名も無き英雄
「貴女達の処遇が確定しました。
貴女達の望み通り、この世界(アン ナブ キ シェア ラ)に違法な方法で召喚をされる前に暮らしていた世界(ムシュ イム アン キ)に戻れる事になりました。
因みに、貴女達のムシュ イム アン キでの立場は、ムシュ イム アン キの管理者の食客です。
貴女達は、ムシュ イム アン キの野良アサグや野良妖人に与えられた、住まう国の上流階級と同等の衣食住を保障するだけでなく、
その対価として求められる、生死に関わる内容で無い限り異能の使用の禁止する。という措置も貴女達には取らないとの事です。
ですから、貴女達は、ムシュ イム アン キでも、今までと同様、好きな時に異能を使用されても問題無いとの事です。
また、野良アサグや野良妖人が禁止されております、他世界の者達との交流につきましても、
貴女達に限っては、他世界との交流を制限しないとの事です。」
この世界の支配者である管理者の1人に返り咲かれたアマトティ様が優しい笑みを浮かべながら、僕達に質問をされる。
「わたし達の要求が全て通るとは思ってもなかったです。
本当に有難うございます。」
嫁が皆を代表して、アマトティ様に深々と頭を下げる。
「名も無き英雄のボス。ヤドカリ姫こと、ナブサモよ。
主に、そう恐縮されては、こちらが困る。
なんせ、主が、この世界を再び開いた世界になったのは、
主が、我等にラストピースを提供してくれたお陰だ。
そして、その結果、
この世界を開いた世界にする事が出来ただけでなく、
この世界に立て籠っていた大罪人達に拐かされた裏切り者達まで一網打尽にする事が出来たのだ。
我等、一同、主には感謝してもしきれんのだよ。」
アマトティ様と同様、この世界この世界の支配者に返り咲く事が出来た、
この世界の、もう一人の管理者のプスアー様が苦笑いされながら話される。
「取り敢えず、変な渾名を付けないで欲しいです。
後、わたし達は対等な仲間です。
ですから、わたしは、ボスでもないです。」
嫁が苦笑いしながらプスアー様に返答を返す。
「英雄なんて、そんな大層な者やあらへん。
ウチ達は、ただ、自分の家に帰る為に、他世界に繋がってはる。ちゅう扉を開いただけや。」
「その通りです。
相方のレイヒが言うように、
俺達は自分達の家に帰る為に他世界に繋がっている扉を開いただけです。
この世界に立て籠っていた裏切り者達。ってのを捕縛する事が出来たのは、
お2人(アマトティ & プスアー)や、この世界以外の管理者や神仏の代理人。
それと……
この世界を開く為に結成されたという特命チームや、この世界のギルドの本部の人達の頑張りだと思いますよ。」
僕と嫁と一緒に、この世界に違法な方法で召喚された、ナシアタ君とレイヒちゃんが苦笑いしながら話す。
「その判断こそが、
貴女達が違法な方法で、この世界に召喚される20年も前に、
この世界に違法な方法で召喚された者達に巻き込まれる形で、この世界に送り込まれ、
裏でギルド本部部からのバックアップも受けていた特命チームですら成し遂げる事が出来なかった偉業を達成する事が出来たのだと思いますけどね……
後、これ……内緒なのですが……
貴女達が違法な召喚をされた直後、
ナブサモちゃんとエンクル君の異能の内容を、エンクル君が考えた内容で付与して頂けるように、
プスアーと一緒に、地球の自我に頭を下げまくった、過去の私の行いを密かに自画自賛しています。
それぐらい、貴女達は素晴らしい働きをしてくれたのですよ。」
「アマトティ様。
それ……わたし達を買い被り過ぎです。」
「せやせや。
姉さんの言わはる通りやで。」
苦笑いしながら話す嫁の言葉にレイヒちゃんが頷いている。
◇◇◇
「ところで……
他世界へ繋がっている扉を開いた後、鑑定の魔術で自分達を鑑定したら、
元の世界での名前の後に、この世界に違法な方法で召喚をされた時に異能と一緒に貰った字が引っ付いていたんだけど……
元の世界に戻っても、これが本名になっちゃうのですか?」
「えぇ。
ですが……今のムシュ イム アン キでは、戸籍等にも姓名のみが記載され、字を記載する欄は無いと伺っております。
ですから、ムシュ イム アン キの管理者や神仏の代理人が関わる内容でない限り、字を他者に名乗る事は基本的には無いとお考え下さい。」
僕の質問にアマトティ様が答えてくれる。
「それ助かるわ……
この世界に居る間、ずっと字で生活をしていたから、それなりに慣れ親しんだとはいえ……
元の世界の運転免許証とかに字まで記載されるのは、ちょっと……てっ、思ってたもん。」
「せやな。
てか……姉さんや兄さんの本名を早よ覚えやんといけんな。
そんでもって、ウチやナシアタの本名を、姉さんや兄さん。ムンナちゃん達にも、早よ覚えて貰わんといけんね。
元の世界に帰ってもからも字で呼び合うんは……勘弁やもんな。」
嫁の言葉にレイヒちゃんが頷く。
「『食客』って、
有力者が才能ある人物を客として招いて衣食住を保証する代わりに、
いざという時に、その有力者を助ける存在の事をいうっていう認識なんだけど……その認識であっていますか?」
「食客という言葉の定義としては合っておる。
ただ、君達の場合は、衣食住の保障ではなく、
ムシュ イム アン キでは、野良アサグや野良妖人が規制されている全ての規制を緩和する代わりに、いざという時は、我々、管理者の力になって欲しい。という意味で食客という言葉を使わせて貰った。
勿論、君達の功績を考えれば、
今後、君達が我々の力になってくれなかったとしても、
ムシュ イム アン キで野良アサグや野良妖人が規制されている全ての規制を緩和する措置を剥奪される事は無いだろう。
ただ、我々としては、君達を頼った時は、快く力を貸して欲しいと願ってはいるがな。」
僕の質問にプスアー様が答えてくれる。
「具体的に、どんな事態を想定してはるんや?」
「残念ながら、この世界を閉じた世界にした主犯である大罪人達を捕縛する事が出来ませんでした。
いずれ、彼等は、
何処かの世界を閉じた世界にし、その閉じた世界を裏から支配しようとするかもしれません。
でっ。そういう事態が発生した場合……
君達には、また、その閉じられた他世界に繋がる扉を、こっそりと開いて欲しのです。」
レイヒちゃんの質問にアマトティ様が申し訳なさそうな顔をしながら答える。
「わたし達が、他世界へ繋がっている扉を開ける事が出来たのは運が良かったからです。
過剰な期待をされても困ります。」
「姉さんの言わはる通りやで。
運。ちゅう不確定要素を除いたら……
ウチ達は、ただ、この世界を当てもなく彷徨ってただけや。
最後の最後で姉さんを中心に大活躍させて貰った事以外は……
特別な事なんて、なんもしてへんよ。」
嫁とレイヒちゃんが苦笑いしながら話す。
「アサグや妖人は、基本、自己顕示欲が強く、特権意識の塊のような奴等ばかりだ。
だから……
いくら効率的で、成功率も高くとも、
誰にも知られないようなやり方で、大義を成すなんて事が出来るような奴なんて、主達ぐらいだ。」
「ですです。
ヤドカリさん達が居なければ、何時、この世界が開いた世界になったかのシミュレーションすら取れない状況にも関わらず、
特命チームのメンバーや、ギルド本部のお偉いさん達は、皆、自分達が、ヤドカリさん達よりも遙かに劣っていると認めたくないばっかりに、
彼等が推し進めていた、大罪人達や裏切り者達の勢力を疲弊させてから、この世界を開く。っていう、やり方を貫き通せれていれば、大罪人を取り逃がす事は無かった筈だ。って、愚痴ってますもん。
残念な事に、この世界に関わらず、殆どのアサグや妖人は、
ヤドカリさん達の言葉を借りれば、俺TUEEEE病や、俺SUGEEEE病を重度で患っている厨二病の末期患者の集まりですよ。」
嫁やレイヒちゃんの話を聞いたプスアー様やユゲミズ君が自嘲気味に話す。
「まぁ……
僕達のやった事が正しかったのか。イラん事をしただけだったのか。っていう議論は置いといて……
現状のルールでは、回帰系の異能等、過去の出来事を改変する事が出来るような異能は得られないんでしたよね?
だったら、異能の内容よりも、初見殺しの方が重要で、
初見殺しを成立させ続ける為には、無名であり続ける事が、最も重要な事だと思うんですけどねぇ……」
「理屈で言えば、君の言う通りなのですけどねぇ……」
僕の話を聞いたアマトティ様が苦笑いされている。
「スゲぇ事をして目立つよりも、
そう言う事をしないように気をつけるだけの方が、遥かに楽だと思うんだけどなぁ……」
「ホンマ、その通りやで。」
ナシアタ君の言葉にレイヒちゃんが頷く。
「そうそう。
そのお陰で、わたし達の世界のマンガやラノベとかに描かれている英雄譚とは無縁の生活だったわよね。」
「せやな。
この世界を開いた事以外は、
裏で暗躍したり、ヤレヤレ系の主人公の真似事のような事なんて、一切、しやんかったもんな。」
嫁の言葉にレイヒちゃんが頷く。
「それは、そうじゃったが……
主達と過ごした時間は、とても楽しかったぞ。」
「せやな。」・「だね。」×3・「うむ。」・「うにゃ。」
ムンナちゃんの言葉に僕達は頷く。
「あの……
アン ナブ キ シェア ラでの、貴女達の目線での英雄譚に興味がありますの。
もし、差し支えなければ、その……
皆様の、この世界での思い出話なんかを聞かせては貰えないでしょか?」
アマトティ様が、モジモジしながら質問をしてこられる。
「何度も言うようけど、英雄譚は話されへんよ。
だって、そんな大層な事なんてしてへんもん。
せやけど、まぁ……
プロのモブとしての思い出話やったら、飽きる程、話せんで。」
「プロのモブではなく、
ノンプロのモブぐらいの偽装レベルだったと思うけどね……」
「はぁ?
自分なに言うてはんねん。
うち達は、プロのモブや。ちゅうねん。」
レイヒちゃんがユゲミズ君の言葉に異を唱える。
「まぁまぁ。そう怒らないの。
わたし達のプロのモブとしての生き様を、
この無礼なお子様に語ってあげたら良いだけの話じゃん。」
嫁は、ユゲミズ君を見ながら、不敵な笑みを浮かべていた。
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