第90話 3龍傑②
結人さんと亜蓮さんが喜んでいるのもつかの間。東京の区内放送が流れた。それは街に魔物が出現したという防災放送だった。俺は冷静になろうと状況を整理する。それ以上に冷静なのが3龍傑のメンバーだった。
まるでこれが日常とでも言うかのような表情をしている。俺は今の状況があまりよくわからなかった。そういえば今日家で母さんが、またあの時と同じことが起こるかもしれないと言っていた。
これはそれの前触れなのだろうか?
「亜蓮! 明理さん! 行くよ!」
「「了解!」」
結人さんの号令で、3人はそれぞれ仮面を取り出し身に着ける。そして、歪みの中へと消えていった。ここに残ったのは俺と景斗さんだけ。
景斗さんは何やら亜空間を開いてゴソゴソと探しものを始める。そこから出てきたのは1台のドローンだった。
「景斗さん。そのドローンを使って何するんですか?」
「黒白様たちを追跡してバトルを見る。かな? おれもいずれは非公式防衛部隊に入るんだ。だから、3龍傑のみんなのバトルを見て勉強中」
「非公式?」
「うん。黒白様の時代では確立しているみたいなんだけど、おれたちの世界じゃ魔法を使えるのは少数派。だから政府の公認を受けずに討伐活動をしているんだよね」
それってダメだと思う。自衛隊でもないのに、東京の住人を救う。いくらなんでも身勝手すぎる。
しかし、そんな彼らも自衛隊からは感謝状を贈呈されそうになったらしい。場所は結人さんの亜空間の中で行われたらしく、記録は残ってないらしい。
世間にも公表されてないので、知ってる人はほんの一部のようだ。
「あ、翔斗。黒白様たち見つけたよ! どうやらアメ横商店街に行ったみたい」
「アメ横……上野の?」
「そう。今時刻は……。18時だね。最近新しく出来たたい焼き専門店があるんだって。えーと片翼様に頼んで天然たい焼きと養殖たい焼きの食べ比べセットを人数分買ってきて……。っと」
天然たい焼きと養殖たい焼きとは何が違うのだろうか? 俺はそっちが気になってしまった。
聞けば、養殖たい焼きが生地が柔らかいのに対して、天然たい焼きは生地がパリパリしているらしい。夕食を食べたばかりなのに、お腹が空いてきてしまう。
そりゃそうだ、今日の夕食は
画面を見ると魔物と戦う3人。武器は結人さんの記憶で見た紅い剣と蒼い剣。そして、結人さんが使う黒い刀と4本の魔法剣。
その武器を駆使して敵を倒していく。そんな時だった。
「え? 待って、クリスタルが1、2、30個もある!」
「ど、どこどこ?」
「翔斗ほら。商店街の中に紫色のクリスタル。もしかして復活しようとしているのかもしれない……」
「復活? それって……」
「大魔女ウェンドラ。リアゼノン事件の元凶。まだ終わりじゃなかったんだ」
俺は理解が追いつかなかった。画面を覗く。そこにはたしかに、たくさんの紫色のクリスタルがあった。
その中から大量の魔物が召喚されている。結人さんの記憶で見た状況と一致していた。
だけど、これはまだ予兆程度のものらしい。もっと酷いと、1ヵ所に100以上のクリスタルが出現したらしい。
「あれ? 画面が真っ白になってる……」
「もしかしたら、亜蓮さんが幻霧を使ったのかもしれないですね」
画面はたしかに真っ白になっていて、視界が悪くなっていた。防音効果のある魔法も重ねて使ったみたいで、結人さんたちの声は聞こえない。
「だね。冷酷様の魔法は変幻自在だから。黒白様。冷酷様の魔法の理論も書いてくれないかな?」
「翔斗。亜蓮さんと同属の魔力持ってる人いるんですか?」
「わからない。多分いないと思う」
「じゃあ理論書けないですよ。研究対象が少なすぎるので」
「翔斗よく知ってるね。まあ、冷酷様の魔法の理論を書いて欲しいというのは、おれのエゴなんだ」
エゴ。か。俺のエゴは弟とアリスとメルくらいしかいない。リアルなら一ノ瀬先輩くらいだ。どれも自分だけのものにしたいと思っている。
「魔力は形が違うと供給も回復方法も違うからね。おれの魔力が冷酷様と同じなら供給はできる。だけど違ったらできない。ただ、冷酷様の魔力粒子は不揃いだから血中魔力系統は無理だけど、魔力回路系の魔力なら臨機応変に対応できるのが特徴だね」
「ふむふむ。血中魔力を使っているのはバレンさんと君のお姉さん。あと俺だけだですよね?」
「うん、そうだよ。バレンの血液を投与した人は、身体に馴染めば自分の血液内で魔力を生産する。そしてバレンの血液の魔力は空気中魔力を引き寄せる力があるから、器がいっぱいになるまで吸収し続ける」
「なんか難しいですね。続けてください」
「わかった。だけど、魔力回路系とは系統が違うから、魔力回路系の人は血中魔力系統の人には供給できない。逆も然り。理不尽だけど、おれの魔力では翔斗を助けられないんだ」
そういうことか。何となくわかったけど、景斗さんってこういうのを説明するのが下手なのだろうか?
結人さんよりも難しかった気がする。だけど、それでも勉強になったのは間違いない。俺はまた画面を見る。
その頃には戦闘が終わり、明理さんが新しく出来たというたい焼き専門店でたい焼きを購入していた。
「ただいまっす! もうすぐ明理も来るっすよ!」
「了解です! 冷酷様!」
「だから。普通にパパって呼んでくれればいいんすよ。景斗」
「ところで黒白様は? どこにいるのかな?」
「結人なら、ちょっと用事があるって北海道の方に行きやした」
冬の北海道。なんか寒そうだけど、まあきっとすぐに帰ってくるだろう。しばらくして、明理さんと結人さんが一緒に帰ってきた。
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また、第1話と第2話を0から書き直しました。読みやすくなってると思います!!!




