らめて言った。
「何でお前そんな事覚えてるんだよ…」
◇
それは2年前の夏の出来事。蝉の鳴き声が煩い木の下で、二人は偶然出会った。
「そこ、僕の定位置なんだけど」
静哉が不機嫌そうに言う。
その木の下は、いつも静哉が昼寝をしていた場所だった。
「は?此処は俺の定位置だっつの」
穂高も負けじと言い返す。
実は穂高も此処を頻繁に利用していたのだ。
「何言ってんの、いつも此処で寝てるのは僕なんだよ」
苛立ったように言う静哉に、穂高は思いもよらぬ言葉を言い放った。
「……知ってるよ、だって、お前が寝てる時に俺が来て、お前の寝顔拝んでんだもん」
「…は?」
一瞬時が止まったようだった。爆弾発言をした事に気づかないまま、穂高はなおも続ける。
「お前さ、何でいつもそんな苦しそうな顔なんだ?笑ってるとこ一度も見た事ねえし」
見てるこっちが辛くなる、と目を伏せる穂高に、静哉は何故か胸が締め付けられるようだった。
「…笑い方が、分からなくて、さ。僕は何の為なら笑えるのかな」
泣きそうな顔の静哉に、穂高は笑いながら言った。
「笑ったら幸せになれるんだ、って俺のばーちゃんが言ってた。辛い時も、悲しい時も、笑ってたら幸せになれるんだよってさ。まあ、そのばーちゃんも、もう死んじまったけどな」
そして空を仰ぐようにして、優しい声で言った。
「だからさ、お前は幸せになるために笑うんだよ」
「幸せ、?」
「そ、いつもそんな辛気臭い面してたらいつまで経っても幸せになんねえよ。もっと俺みたいにポジティブにならねーとな!」
ニカッと笑う穂高を見て、ほんの少しだけ静哉も笑った。
「お、そんな顔も出来るんだな!そっちの方がお前には似合ってるよ」
―その時の穂高の笑顔が頭に焼き付いて離れない。きっとあれが僕の恋の始まり。
◇
「いやー、あの頃の穂高は完全にナルシストだったよね」
はははは、と笑う静哉。
「どの口がそんなこと言ってんだ、あぁ!?」
それに対して穂高は顔を真っ赤に染めて叫ぶ。
「嫌だなー、穂高ってば怖いよ」
そう言って笑う静哉は、もう2年前の様に暗い顔を見せたりはしなくなっていた。
「ま、お前が笑うようになったのは良い事だしな。その発言については見逃してやるよ」
「…ありがとね」
ドヤ顔で言う穂高に聞こえないように、静哉は呟いた。
「何か言ったか?」
案の定、穂高には聞こえていなかった。まあ、聞こえないように言ったのだけど。
「ううん、何にも言ってないよ」
「そうか」
誤魔化すように否定した静哉を、穂高はそれ以上追及したりしなかった。
(そういうところが優しいんだよなあ)
「…そうだ、放課後にさ、一緒に駅前のカフェ行こうよ」
「別に良いけど、急にどうした?」
「新メニューが追加されたらしくてさ、君の好きな抹茶ケーキの新作も出てるらしいよ」
「マジか!それは楽しみだ」
はしゃぐ穂高を見て、静哉はふわりと微笑んだ。
(ねえ、穂高。君は気付いてるのかな。僕は君の事、好きなんだよ。あの日からずっとね)
(なあ、静哉。お前は気付いているのか。俺はあの時からずっと、お前の事が好きなんだ)
もしも彼らが、お互いの想いに気づいたなら、その時――