違和感
20XX年7月。
「俺、実は石川と付き合ってるんだよね」
「ええ、マジ?」
「マジよマジ。昨日で二か月なんだ」
ある朝、自分の席に座っていると、そんな男子の会話を聞いてしまった。
そのグループは男子の中でも一番イケイケのグループで、石川さんと付き合っていると言ったのは、クラスで一番容姿が整っている坂本君。石川さんはかわいいし、そういうこともあるのだろうと思った。
しかし坂本君と石川さんに交友があっただろうか。
私は教室の中で一番石川さんと仲がいい自信があった。しかし、石川さんは坂本君と交友があったようには思えなかった。それに、石川さんは彼氏が居ることを私に教えてくれなかった。水臭いじゃないか。どうして教えてくれなかったのか。すると私の疑問に坂本が答えてくれた。
「ああ、でもこれ秘密にしてって言われてるんだった」
「ええ、そんなこと言っていいのかよ」
「いや、お前らが秘密にすればいいだけじゃん」
私は妙だと思った。千秋は人間関係を他人に隠すような人間ではない気がした。男子のグループに向かって「嘘だ!」と叫びそうになったのを、ぎりぎりのところで抑える。
そのタイミングで教室に朝練を終えた石川さんが入ってきた。坂本君は、友達に「秘密な」という感じで口に人差し指を当てていた。
四月の時から席替えをしておらず、依然として私の隣の席が石川さんの席だった。
「あ、川井っち~、おはよー」
「おはようございます」
私は出来る限り自然に挨拶を返したが、心の中では迷っていた。
坂本が友達に言いふらしていたと密告するべきだろうか、それとも何も聞かなかったことにするべきだろうか。
「さっき……」
これ以上先は私には言えなかった。もしも、私が坂本君の行動を密告したせいで二人が別れたりしたら、石川さんの幸せを奪うことになったら……。そんなことにはなってはいけない。
「どしたの?」
石川さんは不思議そうにこちらを見つめていた。子どもの幸せを願う母親はこんな気持ちなのだろうかと思った。
「いいえ、何でもありません」
「えー、ほんとに?」
「本当にです」
「怪しいぞ~」
ジト目でこちらを一瞬見た後、笑った石川さんにつられて、私も思わず笑ってしまった。
「まあ、何でもいいけど、心配な事とか、困った事があるならちゃんと言うんだよ?」
「もちろんですよ。困ったときは助けあいですからね。石川さんもちゃんと私に相談してくださいよ?」
「もっちーだよ」
笑顔で言う石川さんを見つめる私の心情は複雑だった。この笑顔に嘘があるようには思えなかった。しかし、現に石川さんは坂本君のことを私に相談してくれていない。そうしなければならない理由があるのだろうか。
私は坂本君とその取り巻き達の様子をよく見ておかなければならない、と強く感じた。
閲覧いただきありがとうございました。
評価やブックマークをしていただけたら嬉しいです。




