第86話 膨大な記憶
結人さんの記憶の中。そこは多くの魔物でごった返した東京の街並みだった。ここは新宿? だけどテレビで見るような建物じゃない。多くの建物が残酷なほどにボロボロで、窓ガラスはひび割れ、下には粉々になったガラス片や、逃げ遅れたのであろう人の死体があった。
22年前のリアゼノン事件。今見てる視点はどうやら結人さん目線のようだ。亜空間を移動してぐんぐん速度を増していく。
東京中を動き回ってるらしい。そのどの場所にも魔物がいて、この世界は魔物が支配した世界ということが分かる。
俺は視線を動かして状況をより詳しく見ようとするが、結人さん目線のため移動はできなかった。
そしてやってきたのは浅草の雷門前。赤い大きな提灯はその形すら残っておらず、下には焼け焦げた張り紙。
人力車も無造作に置かれていて、誰かが投げ捨てたであろう口が開いたブランドバックから中身が散乱していた。
俺は結人さんの目から得られる情報を頑張ってかき集めた。こんな荒れた場所は見たことがない。きっと長い期間を通して復興していったのだろう。
『亜蓮! 明理さん! 合流お願いします!』
『了解』
『了解しやした』
結人さんの合図とともに2つの歪みが出来上がる。そこから、青年と少女が出てきた。青年は柔らかい天然パーマで長身。少女は低身長でミディアムヘアのストレート。
つまり青年が亜蓮さんで少女が明理さん。明理さんのプレイヤー名がルグアなのだとすると、納得がいく。
明理さんが紅い剣。亜蓮さんが蒼い剣を持っていた。明理さんの動きが鈍い? つまりはかなりの重量があるということなのだろう。
よく見ると剣の長さは彼女の腰丈くらいまで長く、とてもアンバランスなシルエットだった。
動きが鈍いということは敵から見れば絶好の的。だけど、明理さんはのろのろと敵の場所に向かう。結人さんがその方向を見る。そこには100体以上の異形極まりない魔物の群れがあった。
『明理。あとは任せたっす!』
『了解。こっちは大丈夫だから気にしないで、亜蓮は北の方お願い。結人さんは西と東両方頼める?』
『問題ないよ。じゃあ行ってくるね』
『OK。解散!』
「『ラジャー!』」
そうして結人さんは歪みを通って西側の方に向かった。方角は雷門を南として見た配置のようだ。西側も魔物が大量にいて身動きがとりづらい状況になっていた。
結人さんは魔法剣と刀を呼び出す。魔法剣は四方八方に飛んでいき、魔物をどんどん串刺しに。地面には青い血みたいなのが垂れている。
これは魔物の血だろうか? カブトガニからも青い液がとれるみたいだけど、鮮やかな色ではなくどす黒かった。
そうこうしているうちに、ものの数分で殲滅した結人さんは東の方へと向かう。同様に敵を一掃すると、雷門前へ戻っていった。
『終わったよ』
『ありがとう。仕事早くて助かる』
『そんな。僕はいつものパターンを繰り返しただけだよ』
『まあ結人さんはそうなるよね』
『だね』
明理さんは少し苦戦しているかに思えたが、その異常な脚力で高速移動をし次から次へと押し寄せてくる魔物を倒していた。
そこに結人さんが加わり、5分も満たない速度で全滅させた。ちょうど北の方が終わったらしい亜蓮さんが戻ってきた。
この3人は確かに仕事が早い。だけど、この東京をこの3人だけで救ったとは思えなかった。
3対無限。これが成立しているように見えたからだ。
空中にはクリスタルが10個。そこから新たな敵が召喚される。ガーゴイルや異形に進化した動物たちの群れ。明理さんは重そうな剣を手のひらでくるくるペン回しのようにまわしていた。
『きりがないね。どうする?』
『"あれ"はまだ呼び出さない方がいいと思うっす』
『それは賛成。呼び出すにはちょっと時間がないから』
『じゃあ、僕は2人の意見に従うよ』
『OK。今は実力だけで押し通そう』
「『ラジャー』」
明理さんが剣を回すのを止めると、刀身の色が紅色から黄金に変化した。敵を斬ると感電したかのように小刻みに震え、発火して跡形もなく消えた。
そこから広範囲に電流を流して戦場をくりぬいた。円形状に雷のエフェクトが出ている。あそこに触れれば確実に死ぬだろう。
亜蓮さんはというと、敵に凍傷を負わせ手や足を動かせなくさせている。こちらも青い剣が水色に変化していた。
再び青くさせると今度は横に一閃。水流のごとく敵を飲み込み窒息死させた。
『亜蓮。絶界頼める?』
『お任せあれっす!』
絶界? 短期間でいろいろな魔法の名前を聞いてきたけど初めて聞く名前だった。亜蓮さんは亜空間から12種以上の武器を取り出し、敵を囲む。そして、一瞬で敵が消えた。
いったい何が起こったのだろうか。よく見たら上空にあったクリスタルも消えていた。
どうやら敵の出現を止めたらしい。
『よし、これで時間稼ぎできる。みんな準備はいい?』
『もちっすよ!』
『"あれ"ですね!』
さっきから"あれ"ばかり言ってる。それは……。
『第一段階……』
え?
『第一凍結……』
え?
『第一牢獄……』
え?
「『龍召喚! ……』」
そこで、俺は意識を失った。原因は情報過多だった。
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「お赤飯炊きましょう、それともオスシにします?」これがきっかけでドはまりです。




