第63話 文字の書かれた紙
「だ、大丈夫です……。ただすごく眠い……」
「やっぱりそうなるかー。これやると人によっては……。ってこれでやるのは3回目なんだけど、景斗のお姉さんがそうだったから」
「その後どうなったんですか?」
「すぐにコーヒーがぶ飲みしてたね。逆に眠れなくなって一晩中勉強してたよ」
そんな事があったんだ。それよりもあの赤い字の紙はなんだったんだろうか? 俺はさっき移動した時少し背中に違和感を感じた。
何かがへばりつくような。だけど、何も無い。不思議な感覚が頭から離れない。俺は眠気を堪えながら結人さんに問いかける。
「あの赤い字の紙は……」
「あ、あの紙ね。これのことかな?」
結人さんが1枚の紙を軽くつまんでヒラヒラさせる。しかし、その紙には文字が一切書かれてなかった。
あの文字が術式的なものだとしたら、どこに消えたのだろうか。俺はかなり混乱していることに、数秒遅れて気がつく。
冷静になれ、冷静に考えろと気持ちを落ち着かせる。だけど、そうする度に左手の甲が熱くなる。それはもう燃え盛るようにヒリヒリしていた。
そういえば、景斗はゲーム内でこう言っていた。右は手の甲が熱い方と。確かに景斗の紋章は右手甲にある。
だけど、景斗の利き手は右だった。時々左手を使いそうな場面はあったものの、基本は右。紋章が利き手じゃない方につくということは、景斗はもっと小さい時につけられた事がわかる。
「あ、もしかしてここにあった文字がどこに行ったか気になる?」
「い、いえ。もうだいたい予想ついたので大丈夫です……」
「そう? じゃあ、解答聞こうかなー」
「え?」
「ダメ?」
「いや、ダメじゃないですけど」
「そう。じゃあ、ここに書かれた文字がどこに言ったか答えてよ」
俺はもう一度整理する。紙に書かれた赤い字。これまで仲間が言ってきた答えのヒント。バレンさんの血。それを使った文字。もう答えはひとつしかなかった。
「俺の中に刻印した。ですか?」
「大正解。本当は直接刻印した方がいいんだけど、今回は初めて作った紋章の術式だったからね。紙に書いて間接的に刻印できるようにしたんだよ」
「な、なるほど……」
「ちょっと難しかったかな?」
「い、いえ、なんとなくわかります」
実際はよくわからない。紋章といえば飾りくらいだけど、魔法が関係している紋章をまさか本当に刻印されるとは思わなかった。
だが、未だ俺に刻印された紋章の名前が不明だ。どんな名前でどんな効果なのかが一番知りたい。
なのに結人さんは鼻歌を歌いながら次の作業に移っていた。どうやら後片付けをしているようだ。
全部亜空間の中に入れると深呼吸をしてこちらを向く。
「翔斗くん。僕が昨日言った注意事項。覚えてるかな?」
「え、あ、はい……。ひとつはいざという時しか使わない。魔法が使えない一般人には絶対に言わない。でしたよね」
「そう。あと紋章は使いすぎると身体や精神に負担がかかるから、頻繁に使うことは控えた方がいいよ」
「わかりました。で、以上ですか?」
「今のところはね。紋章の効果は最初に見る夢が教えてくれるから。名前も自分でつけていいよ」
紋章の名前は元々考えていなかったらしい。俺の紋章の名付け親は俺。親近感を持たせるためのことなのだろう。
だけど、俺はアーサーラウンダーに所属してから約4日か5日くらいしか経っていない。景斗が言ってた情報と違いすぎる。
景斗は1ヶ月ギルドに所属したら、メンバー証として紋章をつけると言っていた。だけど、今新規メンバーで入ったのは俺と大樹。
そして、紋章を一足先に俺がつけた。だから、謎が増える。これ以上増やしたくないと思っていたのに増えてしまう。
これはいったいどういうことなのだろうか? 俺はずっとモヤモヤし続ける頭を綺麗に片付けようとするが、雪崩のように押し寄せてくる情報に押し流されそうになった。
「そ、その……」
「何?」
「俺。まだアーサーラウンダーに所属して1週間も経ってないんですけど……」
「あ、それね。景斗ってばそんな嘘をついていただなんて……」
「嘘?」
「そう。嘘。ちなみに僕が紋章をつける理由は基本心身の治療のため。まあ、フォルテやバレンは別なんだけどね」
つまり、俺に付けられた紋章も俺の心の治療のため。俺はそんなことにつながるものを持っていただろうか?
思い当たるとしたら、あの紙に書いた"澪"の存在。その情報が入った術式ならそれに関することが含まれてるかもしれない。
「片付け終わり。ちょっと魔力値の確認するね……」
「は、はい……」
「ふふっ。もしかして道具で色々すると思ってる?」
「な、なんでわかるんですか?」
「大丈夫。そんなことはしないよ。ただ僕の目を見ればいいだけだから」
俺は言われた通りに結人さんの瞳を見る。とても綺麗な目だった。だけど、ただこうするだけで何がわかるのだろうか?
2分ほど見つめあって、俺は恥ずかしくなった。今すぐ目を逸らしたい。なのに結人さんは逸らさせてくれない。
そして、さらに1分経った時。結人さんは口を開いた。
「うん。安定したみたいだね。そのうち眠気も引くと思うよ」
「あ、ありがとうございます……」
何が何だかわからない。俺自身、自分の身体に何が起こったのかという自覚症状がない。
俺は質問したいことが多すぎて切り出し方に悩んだ。やっぱりひとつずつ整理した方がいい。
「結人さん。ちょっと結人さんに質問攻めしてもいいですか?」
「質問攻め? まあそうなるよね。答えられる範囲ならなんでも答えるから、思いついたこと全部言っていいよ」
「ありがとうございます」
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