第50話 バレンの口癖とボス
じゃんけんの結果、Aチームは右の通路。Bチームは左の通路にいくことになったので、俺・アリス・バレンさんの3人で行動を開始。
そこで活動する中で、俺は本当にこれで良かったのかと正直後悔していた。
たしかに俺は弱い。というか活躍した場面という場面がない。活躍したいと思っても周りが強すぎてついていけない。
森での蜂の巣探しでは、一度はキラービーと戦ったものの、あまり自分が目立ったと思える部分はなかったし。
ヤサイダー戦ではケイが一瞬で終わらせたし。カブトムシ戦では俺では太刀打ちできないと判断してケイに任せたし。
アンデスでもギルドメンバーに助けられたし。唯一活躍できたとしたら、スターでの拠点確保くらい。
だけど、戦闘ではないので実質ノーカンだ。このメンバーでのバレンさんはケイとは色違いの狼だが、瞳は赤かった。
バレンさんの赤い瞳は生まれつきなのだろうか? もしこのゲームの瞳の色が現実と共通なら有り得るかもしれない。
「アル中の野郎。こっちの道も照らしとけよ……」
「バレンさん。どうしたんですか?」
「小娘は黙ってろ! 暗いのは得意じゃねぇんだよ!」
やけにピリピリしているこの状況。バレンさんの紫炎で照らせばいいのに、どうやらめんどくさいらしい。
フォルテさんはバンバン使うのに、バレンさんはものすごく状況を見て、体力をあまり消耗させないタイプのようだ。
となると、現実世界で狼の姿になってまで結人さんから逃げていたのは、不必要な行動だったのかもしれない。
内心『余計な労力をさせやがって』的な感じだったのかもしれない。そう考えれば、さらに怒るわけだ。
結人さんに追いかけられることでの体力消耗と、大きな容器3つ分の採血。メルのイタズラのトリプルパンチ。
バレンさんが機嫌を悪くしている気持ちがだんだんとわかってくる。俺が言うことは何もないし。きっとバレンさんも受け付けてくれないだろうから、口出ししないことにした。
「バレンさん。バレンさんはフォルテさんみたいな索敵能力はないんですか?」
一度気になったことだけ問いかけてみる。
「索敵能力? それってなんだよ。そうか、アル中の野郎。んだから道わかったんか……」
「というと?」
「あいつ、マップが表示されないエリアで迷ったことねぇんだよ。しかもあの紋章を刻印してからな。雷は道があればそっちの方へ流れていく。きっと脳内ビリビリビンビンアンテナ立ってんだろうな。アル中の野郎もう使いこなしてんのかよバーーカ!」
本人がいないのに、羨ましそうで恨んでもいそうな発言をするバレンさん。俺はどう答えればいいのかわからなくなった。どうやら、紋章によって潜在能力も違うようだ。ところでバレンさんの能力は紫炎を発生させるほかに何があるのだろうか?
たしかに炎を扱うことができるのはかっこいい。ただ、バレンさんもフォルテさんと同じようなオーラを放っていた。きっと、同党の地位にでもいるのだろう。もしそうだったとしたら、見えてる次元も違うのかもしれない。
「バレンさんは、紫炎を扱う以外に能力とかあるんですか?」
「んなもん知るか!」
バレンさんはまだ機嫌が悪いらしい。やっぱり話しかけない方がよかっただろうか?
対するアリスはというと、視線を一ヶ所に向けたまま無言になっている。さむがっているようには見えないし。どちらかというと緊張しているような様子だった。
「なんか、ここ薄暗くて怖いです」
「だよな……」
「なんで人によって態度変えるんだよ!」
「ちょっバレンさん……」
俺の口調の違いにバレンさんが突っ込んでくる。そのツッコミ方もやや無理があるような割り込みだった。やっぱり人によって変えるのはタブーなのだろうか? 目上の人であろうバレンさんではあるけれど、それだから話し方を変えている。
それがダメならどのように話せばいいんだろうか? 正直よくわからない。そもそも、俺はアーサーラウンダーに入ったばかりだし、それぞれの人柄も全体10割と考えればまだ1割未満かもしれない。
そんな、不思議が詰まったギルドに俺はいる。それよりも今に集中した方がいい。
「カケル。なんか嫌な音がします……!」
「嫌な音?」
俺は耳を澄ませる。すると、まるで小声でささやいているような音が聞こえてきた。
「確かに耳障りな音がするな……」
「バレンさんも?」
「おん……」
バレンさんの顔が青ざめている気がする。俺は少し歩くスピードを上げた。これは先に俺が確認しに行くしかない。薄暗い通路。いつの間にか弾むようなリズムを奏でる用水路の水の音。心霊スポットのような恐怖感を感じさせる中、ついに開けた空間に出た。
そこは円形をしていて塔の中にいるような場所だった。
俺は周囲を見回す。しかし、そこにはなにもいない。通路が二か所あったということは、双方に鍵があるということ。だが、その鍵を持っていそうな。または宝箱みたいな物が一つも見当たらなかった。
「おいザコ! いくら副団長とはいえ置いてくんじゃねぇよバーーカ!」
「いやいや、先に視察するのは俺の仕事だと思っただけだから」
「それでもだ! 小娘ももたもたすんな!」
「ごめんなさい……怖くて……」
(それ以上にバレンさんが怖いから……)
俺は喧嘩腰になりかけてるバレンさんに向けてため息をつく。すると何かが俺の耳に触れた。気になったので手で拭ってみると、糸状のものがこびりついた。これはもしやと天井を見てみる。そこには大きな女郎蜘蛛が居座っていた。
これがこのダンジョン・地下通路のボスなのだろう。しかし、俺には遠距離攻撃ができない。できるとしても、大ジャンプをして一撃ずつ与えることくらい。
俺がどう戦いやすくするかを考えてるとバレンさんの右手甲が力強く光った。気が付けば、彼は宙に浮いていて、そのまま女郎蜘蛛の方へと向かっていく。
「ザコ! 小娘! こいつを落とすから好き勝手にやれ!」
「す、好き勝手って……」
「副団長なんだろ? 指示くんねぇから俺は勝手にやってんだ。俺を制御してぇならケイ以上の適格な指示をしてもらわないと困る」
(そんなの無理だって)
俺はケイじゃない。ケイみたいに予知することができない。カブトムシ戦でやった指示はただの偶然に他ならない。しかし、今彼はいない。ここは副団長としての活躍をする番だ。
やるしかなさそうな雰囲気に俺は深呼吸をする。俺が最初にできることは敵の動きを全て把握すること。人の動きは不確定でわかりづらいが、機械で制御されている魔物はモーションという初動で次の動きを探ることができる。
攻撃方法の探り合いはバレンさんが叩き落したタイミングから始まる。俺に観察眼というものはあるのだろうか? それはやってみなくちゃわからない。やってみないとわからない。
「落とすぞ!」
「了解!」
応援よろしくお願いします!!!!!!




