第97話 未来視
俺は自分の左手甲を見る。今までは翡翠色に光っていた。だが、今回は違った。感じたのは熱さではなく異様な冷たさ。氷河期にでも来たんじゃないかというくらいの寒さだった。だけど、俺の視界の様子が変だ。リアルタイムじゃない。
これは、過去に起きた出来事? いや違う。少し前にこんな動きをした覚えがない。それに、他メンバーもこんな行動はしていない。もしかしてこれは未来? 未来に来たってこと? そんなはずがない。夢でも見ているのか? もしそれだったとしたら……。
――『お兄ちゃん。今お兄ちゃんが見ているのは今の時間から5分先のできごとだよ』
(5分先? やっぱり俺は未来を見ているのか?)
――『そう。ぼくがそれまでに起こることを全て話す。それをみんなに伝える。ぼくはお兄ちゃんにしか干渉できないから』
(わかった)
俺は1回瞬きをする。すると、みんなが固まって動けなくなってる姿が目に入った。俺の目の動きひとつで現在と未来を行き来できるらしい。これならいける。
澪の声を聞きながら、俺は炎の中で考える。この状況からバレンさんを止めるのはやっぱり不可能。だから、バレンさんの性格や特性を活かした陣形にした方がいい。
この力ならバレンさんの炎を搔い潜る術を確立できる。
「全員前衛に移動!」
「え?」
俺の指示に真っ先に疑問を感じたらしいケイ。たしかに全員前衛に移動したらサポート役がいなくなる。でも、これでいい。今の俺は未来を変えられる。いい方向に繋げることができる。
「了解。カケルくん」
「カケルさんラジャっす!」
「あたしもカケルに従うわ」
「み、みんな……」
ケイが戸惑っている。これはきっと彼の選択範囲に入ってなかったのだろう。俺は目の動きで未来を見る。今度来るのはバレンさんの火炎爆発。その影響は回避不可レベルのものだ。これを回避するにはを考える。だけど、これはあくまでも5分後のこと。事前に防ぐことも可能だ。
ここは時間の流れに沿ってみる。澪はその方がいいと言っている。俺はそれに従うだけ。どんなことが起こるなんて知ったこっちゃない。このバトルを一番ベストな形で。誰も後悔しないエンドを作る。俺ならそれができる。
「今から4分後に爆発が起こる。範囲はフィールド全域。アレン! 対処に使える魔法持ってますよね?」
「了解しやした。バレン以外全員俺の方に移動をお願いしやす!」
「オーケー」
「わかったわ」
これでいい。これでいいんだ。バレンの火炎爆発はかなりの攻撃力や影響があると澪が説明を付け加える。そして、俺がアレンさんの魔法を見破ったではなく、これも澪からの指令だ。加えてその魔法の名前も教えてくれた。効果も教えてくれた。
アレンさんがこれから使う魔法は"絶界"。隔離系統の空間魔法で、どんな攻撃にも対応できる絶対の防御力を持っている。ただ、弱点としては攻撃に使える武器が減ってしまうということ。そんな魔法を火炎爆発回避に使うとは思ってなかったようで、快く了承してくれたのにも関わらず少し手間取っていた。
――『お兄ちゃん。その紋章に絶界と同じ魔法を追加したよ』
(それは本当か?)
――『亜空間を開いて結人さんからもらった魔法具を取り出して。それで再現できる』
(了解)
「アレン! こっち魔法発動準備完了」
「ッ!? それはいったいどういう意味っすか!!」
「説明はあとで話す。残り1分! もう時間がない!」
そうして俺は魔法具を取り出した。同時にバレンさん以外のメンバーが全員揃った場所に2本とも投げる。到達するのと同時に俺も高速移動で合流。合流したのと同時に絶界をもとに澪が作成した魔法を発動した。これでやり過ごせる。俺はまた未来を見る。
あと30秒。30秒で火炎爆発の影響がなくなる。その時間が過ぎたタイミングで魔法を解除する。次に見えたのはハエトリグサの逆襲。それから、2度目の形態変化だ。澪はこの形態変化が起こるとHPが全回復すると情報を教えてくれる。
このタイミングで回復されたら今までの苦労が水の泡だ。しかし、それも回避できる。バレンさんの攻撃は止まらない。それでいい。
「バレンはそのまま自由に続けるように」
「……。わーったよ。このまま続けりゃいいんだな!」
「ただし形態変化には気を付けて。敵のHPが全回復する。バレンさん主軸の陣形に変更。みんな彼に続いて!」
「カケル……」
「ケイ。大丈夫だ。俺に身を委ねればいい」
「わかった」
その言葉を聞いた瞬間ケイの瞳が白く光った。紋章のリミッターを解除したようだ。この状態の彼は音も目も機能しない。でも、俺が見る未来では彼が魔力暴走しないことが確定している。これでいい。このまま押し通す。ごり押しに近い戦い方で。
澪がカウントダウンをする。それは形態変化までのカウントダウンだった。
「まもなく形態変化開始。第3形態ではなく最終形態に移行する」
「最終形態!?」
「ああ。俺の予想が正しければ、そのままフィールドを移動する。さらには全触手が完全に再生するから、俺たちの行動範囲も制限される模様」
「じゃ、じゃあどうするのよ!!」
「大丈夫だ。問題ない。もう勝利の道筋はできている」
俺はまた無計画なことをつぶやいた。でも、今回は本当の無計画ではない。未だ確定していない暫定展開ではない、無形画なことだ。俺は再びアレンさんの方に指示を飛ばした。
「絶裂の使用を!」
「な、なんで俺のその魔法を知ってるんすか! もしかしてGVが……」
「僕は一度も教えた覚えがないよ」
「ふぇ?」
「いいから。アレンさん! 敵が最終形態になったらお願いします!」
「りょ、了解しやした!」
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