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1-5【ペルソナ】


 二人は教えられた教室に向かって階段を上っていた。

 

 校長はなんとか二人に付き添おうと粘ったが、最終的には犬塚の恫喝まがいの台詞に竦んで教頭と二人校長室に取り残される運びとなった。

 

 どうやら今は昼休みのようで先程から数名の生徒達が軍団を作って遠巻きにこちらを見物に来ては去っていく。


 その目にはどれも、溢れんばかりの好奇心とわずかな怯えとがきらきら光っていた。

 

 

 数名の女生徒達が廊下の奥で犬塚を指差し、黄色い悲鳴を上げて逃げていくのを見て真白はニヤニヤしながら犬塚の顔を覗き込んだ。

 

「犬塚先輩人気者ですね?」

 

 犬塚は顔色一つ変えずに言い返す。

 

「人気ならお前も負けてねえよ」

 

「え?」


 真白は思わず聞き返した。


「さっきも階段の下から、《《悪ガキども》》が覗いてた」



「はぁ……!? 何で言ってくれないんですか!?」


 時すでに遅しだったが真白はスカートの裾を押さえて叫んだ。

 

「わざわざ現場にそんな格好で来るんで《《そういう》》趣味かと思ったんだよ」

 

「違います!! わたしの対魔障戦術上、スカートとストッキングが一番効率的なだけで……ちょっと……!! 話聞いてます!?」

 

 教室の扉を開く犬塚の背中に向かって真白は叫んだが、犬塚は何も答えず教室へと姿を消した。

 

 しかしその口元がほんの少し笑っているのに目ざとく気づいて、真白は拳を固く握る。

 

 

 遅れて真白が教室に入ると、犬塚はすでに男子生徒達の輪の中心で楽しげに何やら話をしていた。


「目立った行動は控えるように言ったのに……」


 再び真白の拳が怒りで震えた。


 真白は犬塚を連れ出して説教してやろうと思ったが、子ども達は多少の緊張こそあれ犬塚に心を開いているように見える。


 当の犬塚も普段放っている気難しい空気が消えて穏やかな表情で子ども達と話していた。




「すげぇ……!! 本物の銃……!?」

 

「おう。撃ってみるか?」

 

「いいんですか!?」


「バーカ。駄目に決まってんだろ」


 犬塚の言葉にゲラゲラと男子達の笑い声が起こる。



 それを見た真白はため息混じりに微笑むと、説教するのはやめにして彼らは犬塚に任せることにした。


 

 教室を見渡すとほとんどの男子が犬塚の周りに集まる中、その輪に加わらずに机に座る少年が二人だけいる。 


 その一方に目を止めて真白は心の中でつぶやいた。



 あの子が《《宮部くん》》……



 

 真白が犬塚にちらりと目をやると、犬塚が小さく頷いた。

 

 それを確認してから、真白は宮部の席に向かい声をかける。

 

「君は銃を見に行かないの?」

 

 宮部は真白を見上げてにやりと口角を上げると口を開いた。

 

「人は誰もが本当の自分を隠して生きてるんだ」

 

 真白は表情を変えずに椅子に座ると宮部の方を見て答えた。

 

「それでそれで?」

 

「ペルソナだよ。偽りの仮面。自分が持つ願望や恐怖を反映した仮面を被って人は生きてる。本当の自分は仮面の下に隠れて、見つかるのを恐れてるんだ」

 

「なるほど。でも本当の自分が《《誰か僕を見つけて》》って、仮面の下で泣いてることもあるんじゃないかな?」

 

 それを聞いた宮部の顔から一瞬笑みが消えた。

 

 しかしすぐに、彼はにやりと笑みを浮かべて頷いた。

 

「そうかもね。でも彼らは本当の自分を見て欲しいわけじゃない……」


 


「見て欲しいのは強くて無鉄砲な自分っていう仮面の姿さ。僕はそんなのに興味がないだけだよ……」

 

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