第45話 ぐるぐる回って
短期間休養後一発目!!
その後俺たちはメルに案内されて建物の中に入った。そこでは責任者と見られるエルフとケイが口論をしている。
そんな状況に俺は戸惑ってしまった。こんな状態でメルを引き取ることはできるのだろうか?
バレンさんはうたた寝をしているし、フォルテさんは別の受付嬢にお酒を要求しているし。
どれだけ自由度の高い空間なのか……。
話に加わりたいけど、あっちは言い合いこっちも言い合い。まともに話せそうな人がアリスとヤマトくらいしかいない。
「どうしようか……」
「カケルさん?」
「ん?」
「いや、何でもないです」
気になる。気になりすぎるメルの言葉。今は切り出しづらいのかもしれない。メルを引き渡すように説得するケイ。それに反論する責任者。その熱は、もわんと蒸し暑く感じるくらいになっていた。
どちらも譲ろうとしない。そもそもギルドに入ると決めたのはメルで、彼女引き渡すことが通常の――多分――流れだろう。
でも、この責任者はどうにも聞き分けの悪い性格のようで、全く引き下がろうとしていない。むしろ、ケイに圧力をかけてるような、怖い形相で怒鳴り返してるくらいだ。
それなのにケイも食い下がろうとしない。自分の意見をはっきり言おうと、かなり大きな声で対応している。声量は別として、冷静さではケイの方が断然上だった。
だんだん言い合いが下火になったところで、俺が言葉を挟む。
「あの……。どうしてこんな状況に?」
「それがわからないんだよなー」
「フォルテさん?」
「いや、オレもあと組だったんだけどさ。気づいたらこの有様さ」
フォルテさんも理解できてないようだ。だけど、それよりも不自然なのはバレンさんだった。
こんな怒号のような大きな声が飛び交う中で、何も感じていないかのように寝ている。
「あ、酒ダチならログアウトしたぜ。どうやら結人から呼び出し喰らったみたいでさ」
「だけど、アバターが……」
「スリープ状態でログアウトしたって言った方が良かったか……」
「な、なるほど……」
けど、どう操作すればできるのか。それはもう少し勉強しないと楽にプレイできないと思った。
俺はフォルテさんにやり方を教わり、スリープ状態でログアウトさせる。目覚めた場所は、ケイの家の一室だった。
ケイ――景斗の母親の部屋。やっぱり知らないゲームの山でベッドが囲まれている。
というよりも荒らされている? 綺麗な山になっていた山は、一部が無造作に崩されていた。
俺は、隣でゲーム内に潜り込んでいる大樹を踏まないように気をつけながら、ベッドからおりる。
部屋から出たタイミングで、結人さんの部屋が明るいことに気がついた。
結人さんの部屋は窓が2箇所か3箇所くらいで、前回入った時を思い出してみると、全てカーテンがかかっていた。
だから、きっと誰にも見られたくないことをしているのかもしれない。俺は耳を澄してみる。
するとバレンさんの声と結人さんの声が断片的に聞こえてきた。
『なんで毎回結がやってる研究の材料に俺の血を使うんだよ。結なら必要無いだろ!』
『そう言われても、僕のいた世界とこっちじゃ凝縮させても足りないし』
『たかが魔力だろ? 俺は魔力生成器かよ……』
『べ、別にそんな怒らなくても……』
どうやら結人さんとバレンさんは"魔力"というもので揉めているようだ。そういえば、文献に魔力に関する記述はなかったけど、もしかしたら本当に表に出してない情報かもしれない。
俺は少しづつ部屋に近づく。階段をゆっくり降りて、2階フロアへ。階段の位置と結人さんの部屋は正反対の場所にあるので、できるだけ足音を立てないように移動する。
すると、部屋から誰かが暴れるような音がしてきたかと思えば、バレンさんが勢いよく飛び出してきた。
俺が部屋の入口に立ってたら、きっとぶつかってただろう。だけど、その時にはバレンさんの姿がなかった。
恐る恐る部屋の中を覗くと、結人さんの姿も消えている。俺は、部屋中探し回ると、1階フロアに赤眼の狼を見つけた。
こんな場違いなところに狼がいるのは不自然だ。その数秒後俺の目の前で面白いことが起こった。
結人さんが何も無い場所から顔を出したのだ。俺はこんがらがった頭の中を整理する。結人さんはどうやら赤眼の狼を追いかけてるようだ。
「バレン……。待って……」
「やだね」
「待ってって!」
あらゆるところから顔を出す結人さん。それをいとも簡単に回避するバレンさん。彼らは一体何がしたいのだろうか?
まだ剣が飛んでないだけいいけど、これがこの家庭の日常なのだとしたら、俺たちの普通が完全にひっくり返る。
こんな家庭でもきっと景斗やフォルテさんは何食わぬ顔で眺めているに違いない。
「よし、捕まえた!」
「ったく、俺より体力無いくせにちょこまか追いかけてきやがって」
「まあ、僕は空間移動の方が慣れてるからね。移動速度では僕の方が上だよ」
「いいよな。ったく、不必要な体力消耗させやがって」
「それは、バレンが逃げるからだよ」
どうやらようやく決着がついたらしい。確かに結人さんの動きは速かった。というよりも、異次元級だった。
まるで分身しているかのように見えて、俺もどこから出てくるのかを考えたくらい。瞬きひとつでもう別の場所にいたので、バレンさんが疲れるのは当然だ。
「さて、バレン。例のお願い……!」
「どうせ、俺の血っつーことはわかってるよ。仕方ねぇ……」
結人さんがさっきから欲しがっているバレンさんに血。それにどんな理由があるのか知らない。
それでも気になった俺は一度3階に急いで駆け上がり、バレンさんが結人さんの部屋に入るのを待った。
応援よろしくお願いします!!!!!!




