僕は卑怯だ。
第四章。
川井は話終えると、肩の荷が下りたようにため息を吐いた。
僕はその様子を見ながらウーロン茶を流し込んだ。液体が喉を通る音が聞こえる。その音が僕の鼓動を急かす。
僕はどうにかして会話を繋ぎたかった。
沈黙が続けば、僕はここから居なくなってしまうような気がした。
「私でなければ、もっといい方向に行ってたんです。後藤君には、私を罰して欲しいです。もう石川さんはこの世界に居ないんです。もう私を罰してくれる人は後藤君しかいないんです」
川井は「お願いします」と付け加えて、頭を下げた。僕は一つ深呼吸をして、川井を見据える。
「仕方なかった……って言えば満足?」
僕は怒りに任せて、冷徹な声で川井を問い詰めた。
川井は顔を上げて目を丸くした。
「そんなこと、ありません」
「本当に?」
「私は本気で――」
「ならさ、なんでもっと策を講じなかったの?」
「それは……自分だけの問題じゃなかったから」
「本気で困っているのは相手も自分も一緒だよね? しかもその言い方だと自分だけの問題だったらもっと策を講じたって聞こえるけど?」
僕は川井に親近感を覚えている。
今日、見たくない部分と向き合うことで自分の殻を破ることができた。川井も自分が見たくない部分に向き合っているのだろう。
それが僕の親近感を誘った。
しかし、僕が気に食わなかったところは千秋に頼られたという事実を棚に上げて喋っていることだ。僕は千秋が困っている時に何もできなかった人間だ。
だから僕は彼女に嫉妬している。
もしも自分が頼られていたらと思わずにはいられないのだ。当時は避けていたくせに、そんなことに嫉妬してしまう自分に腹が立つ。
僕は卑怯だ。
「私は、どこで間違えてしまったのでしょうか?」
うつむいたまま願うように聞く川井に、僕は自分の意見を伝える。
「人間は自分では枯れない。でも、他人は人を枯らす。これは確かにその通り。でも、きっと他人が人に水をやることもできる」
川井は顔をゆっくりと上げる。その表情はまるで「何を言っているんだ」と書いてあるようだった。
「川井さんは、千秋に沢山水をあげてきたんじゃないの? それこそ大事な秘密を話すぐらい。千秋の本当に気持ちはわからないけど、そんな人がやってくれたことに対して、怒ってはないと思うよ。最終的にパソコンを壊すか壊さないかを判断したのも千秋なんだし」
「いや、私は許されないことをしてしまったんです。もっと考えてあげられたら、あんなことには」
「確かにそれはそうかもしれないけど、真に悪いのは坂本。川井さんは改善しようとして失敗しただけ。いうなれば水をあげようとしてこぼしただけ」
「あの時はこぼしてはいけない場面でした。私は……愚かです」
「愚かじゃない人間がどこに居るんだよ!」
僕は強い口調で、自分に言い聞かせるように言った。川井は驚いて肩をびくりと震わせた。
「頼られた君がそんなこと言わないでくれよ。僕は自分の弱いところを隠すことに必死で、千秋が困っていることにすら気付かなかったんだよ。これ以上僕を惨めなやつにしないでくれ」
僕は下唇を噛んだ。
「……私はもう帰ります」
川井は財布から千円札を一枚取り出し、テーブルに置いて出て行った。僕は川井がファミレスを出て、見えなくなるまでその場を動けなかった。
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