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あの花に水を。  作者: 増井 龍大
第一章

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忘れ物と、忘れられない人

 20XX年12月

 薄暗い夜の空に三日月が輝いている。


 時刻は午後八時過ぎ。部活動を行っていた生徒すら帰った時間だ。学校の教室のほとんどは電気が消えていて、ぼくはスマホのライトを頼りに、階段を登る。 


 僕が向かっているのは二年六組、三階の一番手前にある教室だ。


 僕は、部活を終えて学校の最寄り駅に着いた時、定期券が無いことに気が付いた。そして取りに学校へ戻ったのである。教室の鍵は職員室で担任の先生からもらってきた。今回だけは、こんな時間まで残っている教員のブラックさに感謝した。階段を登り切り、教室のドアの前に立つ。


 僕にとって、夜の学校はあまりいいものではない。小学生の時に、肝試しで夜の学校へ侵入し、次の日に僕たちは、こっぴどく担任から叱られた。そのトラウマがあるから、夜の学校は嫌いだ。あの時はどうしてバレたのだろうか。


 そんなことを考えながら、ドアの鍵穴にカギを差し込み回転させる。ドアの鍵はガチャリと音を立てて、すぐに開いた。僕の席は後ろのドアから一番近いところある。僕は教室に入り、置き忘れていた定期券を回収した。すると教室のカーテンが風にあおられて、靡いていることに気が付いた。日直が窓を閉め忘れていたようだ。


 カーテンの隙間から、月明かりが差し込んでいる。その月明りは窓側の一番前の席にある花瓶を照らしていた。僕が毎日、水を変えている花瓶だ。花瓶に生けられている花は自分の影を見るように下を向いている。


 三日前、僕のクラスメイトの一人の石川千秋は自殺した。千秋は遺書も残しておらず、なぜ彼女が自殺したのかは闇のままだった。


 僕と千秋は中学校から一緒の学校で、彼女のことが好きだった。彼女の太陽のように笑う笑顔が好きだった。しかし、高校に進学すると、最初の頃は話したが日が経つにつれて、彼女はクラスの中心へ、僕は目立たない空気になった。そうして、だんだんと話すことも無くなり、僕たちには見えない壁が出来た。


 僕は忘れ物を取りに来たついでに、窓を閉めておくことにした。僕が最後の窓を閉め終わった時、教室の空気が変わったような気がした。誰もいないはずの教室で、誰かに見られているみたいなそんな感覚が僕の背中に突き刺さる。


「ねえ」


 後ろから声を掛けられたような気がした。僕は最後の窓の鍵を上げた時から、足が震えた。帰れなくなるかと思った。しかし、誰も居るはずがないと決意を固め、一度深呼吸をする。


「ねえ」


 声は大きくなった気がする。僕は勇気をもって、勢いよく振り向いた。すると花瓶が置かれた席に見慣れた女子生徒が座っていた。息をのむような長い黒髪に整った顔。見間違えるはずも無い何度も目で追った僕の好きな人。


「千秋!」

 僕は思わず名前を呼んでしまった。彼女がここに居るはずがない。きっと今見えている千秋は幽霊か幻影だ。

「えへへ、驚いた?」

 久しぶりに見た悪戯っぽい笑顔に、僕は思わず目元を抑えた。


閲覧いただきありがとうございました。


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