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あの花に水を。  作者: 増井 龍大
第三章

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作戦会議

 20XX年9月。

 二学期になり、席替えを行うことになった。

 くじ引きで席を決めることになり、私は一番後ろのドア側から二番目に近い席になった。残念な事に石川さんは窓際の一番前を引き、私たちは、ほぼ対角線上に位置することになった。一番近くに居た石川さんが一番遠くになってしまった。私の隣には後藤陽介という男の子が座ることになった。


「よろしくお願いします」

「ああ、よろしくお願いします」


 後藤君はちゃんとしている人で、こちらが挨拶をすると、きちんと頭を下げて挨拶を返してくれる。

 私は石川さんが遠くでもやっていけるなと思った。


 前に座る人や、斜め前に座っている人もいい人で、人間関係にあまり困らなくなった。もちろん、困ったときは助け合いだという石川さんから教わった精神があるおかげである。

 一方、石川さんは、後ろに座る生徒と斜め後ろに居る生徒は問題なくコミュニケーションが取れている様子だったが、隣に座っている坂本君とはうまくやれていない様子だった。二学期に入って二人は別れたのだろうか。


 席替えをして二週間後、石川さんから相談があると、昼休みに視聴覚室に呼び出された。


「席替えした後の席はどう?」

「順調ですよ。周りの人もいい人が多くて」


 最初の話題は席替えだった。このことから石川さんが言っていた相談とは坂本君がらみの話だろうと思った。


「そっか、それはいいね」

「石川さんはどうですか?」

「私は……」


 石川さんは俯き、口ごもってしまった。しかし私は彼女の力になりたいと真剣に思っていた。


「何かありましたか?」

 私の思いが届いたようで、石川さんは覚悟を決めたように顔を上げて言った。


「実は私、坂本から脅されているの」

「脅されている?」

「うん。誰にも言わないで欲しいんだけど、私、ちょっと弱み握られちゃって、それで強引に付き合わされてる」

「なるほど」


 私は点と点が繋がったような感覚があった。付き合っているのを隠している理由は、石川さんが納得していないから。


「その、弱みって具体的には?」

「うーん、まあ、川井っちには言ってもいいか。私、その体の関係を持った時に、動画取られちゃって」

 石川さんは瞳に大粒の涙を貯めていた。


「……最低」


 怒りが沸々と沸いてきた。しかし、目の前に居るのは被害者の石川さんだ。抑えなければならない。


「石川さん、訴えましょう」

 一番現実的な手だった。しかし石川さんには引っかかることがあるようで、表情は晴れない。

「そうしたい気持ちは山々だけど、変な事したらネットに流すって言われてて。それに、もしもクラスに動画が広がったら私の居場所も無くなりそうで」

 クズはどこまでも卑怯だ。


 どうしたら動画を消せるだろうか。スマホを叩き割ったとしても、バックアップがあったら完全に消すことはできない。


「石川さんはどうしたいのですか?」

「……どうしたいって?」

「動画を消したいのか、彼と関わりたくないのか、それとも私がずっと一緒に居ますか?」

「動画を消したいし、坂本とは一緒に居たくない。川井っちにはずっと一緒に居てほしい」


 石川さんが瞳に貯めていた涙がこぼれた。私は思わず石川さんを引き寄せ、抱きしめた。

「ごめんなさい。私が助けてもらってばっかりで」


 私は5月の段階で違和感を持っていた。違和感をもちながらも、石川さんから嫌われる可能性が怖くて、手を差し伸べられなかった。私は愚かだった。


「川井っち、助けてほしい。お願い」


 石川さんの声は今にも消えそうで、私も思わず涙が出そうになった。しかし、苦しんでいる石川さんの前で泣くわけにはいかない。そう思って我慢した。私を抱きしめる石川さんの力が強くなった。


「もう嫌だよ。二学期早く終わってよ。一学期に戻りたいよ」


 私は唇を噛んだ。どうにかして坂本から動画を取り上げ、石川さんを解放したい。どうすればうまくいくだろうか。


「石川さん、坂本の君スマホのパスワードはわかりますか?」

「うん、多分0903」

「わかりました。スマホは私が何とかします。石川さんは坂本の家に行ったことはありますか?」

「うん。ある」

「パソコンはありましたか?」

「あった。デスクトップが一台」

「ではそれを破壊しなければなりません」

「でもスマホはどうするの?」

「スマホは私に考えがあります。私の言うとおりにしていただけますか?」


 抱き着いたまま、石川さんはこくんと頷く。私は作戦の全貌を話した。


閲覧いただきありがとうございました。


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