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記憶は繰り返す



懐かしい記憶。僕は大好きな人を殺していた。この手で、僕が、君を。呆気無く死んだ君を見て僕は何故か喜んでいた、様な気がする。何故ならあの日の記憶の大半が欠落してしまったから。

なくした記憶の中に大切なものがあったような気がするけど、今となってはどうにもならない。それが大切だったか分かるのは、過去の僕だけなのだから。


過去の僕は幸せだったのか。答えは「わからない」だ。僕は過去の記憶も所々無くしてしまった。大切な部分が抜け落ちてしまった記憶では、幸せかどうかなんて判断しかねる。尤も、今の僕には「幸せ」が何なのかが分からないのだが。


『私は今とても幸せよ』

思いだせるのはこの言葉だけ。君が遺した一言は、今も僕の心に絡みついて離れない。まるで、僕が君を忘れないようにしなければならない、という暗示のようだった。それは君が僕に打ち込んだ楔のようで、少し喜びを感じた。

その喜びが理解できなくて、頭痛がした。



ハッと目が覚めた。…伸ばした手の行く先に、君はもういない。それを確認させられるような夢だった。もう分かり切っている事なのに、何故今更この様な夢を見たのか。分からない。そう言えば、もうすぐ君の命日だ。この夢はそれを思い出させるためのものなのだったのだろうか。足りない僕の頭では、本当の意味は測りきれない。とりあえず、君の眠る場所に行こうと思う。


青空がよく見えるなだらかな丘の上に一つだけお墓がある。そこが君の眠る場所。丘の下には色とりどりの花が咲き誇っている。ここは君との思い出の場所だ。初めて会ったのも、君が死んだのも、何もかもがここだった。僕と君の過ごした時間の全てがここにあると言っても過言ではない。僕はお墓に花を供えて、手を合わせて君の冥福を祈った。君に僕の想いが届いているかどうかなんて知らない。ただ祈る事に意味があるんだと思った。


その後、暇だったので丘の近くをうろつくことにした。丘の近くを歩くと、さまざまな発見がある。例えば、見た事のないような花が咲いていたり、草むらに昆虫が潜んでいたりする。自然の中には小さな発見が多々あるのだ。


今日は新たな発見…というか新しい出会いだった。花畑で女の子と出会ったのだ。白い帽子をかぶり、白いワンピースを身に付けた、ショートヘアの女の子。顔つきがあまりにも君に似ていたので、思わず声をかけてしまった。


「こんにちは」

声をかけると、少女はびくりと怯えた表情で此方を見つめてきた。

「ごめん、脅かすつもりはなかったんだ。ちょっと知り合いに似てたから」

弁解しようとしたが、少女は何も言ってくれない。

「…貴方、大切な人を自分の手で亡くしたでしょう」

やっと口を開いてくれたかと思いきや、いきなり辛辣な事を言われて反応に困った。

「えーっと……何で分かるの?」

思うままに疑問を口にすると、少女はふふっと笑った。

「ずっと貴方のそばに居たもの」

僕は思わず目を見開いた。

ずっとそばに居た?どういう意味だ。

「そのままの意味よ」

少女はまるで僕の心を読んだかのような口ぶりで言った。

そのままの意味?まさか!

「そのまさかよ。知ってるはずよ、私の名前は―」

突然、視界がぐらりと揺れた。徐々に意識が遠くなり、少女の声も聞こえなくなる。もう彼女を手放したくなくて、必死で手を伸ばしたが、何も掴めなかった。そしてそのまま、僕は意識を失った。



♪la~la~

誰かの歌声が聞こえる。聞き覚えのあるそのフレーズに、なんだか懐かしさを感じた。ゆるりと瞼を上げると、歌声はぱたりと止み、そこには誰もいなかった。起き上がってみると、そこが自分の部屋である事に気付いた。

「いつの間に…」

丘で意識を失ったはずなのに、何故自分は部屋で寝ていたのか。いくら考えても、何も思い出せない。思い出すどころか、大切な事が頭から抜け落ちていくような気がして、僕は考える事を放棄した。

ぼーっとしていると、唐突に眠気が訪れる。僕はその眠気に意識を委ねて、静かに眠りに落ちた。



巨大なゲーム盤前にして、神様がサイコロを振る。

カラン

サイコロの目は…4だ。

駒を4マス先に進める。進んだ先のマスには、『振り出しに戻る』の文字。

「あーあ、残念」

進ませたマスを振り出しに戻す。

「また懐かしい夢からやり直しだよ」

神様は唇を歪めてニヤリと笑った。



彼は再び始めからやり直す。このゲームにはゴールなど存在しない。サイコロの出る目で全てが決まり、マス目には全て何かが書かれていて、振り出しに戻る』は一番多く書かれているのだ。だから誰もゴールする事が出来ない。どこまで進んでも、必ず振り出しに戻されるから。


そして全ては巻き戻る―…



―懐かしい記憶。僕は大好きな人を殺していた。この手で、僕が、君を。呆気無く死んだ君を見て僕は何故か喜んでいた、様な気がする。何故ならあの日の記憶の大半が欠落してしまったから。

なくした記憶の中に大切なものがあったような気がするけど、今となってはどうにもならない。それが大切だったか分かるのは、過去の僕だけなのだから―…


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