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あの花に水を。  作者: 増井 龍大
第一章

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17/22

一冊の取引

 家の最寄り駅について、僕は走っていた。


 僕は今日も、家に帰る前になんでも屋に向かっていた。看板の放つオーラを感じないほど、僕は焦っていた。なんでも屋に着いたら、壊れてしまうのではないかというぐらいの速さで僕は引き戸を引いた。


「おっちゃん!」


 僕は息を切らして、膝に手を付きながらおっちゃんを呼ぶ。僕は長距離の選手で、短距離は苦手なんだ。


「おお、陽介、いらっしゃい」


 今日も奥のカウンターから顔を出す。僕は焦りながら、古本コーナーに移動し、一冊の古本を探す。

――死人を生き返らす! 奇跡の力――

 しかし、古本コーナーを端から端まで探したが、どこにもその背表紙は見つからなない。


「そんなに焦って、どうしたんや?」

「昨日! ここにあったんだよ。死者を生き返らせるための本が」

「ああ、そうやそうや。陽介のために取り置きしとったんやったわ」


 おっちゃんは店の奥へ行って、戻ってくると、カウンターで一冊の本を僕に見せびらかしてきた。


「こいつやろ?」

 僕は頷く。

「せやろせやろ。ただ、この本を読むんはおすすめせえへんで。とっても残酷な事が書かれすぎとる。さらに言えば、こいつは高くつくで~。まあでも、陽介やし、そやなあ、4500円でええよ」


 僕はすぐにカウンターに行って、迷いなく5000円を叩きつける。


「ホンマに買うん? マジでおすすめせえへんで」


 おっちゃんは戸惑うように聞く。ならなぜその本を売っていたのか、と聞きたくなるのをぐっとこらえて、自分の行動を貫く。


「買う。ちゃんとお金も払う。何ならお釣りもいらない」

「さいですか。まいどまいど。いやーええ商売させてもらってますわ~」

 まるで開き直ったように、おっちゃんはレジを打ち始める。


「おっちゃんは、なんで僕がこの本を買いに来るってわかった?」

「そりゃ、なんでも屋やからね。なんでもわかるんよ」

 おっちゃんはレジから視線を外さずに僕の問いをはぐらかす。


「真面目に」

 僕はいつもより一つ低いトーンで脅すように言った。

 おっちゃんは面倒くさそうに頭を掻いた後、僕のことを一瞥し、諦めたように話し始めた。


「陽介が復活させようと思ってるんは、石川さんのとこの子やろ。石川さんのとこの子、自殺する前にここに顔見せにきてん。そん時に言われたんよ。この本を買いにくる人がおっても、ちゃんと止めてくださいって」


 千秋が? でもどうしておっちゃんのところに? 千秋もこの辺に住んでいたから来ても不思議ではないけれど、他に何か理由があったのかな? もしかして、おっちゃんは千秋の自殺の理由も知っているのではないか?


 疑問の大群が一気に僕の頭を駆け巡る。僕は一番気になったものを聞く。


「自殺した理由についてはなんか言ってた?」

「それは知らんなあ。石川さんがここに来た時、うちは『なんでも叶える屋』やからなんでも言って、言うても、「大丈夫です」って言うだけやったわ」

「そっか」


 僕はそれ以上何も聞かなかった。おっちゃんに聞いても教えてくれないような気がした。


「あ、石川ちゃん、復活させんねんなら、ちゃんと俺が止めた事言っといてな?」

 おっちゃんは胡散臭い笑みを浮かべながら、僕が出した5000円をレジにしまった。僕はもう店を出て行こうと思って、引き戸に体を向け、歩き始めた。すると僕の背中に煽るようなトーンのおっちゃんの声が届いた。


「その本、読むんなら早い方がええで。もう時期やからな」

「言われなくとも、すぐに読むよ」


 おっちゃんの意図はわからなかったが、千秋を復活させるにはこの本に縋るしかない。こんな本にちゃんと人を生き返らせる力が載っているとは思わない。むしろ少し怪しいとさえ思う。でも、もう縋るしかないのだ。


「陽介はまた、ここに来ることになるで」


 僕が引き戸を開けた時に、おっちゃんはそんなことを言っていた。しかし、僕は振り返ることなく、「なんでも屋」を後にした。




閲覧いただきありがとうございました。


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