第53話 仲はイマイチ
バレンさんが紋章を使う。アリスが魔法を唱える。俺は前衛でクールタイムがやけに長いスキルを発動させる。
女郎蜘蛛はこの猛攻撃に抗おうと、八つ脚を激しく動かす。ヤマトがいれば大剣で脚を切断できただろう。
しかし、俺が決めた振り分けで彼とは別行動になっている。これは配置ミス? いや、これで良いと決めたからにはやり遂げなければならない。
「バレンさん!」
「んだよ、ザコ……」
「バレンさんは前衛にお願いします!」
「切り裂けばいいっつーことか?」
「はい!」
「仕方ねぇ……。んま、俺がこのメンバーでサイキョーだからな!」
(それ自分で言うのか……)
機嫌は治ったようだ。バレンさんは後方支援をやめて、両爪をギラリと光らせる。自信ありげな表情は、ケイ以上に怖かった。同じ狼アバターでも中身が違うだけでこんなに違うなんて。兎のアバターを他の人が操作したらどんな表情を浮かべるのだろうか?
俺は蜘蛛を殴りながら、鋼のように硬い甲殻を抉ろうとしながら考える。それ以前に気になった疑問。それは、ケイが俺の兎アバターに関して、知識が多かったことだった。
兎アバターが非常にレア――選ばれる確率がかなり低いかららしいことや。回避性能に優れてること。どのアバターよりも身軽なことなど。かなりの情報を知っていた。
しかし、兎がレアアバターなら開示されてる情報も少ないはず。これには何かありそうだけど、今度本人に聞いてみることにする。
やっぱり気になることは気になる。それが戦闘中だったとしても。
「手が止まってるぞザーーコ!」
「だから、ザコ呼びは……」
「いいじゃんかよ! 全部俺の勝手なんだって。動かせこのバカ!」
「ば、バカ……」
バレンさんのこの言い方は何とかならないのだろうか? 認められるまではこのような関係が続きそうだ。俺自身お互いにだんだんストレスが溜まっている――きっと、あの言いぐさがバレンさんのストレス発散法なのかもしれないが、どう考えても俺に負担がかかっている。
この様子では、上手くまとまりができない。俺の戦闘パターンが固定されているからというのもあるが、たしかに俺はザコ枠かもしれない。小型の昆虫ならある程度実感できるものがあるが、ここまで大きいと蟻が巨大な象と戦っているようなもの。
紫炎の海でいくらかダメージが蓄積していると思うが、女郎蜘蛛の容姿にさほど変化はない。傷のようなものもなければ、へこんでる場所もない。
あくまでも、ここはゲームの世界。そんな細かい演出はないのかもしれない。だけど、一つわかったことがあった。狼の爪の攻撃が、斬撃属性を持ってることに。
元々殺傷能力があることは知っていた。初めてケイと戦った時。俺の腹部に引っかき傷ができたことは今でも覚えている。
だから、ただ引っ掻くことしか利点がないものだと思っていた。
しかしそんな爪に斬撃能力を知ったのはどのタイミングだっただろうか? たしか、バレンさんが俺とアリスを拘束した糸を焼き払った時。
その時の炎は爪のような形をしていた。これは見間違いの可能性もあるが、焼き切っただけでなく、切り裂いて拘束を解いたといってもいい。
「バレンさん。俺がバレンさんを女郎蜘蛛の背中に連れていきます!」
「はぁあ?!」
「『はぁあ?』って、まだ俺を認めてくれないんですね」
「認めるわけねぇだろ。ザコ。一生ザコの副団長。行動力とか発想力しかないただの無能な兎男!」
「う、兎男って。たしかに俺は兎で男だけどその言い方は……」
さっきは素直に行動していたのに、またバレンさんの機嫌取りが難しい展開。こんな調子で安定して攻撃している。しかも、切り裂きの威力がこっちまでわかるような音色で、途切れることなく。
それでも、俺はその切り裂きによる斬撃攻撃をフル活用できる場面が見えていた。それは、バレンさんの爪をひたすら脚の付け根に当てること。
かなり地道な作業になるがバレンさんの集中力を飽きることのなさそうな真剣さに、可能性を感じていた。
だから、俺は彼を女郎蜘蛛の背中に連れて行こうとしたのだが、表情からしていい案と思ってないらしい。
けれども確実に仕留めるにはやっぱり身動きをとれない状態にした方が、楽というか……。
「ふーん。なるほど」
「バレンさん?」
「そーゆー考えだったってわけか……」
「バレン?」
「小娘。ちぃといいか?」
バレンさんに呼び出されたのは俺じゃなくてアリスだった。俺は、少しがっかりしたが殴ることだけに集中した。
だけど、ただの打撃攻撃では何も起こらない。スキルのクールタイムが終わる。急所らしき場所を探りながら、ストロングブレイクを放つ。
すると、スキルレベルアップの通知が来た。今までのクールタイムは2分だったが、レベルアップで10秒減り1分50秒に……。
(ってほとんど変わってないじゃん!)
しかし、熟練度設定があることがわかったことで、少し楽になった。すると、バレンさんの姿が消えていることに気が付く。
辺りは真っ白の煙。俺はその煙がアリスの方から出てるのを目撃する。
「ブラッドクロー大乱舞!」
バレンさんの声が聞こえてくる。霧のような煙のせいで姿が見えない。しばらくして焦げ臭いことに鼻が反応した。
俺は状況を確認するため上空に移動する。すると、どんどん崩れ落ちていく女郎蜘蛛が見えた。
やがて、地面に押しつぶされるようにして倒れた女郎蜘蛛はポリゴンという光の粒子となって消えた。
「バレンさんに……ラストアタックを……取られた……」
応援よろしくお願いします!!!!!!!!!!!!!!
ビースト豆知識
バレンはあんなひねくれた感じですが、恋はちゃんとします。
ちなみに、彼女絶賛募集中!!!!!
さて、この物語で婚約者は現れるのか?
バレンに合いそうな女性の案ある人はぜひ感想欄に提案してください!!




