第78話 子供なVさん
あれからでどれくらい経っただろうか? いつの間にかクワガタは姿を消していた。きっと自慢の大顎を破壊されたくないからなのだろう。
その相手となっているのは最強のVさんだ。俺はアシスタント程度にしかなれなかった。
でも、それでよかったと思っている。俺は目立てるような人ではない。ただただ弟を探す。夢の中の澪ではなく実体のある澪に出会うために。
だけど、見つからない見つからないものを探してる。たしかに俺の先輩の美玲も大事だ。けれども、本当に大事なものはすぐ近くにあるのに見つけ出すことができない。
俺は左手甲を見る。俺はこの紋章に"追憶"と名付けた。この追憶という名前は澪が夢に出てきたからつけることができたと言ってもいい。
「カケルくん。おいてくよー」
「ま、待ってください!」
砂漠の砂に足を取られながらVさんを追いかける。Vさんの足が砂のフィールドと相性がいいのか歩くのがとても速かった。
対して俺は感覚が毛の中まであるようで、砂の微粒子がじゃりじゃりしていて気分が悪い。ほんと兎のアバターはいいことがない。
こんな砂の世界では足がとても重い。戦っているときは気が付かなかったけど、初めて来たときも遅れていたような?
いや気のせいか。俺はとにかくVさんを追いかけることに集中した。Vさんは迷うことなく進んでいる。オオクワガタの場所を知っているかのように真っすぐ。
このフィールドは障害物が少ない。だから危険と少し前に話したが、それは本当なのかもしれない。
「遅いよー。あ、そうか、わかった。ちょっと待ってててねー」
Vさんが立ち止まる。すると俺の近くに歪みを作ってくれた。それは等間隔に展開されていて、俺がそこをくぐるとすぐVさんのところへ移動する。これはものすごく便利だ。
すると、またVさんが巨大な歪みを作った。そこから出てきたのは先ほど対峙したオオクワガタ。場所が近かったのだろう、そのまま戦闘に移る。
オオクワガタの大顎はかなりダメージを受けてるみたいで、ぐらぐらとしていた。どうやら、別のところでも戦っていたらしい。
戦っていた可能性がある人と言えば、ヤマトとフォルテさん、バレンさんくらいだろう。きっとヤサイダーは戦闘不能だ。
「よし、行くよ!」
「は、はい!」
俺は脚に力を入れる。ここの砂は最初クワガタと戦った場所よりも柔らかいのか、どんどん沈んでいく。
対してVさんは空間魔法を駆使して砂地獄から抜け出すと、4本の剣を大顎目掛けて勢いよく飛ばしている。
俺も参戦したいが実際のところ自慢のジャンプ力を発揮できないんじゃ意味が無い。
俺はどうにかしてこの状況を打開するか考える。ここをクリアすれば、きっとヤサイダーが見つかる。
もしもこのオオクワガタが犯人なのだとしたら、どこかにヤサイダーがいるはずだ。とにかく考える。動けないなら作戦を練る。
「Vさん!」
「何?」
「攻撃するのをやめてください。そして俺をオオクワガタの背中の上に!」
「それはどうしてなのか教えて貰えるかな?」
Vさんが俺の考えを悟ったような顔をして、問いかけて来る。俺はもう言うことは決まっていた。
オオクワガタの背中に乗って、オオクワガタの移動する方向を確認。そして、止まったところにヤサイダーがいる。
そのことをVさんに伝えると、すぐに歪みを作成してくれた。俺はその中に入り、オオクワガタの背中に乗る。
Vさんも同乗してくれて、準備完了。クワガタには自由に動いてもらうと、羽を展開させて飛び始めた。
顔に当たる砂ぼこりが目に入る。なのにVさんはとても楽しそうだった。落っこちてもすぐに戻ってこられるから、そこまで揺れは気にしていないようだ。
「気持ちいいーー!」
「あ、あの……。これ遊びじゃないんですよ。遊びじゃ……」
「それくらいわかってるよー。それにしても、空は高いし。砂ぼこりは気になるけど、そこまでじゃないし。亀アバターにしてよかった」
「その……。それ俺に自慢されても困るんですけど……」
子供感丸出しのVさん。これが素の状態なのだろうか? 巨大な敵の上に乗っているのに、ここまで気が緩んでいるのが謎すぎる。
Vさんはゲームでもリアルでも好き放題。これも紋章の影響なのか? 本当のVさんがわからない。
亜空間の中で会話する時は仮面を身につけても髪も黒ではなく白で。表情も見えず、それでもものすごく教えてくれて。
「カケルくん! カケルくん!」
「はっ!! す、すみません……Vさん……」
「大丈夫。もしもの時は僕が全力でフォローするから」
「あ、ありがとうございます……」
どうやら俺は1人ぼーっとしていたらしい。落ちなかったのは、Vさんが亜空間を上手く使って場所調整をしてくれたからのようだ。
俺も空間魔法適正があれば、きっとVさんの手伝いなしで移動とかできるのだろうけど、それができないのが悔しい。
「そろそろ地上に止まるみたいだよ。もしかしたらそこにヤサイダーがいるかもしれないね」
「……はい」
こっちはもう酔いそうなのに、Vさんはケロッとした表情で話しかけてくる。思ったよりも揺れた。こんなに揺れるとは思わなかった。
俺は着陸体勢に入ったオオクワガタにしがみつく。そして、無事に地上に降り立った。
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