第54話 黒白様とケイの紋章②
地の文多いです。ご注意ください
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ゲーム内に翔斗たちを置いてきて現実世界に戻ってきたおれは、自分の右手甲を眺めながらこれまで起こったことを振り返っていた。
たしかにおれが使う紋章はかなり危険。一つ発動タイミングを間違えれば命を失う可能性がある。
これまでにも、学校に通う時や買い物に行く時勝手に紋章が発動して事故に遭いそうになった。
そういう時はいつも黒白様がフォローしてくれて、だんだんと紋章に慣らしていった。
"全盲の紋章"。この紋章と出会ったのは4歳の時。最初は前も見えない音も聞こえない状況に混乱した。
これは障害? 当時おれの学校には聾者も難聴者・盲者も数えるくらいいて、自分もそうなんじゃないかとも思った。
だけど、そんな人たちと違うことがあった。おれの症状は、一時的に耳と目が使えなくなること。
しかし、本物の聾者と難聴者、盲者は一生目が見えないし、一生音が聞こえづらかったり全く聞こえなかったり。この部分にものすごく違和感を感じていた。
その時から紋章が発動していない間に点字の勉強をして、点字を使ったノートを自分で作成。障がい者の大変さを学びながら時間が過ぎていく毎日。
そんなモヤモヤは5年間続いた。9歳のある日。突然黒白様に呼び出されたおれは、自分の症状が生まれてすぐに刻印された紋章であると教えてもらった。
だけど、目も耳も機能しない時があるという日々の中で、ただの障害と語る病院の先生はフルダイブゲームを勧めてくれた。
『ゲームなら目も耳も使えるんじゃないか?』
そんな軽い推測に、おれは従うことにした。だが、いざ遊んで紋章を発動しても効果はなかった。むしろ、自分の精神に負担がかかるばかり。
おれは黒白様に紋章を外すように伝えた。しかし、黒白様は何もしてくれなかった。"一度刻印した紋章は時間が経つと身体に馴染み、解除するのが非常に難しくなる"たったそれだけの理由だった。
全盲の紋章は9年の月日のうちに馴染みきっていた。おれはその時より一層できることを全部やろうと、資料集めや盲者や聾者に関するネット情報をかき集めた。
18歳になり、おれのお母さんのお兄さん。つまりおれから見ておじさんが通っていたという大学に合格し、今はゲームサークルで活動しながら聾者や盲者にどう対応すればいいのか? 点字や手話・口話についての誕生したきっかけなどを勉強している。
けれども、いくら馴染んだ紋章でもまだうまく扱うことができない。紋章は感情にも反応するようで、一度怒るとコントロールができなくなる。
そのため、できるだけ怒らないように、何事にも優しく接するようにしながら生活して、使用制限も3回までとした。
少しずつコントロールできるようになって21歳になった時。おれはビースト・オンラインと出会った。
それまで使っていたパソコンもゲーム関係のバイト代を崩して購入。最新タイプのフルダイブゲーム機も買った。
その時には紋章は自分の一部だと思うようになっていて、不便だと思ったりもするけど不安は減っていた。
空気の振動で場所を特定する能力や、地面や壁の揺れで部屋の広さを測ったりなど。そんな、普通の人が持たないような能力を手に入れたことで、生活がしやすくなったからでもある。
『ふぅ……。やっと調整作業が終わった……。あとは翔斗くんに報告して……』
2階から黒白様の声が聞こえてきた。ふと自分が考え込んでいたことに気づき、本来の目的を思い出す。
黒白様に紋章の調整をしてもらうため、一足先に現実世界に戻ってきた。おれがベッドから降りて2階に向かうと、黒白様の部屋が明るいことに気づく。
黒白様はバレンの血が結晶化しないように一番注意をしている人だ。おれの紋章もバレンの血で作られた魔法式で刻印されているらしい。
「黒白様!」
「? あ、景斗。他のみんなは?」
「まだゲームの中です。それよりちょっとお願いしたいことがあって……。黒白様。おれの話聞いてほしいんだけど」
「わかった。5分後に僕の部屋に来て」
そうしておれは5分待つことになった。黒白様はきっと部屋の片付けをするために、設けたもかもしれない。
だけど、亜空間を自由に扱うことができる黒白様なら、5分もかからずに終わらせられるはず。なのに、5分後と言われたことに少し疑問を覚えた。
少しして時間になったので彼の部屋に入ると、備え付けの机以外全部片付けられた何もない空間になっていた。
「失礼します」
「あはは、そんな硬くならないでいいよ」
「し、しかし……」
「まあ、そこの床に座って」
そう促され、おれはいつの間にか置かれていた座布団に正座する。そこから数十センチほど離れた場所に、黒白様も座った。
やっぱり、黒白様と2人だけだとかなり緊張する。こんな姿を翔斗に見られたらとてもじゃないけど、恥ずかしくてたまらない。
「それで、なんか僕に頼みたいことがありそうな顔してるけど、用件は何かな?」
「えーと、おれの紋章のことなんだけど。いつもなら空気の振動だけで相手の声を予測して話してるのに。翔斗の声だけが空気の振動じゃなくて、そのままの声で聞こえてくるんです……」
「それってどんな感じなのか。もう少し具体的にできる?」
おれは考えた。これを具体的に説明するとなると一つしかなかった。
「紋章を発動していない時と、全く同じように聞こえてくるんです!」
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