第57話 星の鍵
兎と狼編第2部スタートです。
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「俺の……。俺のラストアタックが……。せっかくアリスに良いところ見せられると思ったのに……」
「カケル、そんなに落ち込まないでください……!」
「だ、だってバレンさんのあの技はチートだよ。ケイよりもチート!」
女郎蜘蛛戦でバレンさんが放った"ブラッドクロー"。あれは規格外すぎる。俺が指示する前に何故かバレンさんは空中にいるし。
俺が空中から眺めるタイミングで既に技が決まっていた。彼が自らを『サイキョー』と言ってたのはただの自慢ではなかったようだ。
その後、女郎蜘蛛は巨大宝箱をドロップした。俺はバレンさんに頼まれ宝箱を開けると、箱はポリゴンとなって消滅。
気になって俺のアイテムストレージを確認すると、アイテムが自動追加されていた。
一番興味が湧いたのは俺が装備できるタイプの斬撃武器、"アイアンクローグローブ"。
見た目が問題だと思って装備すると、狼アバターの装備とさほど差がない鉤爪付きグローブだった。
俺はさらに強くなれた気がした。だけど、やっぱりこのギルドの平均戦闘力には到達していない。
バレンさんの炎。フォルテさんの雷。そして、ケイのノックバック。どれも俺が持ってないもの。
今は大扉に向かってる最中で、俺は3人の中で一番落ち込んでいた。やっぱりラストアタックは誰でもゲットしたい醍醐味の1つ。
俺は歩きながらもう一度ストレージを確認する。そこにはもう1つ追加されたアイテムがあった。
"赤星の鍵"
オブジェクト化すると、星型の手持ち部分のある赤い鍵だった。名前の通り過ぎる。
すると、チームBから連絡が来る。
『遅いぞー』
「フォルテさん!?」
『此方は20分前には済んでおりますぞ。メル殿が待ちくたびれて……』
「わかった。急いで向かう!」
メルが静かにしていられないらしい。俺はバレンさんにビーストモードを発動するよう頼み、背中にアリスを乗せる。
その状態から猛ダッシュで大扉の方へ向かうと、そこにはウロウロ歩き回るメルの姿。
そして、腕組をして仁王立ちするヤマトとフォルテさんだった。これはまた彼とバレンさんが喧嘩するパターンか?
警戒しているのもつかの間、ヤマトが俺の肩を叩く。ヤマトの手にはラメ加工のしている青い鍵だった。
"彗星の鍵"
それが彼が持つ鍵の名前らしい。
俺は手に持ったままの赤星の鍵を見せると、大扉の鍵穴に差し込んだ。同時に捻るとガチャという大きな音がする。
6人で扉を押す。ゴゴゴォという轟音を響かせ、ゆっくり、ゆっくりと開いて行く。
扉の奥からはかなりの熱気。砂煙。扉が開ききった時には、目の前に砂漠地帯が広がっていた。
ここは裏世界? 高難易度エリアかもしれない。プレイヤーレベル制度がないこのゲーム。実力が試される場所に足を踏み入れる。
「それにしても暑いな……」
フォルテさんが額を拭いながら呟く。毛皮の暑さは反映されてるのかいないのか。そもそもフォルテさんが暑さに弱いだけかもしれない。
兎の毛皮よりも熊の毛皮の方が見た目的に暑そう。いやこれは偏見ではなく俺から見た意見。
対してバレンさんは少し機嫌が良さそうだった。暑さ慣れしているのか全く汗もかいていない。
というか、このゲームはレベル制度がないのに、体感温度でのエフェクト表示がプレイヤーの意識連動している。
そして、俺がメニューを見て気が付いたのは、このゲームには戦闘力ランキングというものがあること。
ランキング上位を見ると、そこにはヤサイダーの名前があった。彼女はかなりやり込んでるゲーマーのようだ。
つまり、俺たちがこの裏世界エリアで高レベルアイテムを獲得して戦闘力を上げれば、彼女を越えられる。
「カケル。何ニヤけてるの?」
「ごめん。メル。ちょっと面白いこと思いついたんだ」
「「面白いこと?」」
俺の悪巧み発言に全員の視線が集中する。俺は、頭の中に浮かんでる作戦を綺麗に片付け簡潔にまとめる準備を始めた。
「カケル。面白いこととは?」
「ヤマトの手伝いも必要だけど……」
「俺様の手伝いが必要とは?」
「うっ……」
そうだ、ゲーム内の大樹は現実よりも非常に堅苦しいんだった。話しづらい。かなり話しづらい。
でも彼の手伝いが必要なのは間違いない。俺が考えてるのはチート能力がなくて高火力の人。
この暑さではきっとバレンさんの炎もフォルテさんの雷も効果がない。理由はどちらも熱を持ってるからだ。
熱を持ってる攻撃では、確実に熱耐性を持ってる敵には効かない。加えて俺の攻撃ではクールタイムが1分50秒もある"ストロングブレイク"しかない。
強攻撃と言える攻撃スキルがひとつしかないのだ。最悪なほどに効率が悪い。効率が悪すぎて困る。
プレイヤーレベルがなくてスキルレベルがある。スキルレベルは戦闘力にも反映される。スキルを多く持っているほど戦闘力が高い。
なのに、兎アバターのスキルが少ない。多分今後増えていくのだろうけど、使うとしたら自作技のなんも効果がないラビットフィストと、効率最悪のストロングブレイク……。
「カケル。どうなされましたか?」
「ッ!? いやなんでもない……。ただ俺のスキルナンバーが戦闘向きじゃないことに落ち込んでただけ……」
「左様ですか……。では、そろそろ作戦を教えていただけますかな?」
「あ、ああ。わかった」
兎と狼編第2部は全44話を予定しています。
全体文字数調整で4000文字超えが出てくると思いますがよろしくお願いします!!!




