番外編SS 私がゲームをしない理由①
◇◇◇とある日の休日◇◇◇
「有栖? もうそろそろ部活じゃない?」
「お母さん。今日は休みだって」
「あらそう。なら部屋の掃除したら?」
「だから、今やってるよー」
この日私は部屋を片付けていた。お母さんはかなりの心配性で、私のことはいつも放っておけないタイプの人。私はもう高校3年生で、しかも今は1月後半。あと少しで高校も卒業だ。
部屋に飾られた写真は従姉妹の顔だけがちぎれている。まだ幼稚園児。いや小学生に上がったばかりのものだったと思う。その従姉妹とは、小学校3年生までは一緒だったが、4年の時から別の学校になったので、イマイチその人の顔が思い出せない。
ただ印象に残っているのは、私がゲームに触れたくなくなるほどのトラウマを与えたこと。彼女はゲームという遊びそのものと相性が悪かった。
実力も私の方が明らかに上だった。だけど、彼女はとても負けず嫌いで、私に勝つんだといつも言っていた。でも、それでも私に勝つことはできなかった。
彼女はとても怒っていた。『もうゲームはしたくない』そういうまで私が追いつめていた。その時に起こした行動。それは私のゲーム機を壊すことだった。
その時に使ってたのが、小学校1年から愛用していたサンバイザータイプのゲーム機だった。これがきっかけで、このサンバイザータイプのゲーム機は減ってきたのだが、長い間使っていたものだったこともあって、かなりのダメージを負った。
「今どうしているのかな……」
私は彼女の顔も名前もわからない。どこかすっぽりと抜け落ちていて、思う出そうにも思い出せない。最近テレビでも言っていたが、リアゼノン事件からもう22年も経って、その事件以降原因不明の"認知症"が流行ってるとやっていた。
どうも、多くの人が一番大事な人のことなどを思い出せないらしい。そんな不可解な事件が今起こってる中で、私もその被害者なんじゃないかとまで思っていた。
原因不明なため正確な診断も対処法もわからないらしい。だから、どうすれば思い出せるのかを探す。見つけられない何かを、形すらない何かを探す。
いつの間にか私の手が止まってることに気が付いた。私は服で床が隠れた場所に座り込む。すっと目の前を見ると個人用テレビが置かれたテーブルがあった。
勉強机は受験勉強のために買った参考書や教科書。私は大学への推薦はもらえなかった。高校で生徒会長を目指そうと思っても、そう簡単にはいかない。
今の高校は正直面白くなかった。だけど、翔斗に出会ってから少し変わった。他のみんなよりも能力が劣っているのに、何かに憑りつかれたように頑張る姿。
元々私は陸上のマネージャーをしていたが、翔斗がきっかけでこのまま続けたいと思っているくらい。彼には惹かれるものがあった。
「そういえば翔斗、一昨日も学校を無断欠席したって……。またゲームでもしているのかな? いいなぁ……。ゲーム機壊れなくって……」
私はそっと立ち上がり、戸棚の引き出しを開ける。そこには壊れたサンバイザータイプのゲーム機があった。なぜだか目じりが熱くなる。どうしてなのだろうか? 小学校の時に夢中になってたゲーム。それすらも思い出せないのに……。
半分に、真っ二つに割れたそれは、私には答えをくれない。もっと遊びたかった。でも、もうそんな気力も一歩を踏み出す勇気すらもない。
どうしてなのか? やっぱりわからない。わからないことがつらい。つらいから知りたい。連想ゲームのように頭の中が言の葉で埋め尽くされていく。
もう考えたくもない。こんな人生辞めてしまえばいい。だけど、翔斗の顔を思い出してしまう。彼と離れたくない。矛盾。矛盾だ。
矛盾が私を引き止める。どうして、どうしてこの世界は歪の中で進んでいるの。不思議なことに、心にポッと炎が灯る。
この世界は間違いだらけだ。私だって彼女にした事が間違ってかもしれない。
間違いと正解。その境目はいつも不明瞭。不明瞭な上でわからない。
「たしか……。ここの棚にまだ使ってない新しいゲーム機が……」
私は壊れたゲーム機が入っていた引き出しのひとつ下の引き出しを開ける。そこには綺麗に梱包された箱があった。
私はその箱を開ける。そこにはサービスは終了していないが、生産は終了したサンバイザータイプのゲーム機があった。
本当はこのタイプの方が疲れないので一番私にはあっている。近くにあったのは宛先不明の手紙と四角くて薄い梱包されたなにか。
それを開けると、翔斗が今ハマってるらしい"ビースト・オンライン"のソフトケースが出てきた。
久々に開くパソコン。ログインをする気はないのに、自然と向かっていた。
ディスクトレイにソフトを入れる。森のような映像が流れる。それに合わせて私をどこか遠くへ誘おうとしてくる。
「翔斗。こんな綺麗なゲームで遊んでいるんだ……」
「有栖? 掃除進んでる?」
するとドアを叩く音が部屋に響く。私はすぐにパソコンを閉じて、ゲーム機を布団に中へと隠した。
「お母さん。今ちょっとお取り込み……。中。だったんだけど……」
「あら、そうなのね。失礼」
「ほらさっさと出て……」
「はいはい」
その後も私に勇気をくれるものはなかった。それでも私はアカウントだけはと作成。ゲームには入れなかったが、一歩前進した。とは思う事ができた。
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