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第1話 歪む世界


王都の朝は、

いつもと変わらぬ光に

包まれていた。


石畳を照らす

柔らかな日差し。

市場に並ぶ

野菜の籠。

子供たちの

笑い声。


平和。


少なくとも、

人々の目には

そう映っている。


だが、

バルトだけは

違和感を

覚えていた。


胸の奥で、

何かが

軋む。


理由は、

わからない。


それでも、

確かに――

世界が

ずれている。


 


王国騎士団・

訓練場。


剣と剣が

ぶつかり合う。


カン、と

澄んだ音。


ダニエルが

剣を振り抜く。


「団長!」


バルトは

半歩、

体をずらす。


刃先が

頬を

かすめる。


「良い踏み込みだ」


そう言いながら、

バルトは

木剣で

軽く打ち返す。


ダニエルの

体勢が

崩れた。


「まだ

速さに

頼っている」


「はい……!」


汗を拭い、

ダニエルは

うなずく。


十六歳。

それでも、

彼の剣は

確実に

強くなっていた。


バルトは

弟のように

感じている。


守るべき

存在。


だが――。


「団長」


ランドが

駆け寄ってきた。


Aランク冒険者。

顔色が

悪い。


「北街道で

異変が」


バルトは

即座に

表情を

引き締める。


「詳しく」


「魔物が……

言葉を

話しました」


一瞬、

訓練場が

静まる。


「話す、

だと?」


マークが

信じられない

といった顔をする。


ランドは

うなずいた。


「意味のある

言葉です。

『帰れ』

『来るな』と」


バルトの

背中を、

冷たいものが

走る。


魔物が

言葉を話す。


それは、

知性を

持ったという

意味だ。


通常、

魔物は

本能だけで

動く。


知性を

持つのは、

上位種か、

特殊個体のみ。


それが

街道に

現れた。


偶然とは

思えない。


「場所は」


「旧北砦

近くです」


バルトは

即断する。


「ランド、

アラン、

マーク。

俺と行く」


「ダニエルは

留守番だ」


ダニエルが

口を開く。


「団長、

俺も――」


バルトは

首を振る。


「王都の

守りを

任せる」


迷いは

なかった。


騎士団長としての

判断。


ダニエルは

歯を

噛みしめ、

敬礼する。


「……了解です」


 


北街道。


草原が

広がる。


風が

吹く。


静かすぎる。


鳥の声が

しない。


「嫌な感じだな」


マークが

呟く。


ランドは

剣に

手をかけたまま、

周囲を

見回す。


「匂いが

おかしい」


バルトも

感じていた。


血と、

腐臭。


進むと、

馬車が

横倒しに

なっていた。


護衛らしき

死体が

二つ。


だが、

引き裂かれた

痕跡は

ない。


代わりに――

胸に、

黒い紋様。


アランが

しゃがむ。


「呪いだな」


バルトは

眉を

ひそめる。


「黒月団は

滅びたはずだ」


ランドが

首を振る。


「別物かも

しれない」


その時。


草むらが

揺れた。


ゆっくりと、

現れる影。


人型。


だが、

皮膚は

灰色。


目は

赤い。


口元が

歪む。


「……帰れ」


声。


かすれているが、

確かに

言葉。


マークが

息を

飲む。


「本当に

喋った……」


バルトは

剣を

抜く。


「誰だ」


影は

首を

傾げる。


「……いらない」


「……人は

いらない」


言葉の

意味は

不明瞭。


だが、

敵意だけは

明確。


バルトは

一歩

踏み出す。


「成仏しろ」


次の瞬間。


影の体が

歪む。


背中から

黒い

突起。


骨のような

刃。


ランドが

叫ぶ。


「来るぞ!」


影が

突進。


バルトが

受け止める。


重い。


人間の

力ではない。


「マーク、

後方!」


「了解!」


マークが

魔法陣を

展開。


「炎弾!」


火球が

直撃。


影が

燃える。


だが、

止まらない。


ランドと

アランが

左右から

斬る。


肉が

裂ける。


黒い

液体が

飛び散る。


影が

膝を

つく。


それでも、

口が

動く。


「……神が……

要らないと……」


バルトの

手が

止まる。


「神?」


次の瞬間、

影は

自壊した。


爆ぜるように

崩れ、

塵となる。


沈黙。


ランドが

呟く。


「今の、

何だ……」


バルトは

剣を

握り締める。


魔物が

言葉を話し、

神の名を

口にした。


偶然では

ない。


世界が、

動き始めている。


悪い方向へ。


 


王都。


神殿。


白い

大理石の

柱。


静謐な

空気。


ミレーヌは

祈っていた。


いつも通りの

はずだった。


だが――。


胸が

苦しい。


祈りの言葉が

途切れる。


視界が

揺れる。


「……っ」


膝を

つく。


床に

手を

ついた瞬間、

床の紋様が

淡く

光った。


見たことのない

文様。


複雑な

円と

線。


「なに……これ……」


心臓が

早鐘を

打つ。


頭の中に、

声。


――調整開始。


――誤差修正。


ミレーヌは

耳を

塞ぐ。


「やめて……!」


光が

強まる。


神殿の

奥で、

何かが

動き出した。


誰も

知らない。


世界の

歯車が、

軋みながら

回り始めた

ことを。


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