第56話 先天性魔力眼球症②
ほとんど地の文です
黒白様の希望でおれが部屋を出た時には、先程彼が言っていた病気について興味を感じていた。
"先天性魔力眼球症"。黒白様と同じ魔力回路というものを持っているおれが、生まれつき持っていたもの。
おれは学校の勉強と同じくらい練習した亜空間を開く魔法で共有空間を開き、一冊の資料集を取り出す。
この資料は時々黒白様が読んでいるもの。今までは黒白様専用の個人空間にしまっていたようだけど、おれが部屋を出る時にもう一言言っていた。
『そろそろこの資料も誰でも見れるようにしようかな? 共有空間に入れておくから勉強好きの君にプレゼントするよ』
そう言って共有空間に移しながら言っていた。おれが初めて見るものなので、とても楽しみにしていた。
黒白様はおれに対して、『自分で勉強することを怠らないで欲しい』という気持ちで全部を言わなかったのかもしれない。
本当にそれで良かった。今勉強したい思いに駆られている。おれはその資料に目を通しながら自室直通の歪みを作り移動。
もしこれを黒白様に見られたら絶対怒られるだろう。でも、今彼は自分のことに夢中。研究とか実験とかそういうことになると、黒白様は一段落するまで部屋から出てこない。
もしかしたら、一緒に暮らしてた分そういうところが似てしまったのかもしれない。
故に、おれは時々目が見えなくなることから、点字の勉強が好きになった。他の病気を持ってる人にも優しくなりたいと思った。
おれはさらに資料を読み進める。だけど、その資料は不便な部分もあった。それは、おれの紋章が発動した時でも読めるようにする点字表記がなかったこと。
ベッドに横たわっている翔斗と大樹を背に、勉強机の前に立つ。一番下の引き出しには常備している大量の未使用ノート。
10冊出して机に上に並べ、少し歩いた場所にあるカラーボックスから点字キットを持ってくる。
カラーボックスには、使うノートの種類に合わせた様々なサイズの点字シールがある。
昔は初心者向けのサイズしかなかったが、今は極小化が進み、最小でミリサイズがあるくらいだ。
おれが使っているのは、そんなミリサイズでも打つことが出来るペン付きのもの。
ペン先には吸盤がついていて、持ち手には点字シールを吸盤から離すボタンがついている。
また、カラーボックスには他にも点字の種類が全部載った本も飾ってあって、分からない表現はそれを読みながら打つ。
今日使うのは、普通のノートでも使える3ミリサイズの粘着シール付きのもの。粘着シールなのでノートに穴が空くことはない。
粘着シール付きの点字は独立していて、ペン先の吸盤をくっつけくり抜いて使う。一度吸盤にくっつけば、あとは打つだけ。
ここまでの工程は非常に簡単で、誰でもできる。
しかし、大変なのはここから。点字は基本縦3横2の並びになっている。
そしてさらに厄介なのは、日本語の点字にはひらがな・数字・符号で構成された文字列しかないことだ。
つまり、点字を読む時はひらがなから意味を連想するか、過去に目が見えていた人は脳内で漢字変換して理解するしかない。
そして、点字表記でもう1つ大変なのはどうしても本が重くなること。点字シールはさほど重量はないが、完成するとかなりの分厚さにもなる。
2020年頃からタブレット授業が始まり、今の普及率は94パーセントまでになっているが、盲目者にはやはり点字で書かれた紙媒体が欠かせない。
おれが小学校・中学校・高校の時は、両親にも手伝ってもらって、タブレットの電子教科書を読みながら点字に置き換えていた。
今は参考書の点字化をすることが多く、それも一番の楽しみだった。
「えーと、先天性魔力眼球症……あった!」
おれは自分の病気について書かれた項目を開く。"先天性魔力眼球症"(魔眼症)の場所には、黒白様のメモ書きがたくさん貼られていた。
おれの行動予測やその後の状況。他にも紋章を刻印してからの経過観察まで書かれている。
そんなメモを掻き分けて一番下の本文に辿りつくと、そこにはかなり短い言葉が書いてあった。
どうやらこれも黒白様の手書きのようだ。
"先天性魔力眼球(通称:魔眼症)"
"2033年7月20日 景斗が誕生。その日の段階で彼の瞳が普通の人と異なることが判明。眼科に問い合わせてみたが原因解らず。彼の魔力に関して独自に検証したところ、眼球に膨大な魔力を確認。これを遺伝子エラーによって魔力回路が眼球に達していると仮定し、病名を『先天性魔力眼球症』とすることにした。現在経過観察中。"
「遺伝子エラー?」
"2035年7月20日 景斗の魔力回路に異常確認。最近よく癇癪を起こすようになり、その都度怪我をするようになった。この症状を魔眼症によるものとし、継続的に観察をすることにした。また、同時に紋章の刻印による治療も開始。発動前と発動時の効果を逆に設定し、発動前の段階で常時魔力を抑制することにした。"
「だから、紋章を発動していない時に……」
"2037年7月20日 1ヶ月ほど前から聴覚に異常を確認。魔力量の増幅によるものなのか、時折話しかけても返答することが無くなった。また癇癪を起こした時に紋章が反応することを確認。安全性を考慮して紋章に二次制御の効果を追加した。同時に小学校入学に向けて点字の勉強を開始"
「メモも読んでみたけど、黒白様。ここまでおれのことを心配して……」
おれは黒白様が書いた資料とメモを、点字としてノートに打ち込んでいく。自分のことが知れる。そして、大好きな点字と向き合える。さらに、勉強もできる。
おれの人生で一番楽しい時間はあっという間過ぎていく。お腹の虫が鳴いて初めて我に返ったのは、他の人には内緒にすることにした
応援よろしくお願いします!!!!!!
景斗に関する情報はここまで!!!!
次回から主人公目線に変わります!!!!




