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1-13【ペルソナの裏側】


 

「お父さんに会いに来た……?」

 

 聞き返す真白に宮部は大きく頷いた。

 

「僕はお父さんのペルソナの裏側を暴きに来たんだ……今日はお母さんの誕生日だから……」

 

「どういうことか教えてくれるかな……?」

 

 真白の言葉と優しい態度に気を良くしたのか、宮部は顔を上げて饒舌に語り始めた。

 

 



 僕のお父さんはペルソナを被って生きてるんだ。

 

 だけど僕とお母さんはそのことをちゃんと見抜いてるんだよ。

 

 家では何を聞いても「うん」とか「ああ」しか言わないけれど、外では違う……


 作り物の笑顔をべったり貼り付けて……


 そんなことばっかりしているから、お父さんは家では虚無に支配されてしまうんだ。



 お母さんは毎日言ってる。


「あなた、少しは外でしているみたいに、家でも笑ったらどうなの!?」ってね……


 僕もお父さんが虚無に支配されないように、外で被ってるペルソナを脱ぐべきだって言ったんだけど、お父さんは「そんなもの被ってない」って言って聞かない……


 

 でも、今日証拠を掴んだ……


 外ではこんな顔でお姉さんたちと笑って話してたんだ……!!



 

 そう言って宮部は勝ち誇ったようにキャバクラで接待に勤しむ父の画像を差し出した。

  

 宮部が掲げた端末の中では、キャバクラ接待に勤しむ父親が、満面の笑みで嬢の艶めかしい太腿に顔を(うず)めている。

 

 

 これがお父さんのペルソナだよ……

 

 本当の自分は根暗で無気力なのに、外では周りによく見られようと必死なんだ……!!


 その反動が、虚無を生み出すってことを、お父さんは分かっていない……いや。分かりたくないんだ……

 


 僕に気がつくと、お父さんはすごく慌てて、接待相手の人を連れて店を出ていった……

 

 しかもすぐに自分だけ帰ってきて、僕に言ったんだ。


「お母さんには内緒だぞ。ちゃんとプレゼント買って帰るからな」って。

 

 ニコニコ笑いながら僕にジュースを頼んで、お父さんは何処かに行ってしまったけど、あんな風に頭を撫でて笑ってくれたのは初めてだった……

 

 

 そう言って遠くを見つめる宮部に、真白は顔を引き攣らせながら、何と声をかけるべきか悩んだ挙げ句、助け舟を求めて犬塚にちらりと視線を送る。

 

 犬塚は面倒くさそうに頭を掻きむしりながら大きな溜め息をつくと、宮部に言った。

 


「おい……それよりお前、ここに来る途中アキラに会ったんじゃねえか?」


 

 その言葉を聞いた途端、宮部の意識が現実に戻ってきた。

 

 表情を強張らせ宮部の目が泳ぐ。

 

「話してくれ。親父に《《勇気を出して》》話をしたんだろ? アキラの事を話すのにも勇気がいるかもしれえが、あいつの命がかかってるんだ……」

 

 わざとらしくそう言って犬塚は宮部の視線まで屈むと、少年の瞳を覗き込んだ。

 

 宮部はその目をちらりと盗み見る。


 鋭い眼差しの奥には強い光が宿っていた。


 しかし宮部少年にはそれが《《強い意思》》の現れだということが分からない。


 それでも、いまだかつて見たことのない輝きを宿す男の目に、宮部は小さく頷いた。

 

「あれが……アキラくんかは分からない……あれはペルソナのお化けだった……」

 

「どういう意味だ?」

 

「顔がペンキみたいに真っ白で……それがひび割れてて……ひび割れの中には……《《闇が詰まってたんだよ》》……!!」


 黙って続きを待つ犬塚に宮部は演技ががった身振りで言った。


「でも、もしかすると、彼はペルソナの奥で《《誰か僕を見つけて》》って泣いていたのかもしれない……」


 そう言い終わると宮部は真白の方を向いてにやりと笑った。

 

 真白はその顔を見て、昼間自分が宮部に言った言葉を思い出す。

 

 ……ああ、わたしの言葉が採用されている……

 

 思わず苦笑いを浮かべた真白に、少年はなおも不敵な笑みを投げかけ続けていた。

 

 

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