第74話 消えた美玲
そんなこんなで楽しいお祭りは終わり、1週間経った1月28日。学校閉鎖は予定通り23日に解除され、少しず登校する人が増えてきた。
俺はというと、紋章を手に入れてから毎日夢の中で澪と話すようになった。澪は毎回意味深なことを言い残して、俺が目を覚ます。そんな生活を送っている。
澪は俺の分身という形ではなく、まるで赤の他人のように話していた。俺の妄想じゃなくて、本物の弟がいるような感覚。
そして毎回結人さんのことたくさん話してくれた。病院にやってくるといろんなことを教えてくれたらしい。
兄の俺よりもとても長い時間いたようで、俺はもっと印象に残るくらい話しておけばよかったと後悔した。
だけど、澪は色々とぼかした言い方が多かった。暫定的なことではなく、不明瞭な感じ。だから、きっと俺にも言えない秘密を抱えているのだろう。
そんな中で、俺が一番印象に残っているのは、紋章を使用する時に澪のことを考えて欲しいと言われたこと。
なんで澪のことを考えて欲しいと言ったのかは正直わからない。ただ、試しにやってみたところ、澪のことを考えている間は紋章が翡翠色に輝いて、とても熱を帯びた状態になった。
俺の紋章の発動条件が弟のことを考えるだけという、謎だけどシンプルなこと。それもあってイメージトレーニングは空間魔法と澪のことを考えて紋章を発動させるという2種類になった。
そのようなことを考えながら、俺は今日まで一度も休まずに学校に着くと。
「よっ! 翔斗!」
「おはよう大樹。今日朝練はしてないのか?」
「まあ。ちょっと膝を痛めちまって。病院行ったら痛みが消えるまで運動は控えろってよ」
「そうなんだ……」
本当は運動したいはずなのに、不幸なことがあったようだ。そんな彼はもう進路は決まっていて、東京の体育大学に行くらしい。
どうやらそこの陸上部にスカウトされたようで、とても羨ましいかった。ほかの人もだんだんと進路が決まっているようで、準備をしていないのは俺と数人だけ。
俺としては大樹と同じ体育大学に入りたいが、今の能力値ではまず無理。体力面で持たないかもしれない。
そして、俺の能力がある程度発揮できるのはゲームだけ。といっても、プロゲーマーになれるだけの脳のスペックは備わっていない。
加えて制作者側になれるほど、プログラミングに関しては興味もない。俺はそもそも遊ぶ専門だからだ。
別の路線では軽作業の会社に就職する方法もあるが、俺は不器用でこういう系は得意じゃない。
対して、重労働はもってのほか。体力のいる作業は俺にとってはかなりの難易度かもしれない。というのも重いものを持てる程の体力がないからだ。
と俺が考えていると、すぐ近くを3年の男子生徒2人が話をしながら通り過ぎる。そんな2人はこんなことを話していた。
『最近さ、美玲登校してないよな?』
『だな。もう3日近く来てない。なんかあったのか知ってるか?』
『いや知らないな。もしや美玲もインフルエンザかかったんじゃねぇか?』
『いやいや、病気に対して無敵の彼女がインフルエンザにかかるわけない』
『そうだよな。いったい何があったんだ』
その言葉に俺はスマホを取り出し、ビースト・オンラインの掲示板を開く。最近ギルド専用の日常チャットが実装され、プレイ前からギルドの雰囲気で選べるようになった。
そこから、ロゼッタヴィレッジのチャットを見る。するとそこでも"リーダー失踪"というように話題が挙がっていた。
どうやら裏世界の情報を入手して、結人さんに負けてからずっと潜り込んでいるらしい。
というよりも、まずまず裏世界はソロでプレイする場所ではない。プレイできるプレイヤーとしたら、結人さんと景斗くらいだろう。
「坂東先輩になにかあったのかもしれない。大樹俺帰るわ」
「いや、私もいく、翔斗1人に目立たれると困るからよ」
「わかった。じゃあ一ノ瀬先輩にあとの処理を丸投げしてっと。ついで、景斗と結人さんにも連絡して……」
俺が結人さんに連絡し終えると、大樹が不思議そうな顔でこっちを見る。俺は、結人さんもゲームをプレイしていることや、戦闘スタイルが非常にかっこいいこと。
一掃する速度や動きの速さ。武器の扱い。他俺がこの目で見た情報を全て伝えた。そして、アバターが虹甲羅の亀ということも。
なかなかに貫禄のある見た目だが、悪趣味というわけではなさそうだったことも伝えた。運営とも仲が良いことも教えた。
すると大樹はかなり興味を持ったみたいで、早く会いたいとまで言い出した。
「んじゃ。ギルド拠点で会議から始めるぞ」
「了解! 翔斗!」
こうして、俺と大樹はワガママな理由で早退し自宅に帰った。俺はパソコンを立ち上げると、先に景斗たちが自宅にいるかを確認。今日の景斗は大学が休みだったようで、朝からログインしていたらしい。
集合場所をギルド拠点と伝えると『先に待ってる』との連絡があった。
そして、結人さんも参戦してくれることが分かったので、こっちの戦力はフルパワーを発揮できるメンバーになった。
大樹にこのことを伝えると、ものすごくうれしそうな返信が来たので、浮かれているうちはいいとすることにした。まあ、そっちの方が楽しみも増えるということで放っておいている。
とまあそんなことをしたのち、俺はダイブギアを装着してゲームにログインする。
拠点にはもうすでにVさん以外全員揃っていて、ケイに聞いたらもうすでに捜索を開始しているとのこと。彼なら問題ない。そう思いながら会議が始まった。
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