決行日!②
ご飯を食べて、坂本の家に入ったら、私は様子を見ることができなくなった。しかし、事前に石川さんのスマホと私のスマホを通話状態にしてあるため、中の様子はわかるようになっていた。
坂本君の家は一軒家だった。しかし、坂本君が言うには親も兄妹も今は家に居ないらしく、二人きりだそうだ。二人はリビングではなく、坂本君の部屋に入った。
部屋のドアが閉まる音が、携帯から耳に届いた。
『千秋~』
『……何?』
『今日もしよう』
『いや、今日は生理でさ』
『ああ、そうなのか。じゃあ、仕方ないな』
『……妙に今日は優しいね』
『今日は千秋から誘ってくれたから機嫌がいいだけ』
会話の内容だけでは様子はわからないが、今日はそういう雰囲気になることはなさそうだ。
『ちょっとコンビニ行ってくる』
坂本君の声だった。今日最初のチャンスが巡ってきた。部屋のドアが閉まる音を聞いて、私は合図を出した。
「今!」
石川さんの耳に合図は届いたようで、彼女はスマホを持ち上げて4歩歩いた。
『今パソコンの前なんだけど、どれ壊せばいいの?』
「画面の裏からコードが出てるはずです。そのコードの先にある大きな箱みたいなものをボコボコにしてください。金属バット程度の硬さがある道具はその辺にありませんか?」
『うーん、あ、あった』
電話越しに金属同士があたる高い音が響いた。
「バレちゃいます!もっとゆっくり」
『ごめん、ごめん』
坂本君が家から出てきた。
こっちに向かってくる。
私は帽子を深くかぶり、通行人のフリをしてやり過ごした。坂本君は気づく様子もなく、私の横を通り過ぎて行った。思わず「ふう」っと息が漏れた。しかし、ずっとここに留まっていたら、坂本君が帰ってきた時に見つかってしまう。
移動しなければならなかった。私はそのまま、坂本が向かった反対方向へ移動した。
『ボコボコにしたけど、後は?』
「水をぶっかけてください!」
するとスマホから階段を下る音がする。そしてすぐにコップがこすれた音と、水が流れる音が聞こえる。また階段を上がる音がした後、バシャッと水を掛ける音がした。
『ハア、ハア、ハア、これで大丈夫?』
石川さんから、一枚の写真が送られてきた。そこには、あらゆるところが凹んでいて、水浸しになったパソコンが映っていた。
「大丈夫だと思います」
『わかった。じゃあ、私はここを出るよ』
「はい!」
私がそう言うと、通話が切れた。そしてすぐに、坂本君の家から一人の少女が出てくる。私はその正門に行き、その少女と抱き合った。
「よかったね」
「うん、これでやっと解放された」
私たちは感極まって、泣いていた。だから、後ろから近づく男の存在に気が付かなかった。
「あれ、そこに居るのは千秋と川井さんだよね?」
驚いて振り向くとそこには坂本君がいた。しかし、動画を消した今、もう怖がることは何もないと思って、私はため込んでいたことを言い放った。
「坂本さん、あなたは最低です。女性の弱みに付け込んで、言う事を聞かせて。やっていいことと悪いことがありますよね?」
坂本は一瞬無表情になった。そしてニコッと笑って話し始めた。
「ああ、君か。最近僕たちのことを嗅ぎまわっているのは」
「何の話をしているのか、私にはわかりません。じゃあ、私たちはこれで」
私は勝ち誇ったように言い放って、石川さんの手を引いて、その場を去った。私は愚かだった。
これが最善だと、本気で信じていた。
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