第7話 アリスの過去
地の文多めです。
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ある日わたしは、森の中にいた。そうだ、一人で旅に出ようとしていたんだ。暗い中、上手く狩りもできず空腹に悩まされる日々。
何度も盗賊昆虫に襲われ、何度も魔法を唱え、何度も逃げた。
やがて、飢えに耐えながらも10日。ついにわたしは力尽きた。これは無謀な家出だった。
そんな時。わたしのお父様が迎えに来てくれた。わたしは大声で泣きじゃくった。
顔がぐちゃぐちゃになるまで泣いた。
それと同時に今まで出会った人達から、変な目で見られてたことを思い出した。
わたしたちの世界にやってくる人はみんな人型になった動物の姿をしていてプレイヤーと言われていた。
そう、わたしに攻撃してきた人の1割がプレイヤーで、わたしは作られた存在だと自覚してしまった。
プレイヤーのように接近戦はできない。ただ間接的に、逃げ場を作るためだけに、魔法を唱えるだけ。
わたしはプレイヤーと呼ばれる人が怖くなった。決して鉢合わせしたくないと思った。
ある日。わたしは護衛とともに2度目の旅に出た。初めて旅に出た時よりも、長い距離を歩いた。
しかし、その道中でプレイヤーと遭遇してしまった。護衛はわたしを守ろうと全力を尽くしてくれた。
わたしも応戦しようと、数多の魔法を喉が渇くまで、声が出なくなるまで唱えた。
けれども、結果は完敗。プレイヤーは爪や剣、鉄槌などで攻撃してくる。それを避けるだけの能力を護衛部隊は持ち合わせてなかった。
わたしはさらにプレイヤーのことが怖くなり、もう二度と旅に出ないと思うようになっていた。
だが、それはとある2人の人物によって覆された。まず最初に出会ったのはギルド【アーサーラウンダー】のリーダー・ケイ。
彼は真っ先に優しく接してくれた。現実世界という場所の話だとか、食料に関する豆知識。他にも色々教えてくれた。
「ねえ、アリスさん。『兎と亀』っていう童話知ってる?」
「知らないです。どんなお話なんですか?」
「うーん。要約すると。兎と亀がそれぞれの意見どっちが正解か? を争うために、丘を登るレースをする話だよ」
「丘を上をれーすする……」
「あ、レースっていうのは、追いかけっこって意味だよ」
「なるほど、ちなみにどっちが勝ったんですか?」
ケイは数秒考えたあと、わたしにこう言ってきた。
「じゃあ、逆に聞くけど。アリスさんはどっちが勝ったと思う?」
「わ。わかりません……!」
「ふふ、そんなに難しく考えない。直感でいいよ」
その言葉はものすごく優しかった。わたしを包み込んでくれたみたいに。
「で、では……! 兎の方が速そうなので、兎にします……! 見た目も可愛いし……」
「ほんとにそれでいいの?」
「変えていいのですか?」
「いいよ」
「自分の直感を信じてみます!」
しかし、答えは意外なものだった。
「正解は亀なんだよね」
「亀? あんな動きが遅そうな見た目なのにですか?」
「うん。どうしてだと思う?」
「どうしてって、亀が兎に勝てるはずありません」
「まあ、普通に考えたらそうだね」
ケイはわたしの目を真正面から見つめる。相手は黒くくすんだ狼なのに、今までのイメージとは違った。
どこか可愛くて、全く怖く感じない。そんな柔らかで愛嬌のある瞳。この人とならきっと分かり合えると、心の奥底から信じたいと思った。
「兎はね、亀をからかっていた分、相手を甘く見すぎてたんだよ」
「どんな感じにですか?」
「それがね。絶対勝てる! って信じ込んでた分レースをサボってたんだ。そしたら、取り返しのつかない状況になって、知らぬ間に亀がゴールしてた」
「それって、自業自得って意味で合ってますか?」
「そうだよ」
この物語を聞いて、わたしは兎がとても可哀想に感じた。どこかわたしと似ている。共感というものを感じてしまったからだ。
その後わたしはケイにこう伝えた。
「ケイはギルドの仲間を増やす気はあるのですか?」
「もちろん。どんどん大きくしていくつもりだよ。それも、僕の親世代よりも大きなギルドにしたいと思ってる」
「なら、ケイにクエストを用意します。次の新しい仲間は狼でも猫でも、熊でもない、兎にしてください……!」
一瞬わたしは何考えているんだと思った。しかし、その願いはすぐに達成された。
「やあアリス。元気してた?」
「はいおかげさまで。アーサーラウンダーの皆さんの治療でだいぶ良くなりました」
「ケイ。このゴブリンは?」
「ホワイトゴブリンのアリスさん。可愛くない?」
ケイが連れて来たのはたしかに兎だった。名前はカケルというらしい。わたしみたいな小柄なゴブリンに弱いらしく、顔を真っ赤にさせていた。
そして、彼はわたしの考えを180度変えた。特に印象に残っているのは、一緒に巣蜜取りに行った時。
わたしがキラービーという魔物に襲われた時。とても正確に振り切った拳で倒して、わたしを助けてくれている。彼はわたしを仲間だと認識いるみたいだ。
この人ならわたしの護衛をしてくれると。そう思って家に帰ったあと、お父様に相談していた。
「お父様。わたし……!」
「なにかね。愛娘よ」
「わたし。カケルたちと一緒に、旅に出たいです……ッ!」
「そうか。では、話し合いを通して検討しよう。ケイとカケル。双方を呼んでくるがよい」
「わかりました。お父様……!」
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