第66話 紋章の影響
この話で長話は終了します
◇◇◇◇◇◇
「ありがとうございました」
「いえいえ。景斗のことがたくさん聞けてよかったよ」
「そんな。俺だってそこまで景斗さんに詳しい方ではないですよ。まだ会って数日しか経ってませんから」
「君にも限界があるのは分かってるよ。でも、これで情報が揃ったかな?」
あれから俺と結人さんの2人で1時間以上話した。結人さんは俺の魔力の流れが安定したタイミングで空間魔法のコツや、魔力操作の仕方を教えてくれた。だけど、俺には空間魔法の適性がないらしく、少しでもかっこつけたかった俺は少し落胆した。
だけど、どうやら過去に作った能力付きの魔法剣があったみたいで、それをもらうことなった。ひとつは空間移動能力のついた紫色の短剣。もうひとつは緑色の短剣。結人さんは基本長剣と魔法具くらいしか作らないとのことで、短剣はこの2本しかないらしい。
「だけど、なんでこれを俺に?」
「やっと適任の人が見つかったからかな? 元々は景斗にあげる予定だったんだけど魔法剣に嫌われちゃったみたいで」
「そうなんですね……」
この短剣のモデルは友人の武器が元になってるようで、ところどころ装飾がされていた。そのデザインも龍を模したもので、とても存在感を感じる。俺はちょっとした剣士になったようでうれしくなった。なぜならゲームでは拳による打撃攻撃――でもアイアンクローのおかげで斬撃ができるようになったが――しかできないのだから。
ただ、この短剣は武器扱いではなく魔法具の部類とのこと。殺傷能力はないらしい。だけど、人前では使わないようにと言われたので、指示に従うことにした。
「それで、この短剣ってどういう能力があるんですか?」
「ふふーん♪ まずは最初に渡した紫の方だけど。使用場所から直接ここの敷地の庭に移動できるようになってるから、自由パスポートとして使っていいよ」
「え? 自由に来ていいんですか?」
「もちろん。ただ、同行者は大樹くんみたいに信頼できる人だけにしてね。一応魔力を持ってる人しか起動しない仕組みになってるけど」
「わかりました」
紫の剣が自由切符の役割を果たす。しっかり覚えておこう。それじゃあこっちの緑色の方は?
「緑の方は僕たちが共有空間として使ってる亜空間倉庫に繋がってる。こっちも自由に使っていいよ。あと上手く使えば個人用も呼び出せるから、その辺は自分で頑張ってね」
「半分無責任……」
「まあ、これが僕のやり方だから。それに、もうたくさん教えたからね。そろそろ自分で試行錯誤してもらわないと」
「そ、そうですよね……」
どうやら俺に責任を押し付けたわけではないようだった。結人さんは自分で考える力を鍛えさせるためにこのようなことをしているようだ。これが完全放任だとしたら、リアルでの魔法を知らない俺は置いてきぼりになってたと思う。
すると、結人さんは俺の魔力が安定したか確認する時と同じように、目線を同じ位置にした。俺は今度は何をするのかと身構える。
「うーん。ちょっと紋章を試験起動していい?」
「それってどういうことですか?」
「翔斗くん。さっき景斗の瞳が金色になったって言ってたよね?」
「は、はい。たしかに言いました」
「それと同じ現象が翔斗くんにも起こるのかをこの目で見てみたくてね」
たしかに景斗さんの瞳は金色になったのち白くなった。だけど、どうやって誘発させるのだろうか? 結人さんからの視線が熱い。さらには俺の左手を強く握ってきた。だんだんその手が熱くなる。手のひらじゃない、手の甲が非常に熱い。
ヒリヒリという表現では説明しきれない。業火に熱されているかのような感覚。俺はその熱に耐えきれず、悲鳴をあげそうになる。
だけど、結人さんは左人差し指で静かにするように指示した。俺はひたすら我慢する。すると手の甲だけではなく瞳の方まで熱くなる。なのに、ほんのり温かい程度だった。
「へぇ~。翔斗の場合は翡翠色になるんだね。ありがとう。紋章は使用時と使用前ではっきりとした変化をもたらす。っと。これはものすごくいい資料ができあがりそうだよ」
「も、もう終わりですか?」
「終わりだよ。今は……16時ね。どうする? そろそろ帰る?」
「はい。親が心配していると思うので」
「オーケー。場所は北高崎駅でいいよね?」
「そこでお願いします」
そうして一旦部屋を出ると、大樹にパソコンの片付けをするように伝えて、俺も整理を始めた。それから30分後。俺と大樹は結人さんの空間魔法で群馬県の北高崎に移動した。
短剣はというと、空間魔法適正がない俺でもなんとか作り出すことができた、小亜空間――内部容量は非常に少ない――に入れてある。でも、出現させられるかはかなりのランダムなので、結人さんからは毎日練習するように言われた。しかも詠唱文がないため確立も非常に低い。
なんで俺はこんなにも使い物にならない身体をしているんだと、かなり自傷感情が芽生えたがもう大人の世界に入る直前まで来ているので、必死に堪えた。
空間の歪みが消えたタイミングで、俺と大樹は別れた。少し薄暗い外を15分ほど歩いて自宅に着くと、お母さんが出迎えてくれた。どうやら怒ってはいないようだ。
「翔斗。初めての東京どうだった?」
「う、うん……。まあまあ楽しかったかな?」
「そう。でも、群馬から東京にどうやって行ったの?」
「それは、言えない。友達との約束だから」
「わかった。この話はやめて、夕食の買い出しについてきて」
「はい」
応援よろしくお願いします。




