最後の準備
ファミレスを出てから電車に揺られて、家の最寄り駅まで帰ってきた。
そして、僕は今、何でも屋の前にいる。最後の準備のために。
僕は一度深呼吸をして、引き戸を開ける。
おっちゃんは店の奥のカウンターで、新聞を読んでいたが、引き戸が開くのと同時に新聞を閉じて、接客モードに入った。
「いらっしゃ――ってまた陽介かいな。これで三日連続やぞ。んで今日はどないしたん?」
「今日は、人を殺すための道具が欲しくてきた」
「また物騒な事言うなあ」
「……あるよね?」
「そりゃあるけれども、そう簡単に売れるもんやないで」
おっちゃんは眉をハの字にして、困り顔を浮かべている。
「僕にはどうしても必要なんだ。お願いします」
僕は深々と頭を下げた。
坂本を確実に殺すためには、殺傷能力の高い道具がいる。もしもミスを犯して、千秋を生き返らせることができなかったら、悔やむに悔やみきれない。もう、あんな思いはしたくない。
「大体、陽介は石川さんのとこの子、生き返らせるつまりやろ? うまくいったらええねんけど、もし何かの問題で失敗したらどうするん? 陽介、ただの人殺しやで?」
「失敗しないために、ここに来てるんだよ」
僕は顔を上げて、さも当然のように答える。
「それもそうやな」
そんな返事とは裏腹に、おっちゃんは悩んでいる様子だった。
「おっちゃんの所で買った事がバレなきゃいいの?」
「まあ、それはもちろんや。俺が心配しているのはそんなことちゃうねん。陽介がもしも失敗した場合、俺は自分の手で犯罪者を生み出すことになるやろ。せやから俺が聞きたいことは、何が何でも成功させたる、そういう意思やねん」
「なるほど……。僕は絶対成功させるとか、そんな無責任な事は言えないけど、僕が自分の過ちを償うためには、彼女を生き返らせるしかないんだ」
枯れた僕がもう一度咲くためには、彼女を生き返らせるしかない。千秋からもう一度水をもらうしかない。この時の僕は川井の罪悪感に近いものを持っていた。しかし、それを罪悪感と呼ぶにはあまりにも屈折しすぎていた。
「だから、どうか力を貸して欲しい」
僕がもう一度頭を下げる。するとおっちゃんは何かを決めたように店の奥に消えていった。そして、10秒ほどで奥の部屋から戻ってきて、手にはA4の大きさの封筒があった。
「……これを使いや」
おっちゃんはカウンターに封筒を置いて、僕の方に押した。僕がその封筒を手に取ってみると、中身はすぐにわかった。
拳銃だ。
なぜこんなものを持っているのかと聞く前に、おっちゃんが話し始める。
「これは、若気の至りで手にしてもうた。もちろん、やっぱり要らないって言うなら俺が引き取る。この前の本は読んだか?」
「とりあえず手順のとこだけ」
「充分や。手順には、死者の蘇生に成功したら、死体は消えるって書いてあったやろ? せやから、拳銃を使っても、その場を他の人に見られなかったら、犯罪にはならへん」
「わかった。ありがたく貰っていく」
僕は迷いなく即答した。僕の返事におっちゃんは目を丸くしている。
「ちょいちょい、ほんまにいいんか?」
「いやだって、バレたら犯罪のくだりはもう鍵の時にやってるし」
「そりゃそうやけど、度合ってもんがあるやろ……」
おっちゃんは僕の返事にどこか呆れた様子だった。
「もしかして、おっちゃんこれ手放したくない?」
「いや、そんなもん持っておきたくない。だから、押し付けよーおもて、それを渡したのに、そっちが迷いなさ過ぎて怖くなってん」
「確かに、これは持ってるだけでも犯罪だしね。でもこれで条件がそろった」
僕は拳銃のリスクよりも、千秋を復活させられる確率が上がることを取った。ただそれだけのことだった。
僕は封筒をその場で開封し、拳銃をバッグにしまった。
「お代は?」
「そんなもんで金取れんわ」
「じゃあ、もう遅いし、僕は帰るよ。ありがとね」
「わかった。くれぐれも失敗せんでな」
「わかってる。いい報告ができるように努めるよ」
僕はそう言い残して、引き戸を開けた。
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