第95話 アドバイスの成果
点呼をとったあと、俺たちはハエトリグサのいる部屋に入った。相手の体力はもうすでに全回復している。ケイの予想によると、敵のHP総量は5億らしい。かなりの量なので、ちびちび戦ってるだけじゃ最速攻略はできない。
そんなことを余所にバレンさんが地面を蹴った。そのままの勢いでビーストモードを発動させて白狼の姿になる。ハエトリグサはこの急襲に追いついていけないのか、身じろぎするように太い茎を動かした。
バレンさんが喰らいつく。ただ喰らいつくのではなく、そのまま嚙みちぎっていた。もしや食べてるのだろうか? まるでハイエナのようだ。
「GVさん。バレンさんが勝手に行動してますけど……」
「彼なら大丈夫だよ。かなりの野生児だからね」
「そうなんですね……。ではこちらは作戦通りに。ケイ指示を」
「わかった。任せて、できるだけ正確に伝えるから。紋章一段階目起動」
そのケイの発言で彼の瞳が金色に光った。この状態の彼はどんな風に見えているのだろうか? 俺は彼の謎が一番気になっていた。そんなことを考えている間に、俺の方へ向かって触手が飛んでくる。序盤は距離を取った方がいい。
今のハエトリグサの触手は20本。ルグアさん情報によると、第3段階までは20本ずつ増えて、最終段階では一気に40本追加されるらしい。つまりそれで100本ということ。復習すると、その100本を全部対処してとどめを刺す道を作る必要がある。
螺旋を描くように複数の触手が回転して迫ってくる。俺は即座にビーストモードを発動させ、垂直跳びで回避。空中蹴りで接近するとモード解除してアイアンクローで勢い良く引っ掻く。
その切り口から飛び散るポリゴン。その雨を浴びて目の前が見えずとも俺はその手を止めない。アイアンクローは斬撃属性はあれど切断するのには時間がかかる。
だから、斬るのにかなりの手数で攻撃するしかない。それも同じ場所に。
「カケル、一旦退避」
「了解! バレン前衛任せた!」
「ザコに指示されたかねぇけど、わーったよ!」
「GVは後方支援継続。で問題ないよな? ケイ!」
「もちろん。カケルは理解が早くて助かるよ」
「それはども」
陣形が変わる。俺はヤサイダーの方に近づき身体に触れると、彼女も頷いて退避した。そこでGVさんが魔法剣で高速切断を開始した。アレンさんはというと、知らぬ目に青い剣を取り出していて、勢いよく切り刻む。
この2人だけでも圧倒的な戦力すぎて、俺たちの出番がなくなってしまいそうだ。
俺はケイからの指示を待つ。だんだん相手の動きが鈍くなる。鈍くなった瞬間が形態変化の予兆ということもルグアさんから教えられていた。
きっとケイはこの展開を見た上での指示で、もう少ししたら前衛移動の号令がかかる。
「GV! こっちの方はいい感じっすよ!」
「オーケー。僕もアレンに合わせる」
「お願いしやす! ケイ! 敵の形態変化完了したみたいなんで前衛組フル稼働指示頼んだっすよ!」
「了。カケル! ヤサイダー! 前衛移動開始!」
「「ラジャー!」」
また陣形が変わる。敵の触手の数は20本から40本に増えた。そのうち再生途中の触手は15本。アレンさんは、魔法で触手を引きちぎる。すると再生しようともぞもぞ蠢きだし、少しずつ伸びていく。
俺は回復したらしい触手に再び切りつける。たしかに俺は無能なアバターだ。このアバターを上手く使う。それしか方法がない。俺は身体を捻らせて力強く引き裂いた。攻撃した傷跡を見るとそこには10センチほどの切り込み。
兎の柔軟な身体を活かした攻撃はダメージにプラス判定があるらしい。これならいける。攻撃モーションの簡略化を図る。実はこれもルグアさんから教えてもらっていた。
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『明理さん。どうすればあんなに速い動きゲーム内でできるんですか? とても人間業じゃないので』
『どうすればねぇ。やっぱり、思考の仕方かな?』
『思考の仕方? とはなんですか?』
『要するに、したい動きを最小限の思考で実行する。ほら決断力は制限があるって言うでしょ?』
『はい。テレビで見たことがあります。決断力の回数を消費しすぎると、どうでもよくなるって』
『うん。そう。だから、決断力を消費しないようにあらかじめ実行したいモーションを持っておく。そうすることで早く行動のコマンドを入力できる』
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これを実行する。もう簡略化コマンドは出来上がった。手の位置腕の位置は固定。身体の捻りだけを加え脱力して連撃を繰り返す。
自然と身体が高速回転する。これを続ければ切断できる。目を回さないようにするデモンストレーションもできている。これで酔うこともない。
10……。20……。回転がどんどん速くなっていく。このまま広範囲にかけて攻撃すれば万事解決と言えるほどの勢い。いつの間にか目の前の触手は切断されていた。俺は思考を停止して、ピタリと止まる。
「カケルくん。さっきの動きはいったい……」
「カケルすごいよ!」
「ケイ。GV。ありがとうございます」
これならいける。そう思った時。フィールド全体が紫の炎に包まれた。気づけばバレンさんがものすごい形相で俺を睨みつけている。俺は何かおかしいことをしただろうか? ここからはこっちの出番というような表情は、まるで抑えきれない怒りの感情を帯びていた。
これは危ない。これ以上彼を怒らせたら……。
「ケイ。ここからは俺の独壇場にさせてくれ……」
「わかった。頼んだよバレン」
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いよいよ次回から、ビースト&リアゼノン合同連続更新です。私の思考回路がぶっ壊れるまで書き続けますので、死なないように頑張ります!!!




