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あの花に水を。  作者: 増井 龍大
第四章

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最後の準備

 ファミレスを出てから電車に揺られて、家の最寄り駅まで帰ってきた。


 そして、僕は今、何でも屋の前にいる。最後の準備のために。


 僕は一度深呼吸をして、引き戸を開ける。

 おっちゃんは店の奥のカウンターで、新聞を読んでいたが、引き戸が開くのと同時に新聞を閉じて、接客モードに入った。


「いらっしゃ――ってまた陽介かいな。これで三日連続やぞ。んで今日はどないしたん?」

「今日は、人を殺すための道具が欲しくてきた」

「また物騒な事言うなあ」

「……あるよね?」

「そりゃあるけれども、そう簡単に売れるもんやないで」


 おっちゃんは眉をハの字にして、困り顔を浮かべている。


「僕にはどうしても必要なんだ。お願いします」


 僕は深々と頭を下げた。

 坂本を確実に殺すためには、殺傷能力の高い道具がいる。もしもミスを犯して、千秋を生き返らせることができなかったら、悔やむに悔やみきれない。もう、あんな思いはしたくない。


「大体、陽介は石川さんのとこの子、生き返らせるつまりやろ? うまくいったらええねんけど、もし何かの問題で失敗したらどうするん? 陽介、ただの人殺しやで?」

「失敗しないために、ここに来てるんだよ」


 僕は顔を上げて、さも当然のように答える。


「それもそうやな」

 そんな返事とは裏腹に、おっちゃんは悩んでいる様子だった。


「おっちゃんの所で買った事がバレなきゃいいの?」

「まあ、それはもちろんや。俺が心配しているのはそんなことちゃうねん。陽介がもしも失敗した場合、俺は自分の手で犯罪者を生み出すことになるやろ。せやから俺が聞きたいことは、何が何でも成功させたる、そういう意思やねん」

「なるほど……。僕は絶対成功させるとか、そんな無責任な事は言えないけど、僕が自分の過ちを償うためには、彼女を生き返らせるしかないんだ」


 枯れた僕がもう一度咲くためには、彼女を生き返らせるしかない。千秋からもう一度水をもらうしかない。この時の僕は川井の罪悪感に近いものを持っていた。しかし、それを罪悪感と呼ぶにはあまりにも屈折しすぎていた。


「だから、どうか力を貸して欲しい」


 僕がもう一度頭を下げる。するとおっちゃんは何かを決めたように店の奥に消えていった。そして、10秒ほどで奥の部屋から戻ってきて、手にはA4の大きさの封筒があった。


「……これを使いや」


 おっちゃんはカウンターに封筒を置いて、僕の方に押した。僕がその封筒を手に取ってみると、中身はすぐにわかった。

 拳銃だ。

 なぜこんなものを持っているのかと聞く前に、おっちゃんが話し始める。


「これは、若気の至りで手にしてもうた。もちろん、やっぱり要らないって言うなら俺が引き取る。この前の本は読んだか?」

「とりあえず手順のとこだけ」

「充分や。手順には、死者の蘇生に成功したら、死体は消えるって書いてあったやろ? せやから、拳銃を使っても、その場を他の人に見られなかったら、犯罪にはならへん」

「わかった。ありがたく貰っていく」


 僕は迷いなく即答した。僕の返事におっちゃんは目を丸くしている。


「ちょいちょい、ほんまにいいんか?」

「いやだって、バレたら犯罪のくだりはもう鍵の時にやってるし」

「そりゃそうやけど、度合ってもんがあるやろ……」


 おっちゃんは僕の返事にどこか呆れた様子だった。


「もしかして、おっちゃんこれ手放したくない?」

「いや、そんなもん持っておきたくない。だから、押し付けよーおもて、それを渡したのに、そっちが迷いなさ過ぎて怖くなってん」

「確かに、これは持ってるだけでも犯罪だしね。でもこれで条件がそろった」


 僕は拳銃のリスクよりも、千秋を復活させられる確率が上がることを取った。ただそれだけのことだった。

 僕は封筒をその場で開封し、拳銃をバッグにしまった。


「お代は?」

「そんなもんで金取れんわ」

「じゃあ、もう遅いし、僕は帰るよ。ありがとね」

「わかった。くれぐれも失敗せんでな」

「わかってる。いい報告ができるように努めるよ」


 僕はそう言い残して、引き戸を開けた。


閲覧いただきありがとうございました。


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