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「ということは、元はと言えばあなたのせいだったと」


 自宅に戻ると両親が待ち構えていて、お茶の準備をして事情説明が始まる。


 私がヘンドリックス様の恋人と勘違いされてガマガエルに目をつけられたこと。

 私の様子がおかしいと思って、エレノス分隊長たちと共にヘンドリックス様が私の実家を訪ねたところ、ガマガエルの話を両親から聞く。

 緊急事態ということで、大隊長に話を通して、ガマガエルの屋敷に乗り込んだ。


 話を最後まで聞き終わり、父がまず口を開いた。

 ちょっと怒ってる。

 でも怒るのは間違っている。


 元凶はあのガマガエル。

 私は巻き込まれただけ。しかも自分から巻き込まれたようなものだし。


「ああ。そうだ。すまない」


 だけどヘンドリックス様は律義に詫びた。


「お父さん、ヘンドリックス様は悪くない。私が首を突っ込んだのが原因だし」

「しかし、お前がヘンドリックス様の恋人と勘違いされたせいで、あの貴族に目を付けられることになったんだろう?ヘンドリックス様が誤解させるような真似をしたのが……」

「ごめんなさい。それは私なの!できるだけ近くで話したほうがいいと思って、腕を組んで囁いたりしたから、勘違いされて」

「なに?そんなことをしたのか?お前は。はしたない」

「ユリア。積極的すぎるのも問題よ」

「母さん、それは違う」


 え?論点ずれてきた?

 戸惑い始めた私の隣で、ヘンドリックス様が少し頬を赤くして咳払いした。

 それに気が付いて、両親は顔を見合わせた後、私に向き合った。


「で、お前はヘンドリックス様のことが好きなのか?」

「好きなの?貴族様なのに」


 そしてコソコソと私に話をする。

 小声だけど、それって隣のヘンドリックス様に丸聞こえなんですけど。

 恥ずかしい。


「違います!」


 平民の私が貴族様にそんな思いを持つわけないじゃないの。

 大体迷惑だし。

 そういえば女嫌いなのに、嫌だったんだろうな。 

 本当。

 ちらりと横を見ると、ヘンドリックス様は少し傷ついたような顔をしていた。

 なぜ?


「……今回のことは私のせいだ。責任は取るつもりだ。もし今回のことで結婚に問題が起きるようであれば、私が誰かを紹介する」

「ヘンドリックス様!それは必要ないです。むしろ、傷物と思われたほうが楽です。私は結婚願望がないのです。責任をとってくださるなら、歳をとっても警邏隊で事務として働けたらと思っています」

「そ、そうなのか。わかった。それは上にかけあってみよう」

「ありがとうございます!」


 私とヘンドリックス様は意気投合という感じなのに、両親は固まっていた。

 やっぱり生涯独身宣言はさすがにまずかったのかな?


 結局、ヘンドリックス様は夕食もうちで食べてから帰っていった。

 庶民の食事でも美味しそうに食べてくれて、両親が大喜びだった。

 本当、何か付き物が落ちたみたい。ヘンドリックス様。


 ☆


 「おはよう」


 翌日もヘンドリックス様が私を迎えにきた。

 そして流れるまま、朝食を一緒に食べる。

 え?

 え?


「あの、ヘンドリックス様。もう大丈夫だと思うので、お迎えはいいですよ。本当に」

「……やはり朝食を一緒に食べるのは迷惑だな。これからは遠慮する」

「いえ、そうではなくて、お迎えにくるのが」

「それは当然だろう。何かあればご両親に申し訳ない。すでに一度危ない目にあっているのだ。二度と危ない目に合わないように私が責任を持つ」

「いえ、あのこの街は警邏隊が守ってくれてるから、大通りにいる限り大丈夫なのです」

「そうか、そうだったな」


 ヘンドリックス様が寂しそう。

 朝食を一緒に食べたかったのかな。

 それなら……


「あの、ご迷惑じゃなければ、これからも迎えにきてください。朝食も」

「そうか。よかった」


 ヘンドリックス様が嬉しそうに笑う。

 やっぱり、どうしたんだろう。

 ヘンドリックス様。

 頭でも打ったのかな?

 

 事務所に到着して、一日が始まる。


「アウルス!お前、訓練の様子をよく見ているみたいじゃないか。隊員からお前が活躍した話も聞いたし、一緒に訓練しないか」


 昼食前に、エレノス分隊長がひょっこり事務所に現れた。

 その誘いはどうなのかな。

 

「ユリア。お前も夕方どうだ。最近護身術の訓練してなかっただろう」

「そうですね。ガマガエル相手にも使えましたし、また教えてもらってもいいですか?」

「は?ガマガエル。ああ、あいつか。面白いこと言うな。ぴったりだ」

 

 エレノス分隊長がゲラゲラと笑いだす。


「貴様、うるさいぞ」

「あ、悪いかったな。アウルス。そうだ。アウルス。お前がユリアに教えるのはどうだ?どうせ送って帰っているだろう?」


 なぜ、エレノス分隊長は知っているのだろう。

 ああ、警邏隊だもん。それは当然か。


「そうだな。それはいいかもしれない」


 そうして早速仕事帰りに教えてもらうことになった。

 

「なぜ、貴様がそこにいる」

「もちろん、見学だ」

「そして君もだ」

「俺はサヴィーナの補佐だから当然だ」


 護身術の訓練には、なぜかエレノス分隊長もカノン分隊長補佐もついてきた。

 それなら、エレノス分隊長に習った方がいい気が。

 はっきり言って、送り迎えは必要ないので。


「あの、」


 口を開きかけたが、珍しくカノン分隊長補佐が口に指を当て、『静かにするように』と合図された。

 

「さあ、アウルス。ユリアに教えろ。それから私の相手をしろ」

「は?」

「お前、前より絶対強くなっているだろ?どれくらい強くなったか知りたい」

「断る」

「また負けるかもしれないからか?」

「ふざけるな!」


 ヘンドリックス様が怒って、エレノス分隊長に詰め寄る。

 エレノス分隊長、それは煽りすぎ。

 怒るのは当然。


「だったら、一緒にやろう」


 そうして、私の護身術の訓練は置いておかれ、二人が模擬戦をすることになった。

 わらわらと休憩していた警邏隊が集まってくる。


「ユリア嬢もみたかっただろ?」

「え?私が?」

「俺は見たかった。ヘンドリックスがやってきて、サヴィーナがいつも奴の話をするようになった。気に食わない。どれくらい強いかみたい」


 えっと、カノン分隊長補佐?

 私ってもしかして利用された?

 元から模擬戦をするため?

 うーん。

 複雑な心境。

 でもまあ、いいか。エレノス分隊長にもカノン分隊長補佐にもお世話になってるし。恩返しをたまにはしなきゃ。

 それよりもヘンドリックス様がどうなんだろう。

 嫌かな……。



 ヘンドリックス様はジャケットを脱いで動きやすい恰好になっている。

 柔軟した後に、刃をつぶした剣を何度か素振りしていた。


「なかなか、面白い勝負になるかもな。俺のほうが絶対強いけど」


 カノン分隊長補佐はエレノス分隊長の陰に隠れているため、物静かなイメージがある。けれども実際は違う。

 私はエレノス分隊長の悪口を言っていた警邏隊員がぼこぼこにされているのを見たことがある。

 カノン分隊長補佐はちょっと怖い。

 ヘンドリックス様、大丈夫かな。


「ユリア嬢。ヘンドリックス、楽しそうじゃないか?」


 カノン分隊長補佐に言われ、顔を上げると確かにヘンドリックス様の口元はほころんでいた。まるで、家で朝食を食べた時のような嬉しそうな……。


「意外だなあ。まあ、サヴィーナの従兄弟であれば当然か」


 そんなことをカノン分隊長補佐と話しているうちに、両者の準備は整ったようで、模擬戦が始まった。


 

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